表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/22

09話:坂野の家の事情

 それから数日後の放課後。


 今日も俺は坂野と一緒に図書室で試験勉強をしていた。


「あ、そういえばさ」

「ん? そういえばって?」


 勉強を始めて数時間が経過した頃。俺は休憩がてら少し雑談でもしようかなと思って坂野にこんな話を振ってみた。


「そういえば坂野ってさ、生まれはこっちの方なのか?」

「……え? どういう事??」

「あぁいや、坂野っていつも標準語を喋ってると思うんだけど、でも時々イントネーションが微妙に違う気がしてさ。あとワクドナルドの事をワックじゃなくてワクドって略したりしてるじゃん? だからもしかして坂野は関東出身じゃないのかなって何となく思ってさ」


 俺は少し前からそんな疑問を持ってたので、せっかくなのでこれを機に尋ねてみる事にした。ちなみにワクドナルドとは日本で一番有名なハンバーガー屋さんの事だ。


「あーなるほど、そういう事ね。うん、そうだよ。私は出身は東京なんだけど、でも子供の頃に家庭の事情で大阪に引っ越したんだ。それで私が中学を卒業するタイミングでまたお父さんの仕事の都合で東京に戻って来たんだ」

「あ、そうなんだ。なるほどな」


 どうやら俺の予想通り、坂野は今まで大阪の方で暮らしていたらしい。でもたったの数年であちこちに移動していってるのは何だか色々と大変そうだな。


 まぁでもそういうプライベートな話は聞かれたくない事もあると思うので、俺はその家庭の事情とやらの話は深く聞かないでおく事にした。


「あ、それじゃあイントネーションが微妙に違うって思ったのは、坂野には関西弁が入ってるからって事か?」

「んー、まぁそうね。でも関西弁ってか訛りだけどね。こっちに戻って来てから私はあんまり関西弁は使わないようにしてるしさ」

「え、何で?」


 確かにそう言われてみれば坂野の口から関西弁を聞いた事は一度も無い気がするな。


「いや結構前にテレビ番組でやってたんだけどさー……関西弁って何だか語気が強く感じるっていう話題を取り上げられててね。それでまぁ別に怒ってないのに怒ってるんじゃないかって思われるのも嫌だから、こっちに戻ってきた時に標準語に戻したってわけ」

「へぇ、なるほどなー。でも関西弁って言っても色々と種類があるんじゃないの? 京都弁とかなら全然語気が強くないだろうし、むしろ雅な感じがしていいんじゃね?」

「あー、まぁ京都弁はそういうイメージが強いよね。でも私が住んでた所は大阪の南側だからさ。そこら辺はコテコテの大阪弁っていう土地柄だから東京の人からしたら怖いっていうイメージは持たれちゃうかもしんないんだよね」

「へぇ、地域によってそんな違いがあるんだな。はは、でも関西弁を喋れるって良いよな! 何かカッコ良い感じがするよ!」

「んー? はは、何言ってのよ。方言にカッコ良いも悪いもないでしょ?」


 俺がそんな事を力強く言っていくと、坂野はいつも通りケラケラと笑いながらそう返事を返してきた。


「いやいや、方言を喋れるのってすっごいカッコ良いって! あ、そうだ。せっかくだしさ、それなら良かったら何か関西弁で喋ってみてくれよ」

「今から関西弁を? えー、そんな事を言われても……うーん、あ、そうだ」


 俺がそんなお願いをすると坂野はちょっとだけ悩んでから何かを思いついたような声を上げてきた。


「よし、それじゃあさ……健人のために物凄く有名な関西弁を披露してあげるよー」

「え、物凄く有名な関西弁? へぇ、それって一体なんだろう……?」

「うん、それじゃあ早速披露してあげるよー」


 坂野はそう言ったと思ったら、突然とふふっと柔和な笑みを浮かべながら……。


「……ウチなー、アンタの事……めっちゃ好っきゃねん」

「……え?」


 坂野は柔和な笑みを浮かべながら俺に向かってそんな言葉を発してきてくれた。


「……え……って、えぇっ!?」


 俺はその言葉を聞いてビックリとしてしまい大きくのけ反ってしまった。当然だけど俺の顔は耳の方まで真っ赤になってしまっていた。


「ふふ、どうよー? 一番コテコテでわかりやすい関西弁だったんじゃない?」

「え……えっ!? あ、あぁ、うん、そ、そうだよな……」

「うん? どうしたの健人?」

「えっ!? あ、あぁ、いや、何でもない! 何でもないよ!」


(そ、そうだよな……関西弁を披露しただけだよな……)


 もしかして坂野が俺に向けて告白をしてくれたのかと思って滅茶苦茶に動揺してしまったんだけど、でもそれは関西弁を披露するためにそう言ってきただけのようだった。


「……? まぁ何でも無いなら別に良いんだけど。それで? 私の関西弁はどうだった? ちゃんとカッコ良かった??」

「え……え?? あ、あぁ、うん、そうだな……うん、めっちゃ良かったよ……」

「ふふ、そっかそっかー」


 いやあまりにも攻撃力が高すぎだよ!!


(好きな女の子からあんな強烈な言葉を言われたらどんなヤツだってイチコロになるに決まってるじゃん!!)


 でもそんな率直すぎる感想を伝えるわけにもいかないので、俺は笑いながらそう言って誤魔化していった。いや、それにしても……。


(……それにしても、坂野って関西の方で育ったんだな)


 そう言えば俺が通っていた小学校で1~2年生くらいの頃に友達の誰かが関西の方に引越していったような気がするなー……。


 もうその引っ越した友達の名前も顔も思い出せないんだけど、あの関西に引越していったあの子は今も元気でやってるかな?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ