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私はヤンデレが好きですが、彼がヤンデレなのかは分かっていません。

食欲もないし食べたくない。なのに、王子がガン見してくるから罪悪感がある。

作ってくれた人に悪いし、少しは食べたほうがいいかな?


「・・・」


パイ生地で蓋がされているカップに手を向けると、蓋になっているパイ生地をスプーンで崩して中に押し込む。橙色のスープが見えたけど、甘いカボチャのスープだろうなって予想できた。

だって、王城での会食のときに、あまりに美味しくておかわりしたのを王子に微笑まれた覚えがあるもん・・・よく覚えていて引く。

顔に出したら変なことされる可能性があるから、ゆっくり食べよう・・・美味しい、王城で出されたのと同じ味がする。


「あまり食事を取らないと聞いたよ。好きなものなら食べてくれると思ったんだ」


黙々と、セルジュ王子を見ないように食べていたら声を掛けられた。

視線を向けたら、王子はテーブルに両肘を立て、指をクロスしている手の上に顎を乗せている。その体制でずっと私を眺めていたみたい。

この人、用意された食事を食べないのかな?・・・食器はフォークが置いてあるだけだから、あまり食べるつもりはないみたい。私の食べる姿を観察したいだけか。趣味悪い。


「これからのことを考えて体力をつけないとね」


にっこり笑って何言ってんの?スープの中にあったカボチャの欠片が変なところに入りかけた。危うく噎せそうになったけど、ワイングラスに注がれた水を飲んで引っかかりを流し込む。


「・・・これからのことって」


「ん?」


「いえ、何でもありません」


小さな呟きが拾われそうになったから遮った。そこの話を広げてしまうと、今日は無事で済まない気がしてならない。その、そういうことは前世でも経験がないからはっきりと分からないけど、王子に体を許すなんて想像するだけでも嫌悪感が凄まじい。

だから、追求されないように話題を探さないと。何かないかな、何か・・・そうだ! 


「あの」


「何?」


向かい合う笑みが濃くなる。嬉しそうな顔なのに恐怖を覚えてしまう。


「聖魔祭はどうでしたか?」


私の言葉にセルジュ王子の顔が少し引き締まった。いや、感情が変わった?私から視線を外す。ワイングラスを取る動きは気怠げで、どこかつまらなそうに見える。

質問が良くなかったみたいだけど、気になることではあるから聞きたい。「聖魔祭」でゲームのヒロインと攻略キャラ達は絶対に出会う。攻略筆頭である王子も途中抜け出してはいたけど聖魔祭には行った。だから、ヒロインに会っているはず。

彼女はウィザードに選ばれる存在だからセルジュ王子だけでなく、王族ひいては国王も着目する。聖魔祭で注目されたヒロインは、周りの後押しもあって王子と交流を深め、最終的に求婚をされて妃になる。それがセルジュ王子ルートのエンディング。

ヒロインと出会っていれば、この人が変わるきっかけになると思う。本来の性格に戻るとすら思う。

彼女は才能のある美少女ってだけじゃなく、清廉で優しいながら自分の意志がしっかりした良い子だった。私もグッズを買うほどには好きなキャラ。

この人の気持ちすら変えられる。私なんて見限って好きになると思うんだけど・・・。


グラスの中のワインを一口飲むと、王子は頬杖を付いて私を見てきた。真っ直ぐに見つめてくる。いい加減、見つめるのは止めてほしい。


「さあ?公務で少し参加しただけだから知らないよ」


「知らないって、国で最も重要な催事です。あなたにとっても重要でしょう?」


「平民からウィザードが選ばれたとか父上が言っていたけど、どうでもいいから興味がない」


「どうでもいいと切り捨てていいものではありません」


嘘でしょ、ヒロインと出会ってないの?国王が言っているウィザードがヒロインなんだけど、会っていないってことは会場にも行っていないことで、ああ、あの「マナの宝珠」に選ばれるときの光に包まれたヒロインを見ていないとか、意味が分からない。あのシーンはゲームでも屈指の美麗なシーンで、神秘的で美しいヒロインに皆が視線を奪われる。私だってリスベットにならなければ実物を見たいと思ったくらいなのに!

いや、待って、そうじゃなくて、


「また、ぼんやりしているね」


「色々思うところがありますから・・・ウィザードは王家に仕える最高位の魔法使い。それを興味ないと一蹴されるのは如何なものかと思います」


「真面目だな・・・ああ、否定的には言ってないよ。君の真面目さは美徳だ。たまに目が眩みそうになるけどね」


見つめてくる目が細まる。なんか、捕食者みたいな目をしている。マジマジと私の形を確かめるように、肌を撫でるように動く瞳が恐ろしい。

怯えちゃ駄目だ。飲まれてしまう、しっかりしないと!


「・・・ウィザードは興味がないと捨て置いていい存在ではありません。あなたの」


危ない、妃になる人って言いかけた。私は性別も年齢も知らない位置にいるんだから、気を付けないと・・・よし!


「・・・あなたが国王となったときに仕えてくださる方です。臣下となるのですから、ウィザードとはすぐに関わりを持つべきだと思います」


「今の君は僕を支えるために進言する妃のようだ。いいね、こういう会話をするのも悪くない」


「セルジュ王子、私は真面目に」


「はっきり言うよ、君以外の人間に興味はない。本当にどうでもいいし、仕えるのなら勝手にすればいいとしか思わない。仕えたくないのならそれでもいいよ。ウィザードなんて僕にとってはそれくらいの存在なんだ」


感情のない冷めた物言い。よく通るはっきりした声のせいで気圧された。これ以上は話さないとばかりにセルジュ王子は口を閉ざして、フォークを掴むと肉料理を突っつく。

この人、意志の強さが変な方向に行ってる。今の態度も有無を言わせない雰囲気があるし、話の続きなんてさせてもらえないと分かる。

完全にお手上げ。気持ちも落ちて顔も下に向いてしまった。


「あなたは私の知っているセルジュ王子じゃありません」


つい、漏らしてしまった言葉。それに王子がフッと息を漏らす。


「僕は君の知っているセルジュだ・・・ずっと気持ちを抑えていたから君の知らない姿が表に出てるだけ。だから、落ち込まないで。これから本当の僕を知っていけばいい。どれほど君を愛しているか、教えてあげる」


膝に向けていた視線の端に王子の手が映った。ゆっくり近付いてきて、私の顔を触ろうとしている。

もう触ってほしくない。顔を横に向けることで、手から逃れた。でも、その手は引っ込まずに私へと差し出すようにあり続ける。

聞こえる、王子の笑い声が。何かが楽しいのか含み笑いをしていた。


「その嫌がる仕草も可愛いよ、リスベット。君は何をするにも可愛い。僕だけの愛くるしい人」


歯が浮くような言葉が耳障り。こんな人と一緒にいるのが苦痛すぎる。

テーブルの料理の殆どに口を付けていないから、作ってくれた人には悪いけど、食欲も完全に失せたから食べたくない。


「気分が悪いので失礼します」


自分の態度の悪さなんて気にしない。だって、私は強いられてる。この人に従うように強いられているから、反抗してもいい。自分の意志を通すことが悪いはずがない。

座っていた椅子から腰を上げれば音が立ち、足が当たったテーブルも揺れた。私は気にしない。このまま食堂室から出て、


「あっ!?」


王子に腕を引かれた。私の視界には彼の顔。穏やかな笑みを浮かべた、目がギラギラしている顔しかない。素早く動いたセルジュ王子に抱き寄せられた。ゆっくりだけど状況が理解できた。

でも、暗い青い瞳が私だけを見ている。それが怖くて状況を理解したくない。


「態度が悪かった、ごめんね」


「・・・謝る気持ちがあるのなら、私を開放してください」


「フフッ、できるわけがないだろう?」


何かがおかしかったみたいで王子は笑うけど、目は笑っていなかった。ひたすらに私を見てる。視線の強さから次の言葉を躊躇ってしまった。


「聖魔祭の話題はしたくなかったんだ。最中にグラン家を襲撃したのがバレてしまった。無数の死体の中に君がいないのも気付かれたから即座に中止になったよ。今はグラン家主導で君の捜索がされている」


「グラン家が私を探してくれている?」


驚いた。

いや、まだ価値があるから放棄はされないはずだと願っていたけど、あのお父様とお兄様が本当に私を探してくれているなんて・・・嬉しい。それに、希望が見えてきた気がする。


「もう君とグラン家とは関係ないはずなのにね。予測が外れたよ。連れ出せば捨て置くと思ってた」


「私も」なんて同意すれば、考えが同じだと喜びそうだから止めた。


「国内全土に渡って大捜索しているみたいだよ。他の貴族も捜査を手伝っているようだ」


「そう、なんですね・・・そう」


ホッとして口元が緩んだ。僅かだけど安心してしまった。

安堵の感情は王子のせいで塗り替えられる。


「でも、助けがくるなんて思わないほうがいい。そもそも『助け』という言葉は適切じゃないな。僕は君を害してはいないんだから。愛してるから、ずっと一緒に居られるように捕まえただけ」


「・・・自分が狂っているとは思わないのですか?」


「酷いことを言うね。でも、僕は許すよ。君の毒のある言葉も可憐な声で奏でられるから聞き心地がいい」


キザったらしいし、何よりイカレてる。

もう、この人は取り返しのつかないところまで変わってしまっていた。

これが私のせいだとしても、私にもどうにもできない。できるのは、この人の思い通りにならないように行動をするだけ。


「・・・部屋に帰ります。もう離してください」


「何度でも言うよ、嫌だ」


抱き寄せられたまま、腰を押されて歩かされる。ぴったりとくっついているから温もりが気持ち悪い。歩きづらい。

ああ、また強い視線を感じる。どれだけ私のことを見つめるんだろう?この人には見られることすら嫌になっている。

でも、頭が痛くなるようなことは言わなくなったし、部屋には戻してくれるみたい。真っ直ぐに私の部屋・・・そう思いたくはない部屋に近付いていく。

このまま、ここで別れてくれたらいいんだけど。そうは、


「あっ、何を」


部屋のドアの前で王子は立ち止まると、肩に手をかけて私の体の向きを変えた。対面するように、顔を上に向けられ、


「んんっ、ん!」


視界一杯の青い瞳。唇が塞がれて、唇に、口、キスされてる!!柔らかい感触と温もりが、いやっ!気持ち悪い!止めて!!

胸を押しても離れない。足を踏んでもビクともしない。私の唇には王子の唇が、目がずっと私を見ている!


「んっ!!んんっ、やめ、ぁんっ」


唇が離れたから声を出そうとした。でも、開いた口に何かが入ってきて、口の中に柔らかくて温かいものが這い回ってる。

気持ち悪い!感触も熱も嫌!私の口の中を触らないで!舌に、絡んで!?ああ、このやわらかいの、王子の舌!?


「んんーっ!!」


嫌だから頭を動かして逃げようとしたけど、いつの間にか頬に手が当てられて固定されていた。

ゾワゾワする!口の中が気持ち悪くて、舌が擦られて、熱くなって嫌!!息がうまくできな、クラクラ、する!!


「んん、はぁ、ぁあ・・・はぁ・・・」


セルジュ王子の顔が離れていく。クラクラして頭が支えられなくて、体ごと預けた。キスされた。初めて、キスした。こんな人と、舌が口の中に入ってきて、口が、気持ち悪い。

ぼんやりしてたら顎を手で持ち上げられる。王子の顔があって、近付いてきて、口を、やだ、舐めないで・・・。


「やぁ・・・いやで、す・・・」


「・・・少し激しかったかな?でも、慣れれば息も上がらなくなる・・・」


胸、触られてる。服の上から、ああ、やだ、指が中に!


「すぐにでも君を抱き締めたいけど、もう行かないといけない。あのアシュレイに君の誘拐について話が聞きたいって言われてるんだ・・・だから、今日はここまで」


ドアが開いて、中に入れられる。胸にあった手も離れて、肩を撫でられて、嫌!もう嫌!!


「二度と私に触らないで!!」


感情が爆発してしまう。セルジュ王子の姿すら見たくないから力一杯にドアを閉めた。入ってこないように体を使って塞ぐ。

力で勝てないって分かってる。こじ開けようとされたら敵わない。でも、入ってほしくないから、触られるのもキスも嫌!!


「・・・おやすみ、リスベット。また明日、沢山話そう」


それだけ言うと、足音が遠ざかっていく。王子がいなくなった。もう、いない、側には・・・。


「うぅ・・・っ、はぁっ、うぅぅ・・・」


涙が溢れていく。体から力が抜けていく。冷たい石の床に座り込んで、視界がぼやけて、苦しい。胸が苦しい。

キスがこんなに気持ち悪いなんて思わなかった。あの人だから、王子だから気持ち悪いんだ。あんな、口の中を舐め回して!

不快感を無くそうと口を手で拭った。力を込めて何度も拭って、名残を消したかった。

溢れる涙を引っ込ませようと顔を上げたら、テーブルの上に何かある。洗顔用の水が張った金属の桶だろう。


立ち上がって急いで口を濯いだ。中の気持ち悪さが無くなるまで、何度も、何度も・・・何度でも!


「・・・はぁ」


ああ、顔までビショビショ。ドレスも少し濡れてる。もう脱いでしまおう。リボンを・・・リボンを解けば簡単に脱げるなんて最悪のドレスよ。王子に気付かれなくて良かった。


(でも、キスをしてきた。そろそろ限界なんだ)


多分、私と・・・ああ、考えたくない!そんなことしたくない!!しっかりしないと、押し倒されて終わりよ!!

リボンを解いてドレスを脱いだ。投げ捨てたい気持ちは抑えて椅子にかける。顔も、口を濯いだときにビショ濡れになったから、用意されていたタオルで拭いた。


グラン家は、お父様とお兄様は私を探してくれている。でも、この砦にすぐに辿り着けるとは思えない。辿り着く前に限界を迎えたセルジュ王子に犯されて、妊娠してしまう。

私自身が踏ん張らないと、王子の思うように事が進んでしまう。思い通りにならないために頑張らないと!


下着姿のままでベッドに近付いた。水色のネグリジェがその上に広げて置かれている。

私は屈んで、ベッドの下を覗き込む。王子のお祖母様の日記と魔法の教科書は無事。

この二冊の本は心の支え。屈しないと決意をさせてくれる・・・───。

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