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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第十話 只今準備中です魔王さま
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10-2 ハルクックさんが特別

 エルフの国とか言う所にやって来て少し経った。


 俺は彩花さんと同じ部屋に閉じ込められて、食っちゃ寝の生活を繰り返している。

 他に何もることがない、というか何もさせてもらえずにただダラダラと毎日を過ごしているダケだ。


 最初は年上の女性と同じ部屋での寝泊まりだなんて緊張するなんてものじゃ無かったが、彩花さんはいつも通り何食わぬ顔で平然としているものだから、俺も一人で悶々とするのも阿呆らしくなって「こういうものなんだ」と開き直る事にした。


 きっと彩花さんが好きなのはネット世界のバーチャルな少年であって、リアルの存在には興味ゼロなのに違いない。

 まぁその方が俺も気を使わなくて済むから楽だ。


 だがそれ以外はまるで気が休まらない、というか落ち着かなかった。


 最初に見たエルフの女王さまの印象が余りにも強烈だったからだ。


 正に、この目の前で人が斬られたからだ。


 女王さまが剣を振り上げて、ひざまずく家臣の人に振り下ろしたからだ。


 切られて首が落ちて転がって居た。切られた胴体から噴水のように血しぶきが吹き出て、床が見る間に真っ赤になっていった。


 その人は、たった剣の一振りで死んでしまったのだ。

 ほんのちょっと前まで女王さまと話していた人が。


 しかもその人はこのエルフのお城に入る直前で、門番の人と口論していた人だった。

 話の内容はサッパリだったけれど、俺たちが乗る馬車を強引に調べようとする門番たちを必死に止めているようにも見えた。

 かばってくれていたのは間違いない。

 その人の最後があまりに唐突で、あまりにも呆気なくて実感が湧かなかった。


 目の前で起きた出来事なのに信じられない、というのが正直な感想だった。


 両足が震え始めたのは、その後の女王さまとの対面式を終え、部屋に案内された後だった。

 彩花さんがひっくり返っているその隣のベッドに腰を下ろし、少し前の光景を思い出した時だ。

 両足の震えは徐々に腰へと這い上がって、やがて背筋にまで登ってきて、気付けば両肩を抱えて震えていた。


 何かが少しでも狂っていれば、俺もあんな風になっていたのではないか。

 そう思った途端、居ても立っても居られなくなったからだ。

 しばらくベッドの上でそうしていて、ようやく震えが収まった頃には背中やわきの下が嫌な汗でべっとりと濡れていた。


 強がって「最初はビックリしたけれど、優しそうな女王さまですね」とうそぶいてみたけれど、直ぐさま彩花さんに駄目出しされて更にヘコむ羽目になった。

 反論してみたけれど、それも容易くひっくり返された。


 その時は悲観主義も大概たいがいにしてくれと腹を立てた。

 自分の考えを全部否定されて口惜しかったからだ。自分の意見が薄っぺらいと分かったけれど、素直に納得するのが面白くなかったからだ。


 明かりを消してベッドに潜り込むと、その日に在った様々な事がよみがえってきた。目が冴えて全然まったく眠るどころじゃなかった。

 俺の周囲に居た人達の台詞が次々に思い起こされて不安が不安を呼んでいた。

 何で俺は大丈夫だなんて思ってるんだろう。ただ思い込んで安心したいダケなんじゃないのか。そんな自問自答をする羽目になった。


 もしかして俺は、何も出来ず何も考えて居ない、脳天気な阿呆なんじゃないだろうか。


 彩花さんの言う「存在理由が限りなくゼロ」という言葉が、ジワジワと重くのしかかって来ていた。




 彩花さんは毎日のようにハルクックさんに呼び出されて部屋を出て行く。

 この部屋で俺と一緒に色々と話し合うことも在るけれど、大抵は二人別の部屋へと移動してここに一人ポツンと居残り、ただ戻って来るのを待つだけだった。


 時間をつぶそうにも手元に有るのは心許ない充電量のスマホだけ。

 彩花さんに借りた太陽電池で日々充電を繰り返しているけれど、なかなか一杯にはならない。


 ダウンロードしたソシャゲも通信環境皆無では価値も半減。

 やり込みすぎて飽いた内容をまたしても繰り返し、ただダラダラとした無意味な時間を過ごすだけだった。


 俺、いったい何やってんだろう。


 音楽聴き放題のコンテンツも、動画見放題のアプリもこんな場所では意味が無い。

 課金してダウンロードしておけば良かったと思ったけれども後の祭りだ。


 せいぜい撮り貯めたマイ画像やマイ動画を見直すのが関の山。

 しかしそれもだいたい午前中くらいで充電切れしてお終い。

 夜は勿論もちろん、雨の日や曇りの日は充電すら出来やしない。


「いったい何をどうしろって言うんだよ!」


 思わず叫んだときがあったけれど、部屋付きの世話係の人が泡食った様子で部屋のドアを開けて飛び込んできた。


 ストレス発散で大声出しただけです、と謝ったらあからさまな舌打ちをされた。


 本人の目の前でソレをするか、と思ったけれど騒いだのはコチラなので何も言わず終い。

 彩花さんみたいに適当な言い訳でも言えれば良かったけれど、生憎俺はソコまで機転が利く方じゃない。

 苦笑して軽く頭を下げただけで済ました。


 出て行きしな軽蔑した眼差しまでしてくれて、なんだかちょっと口惜しかった。


 基本外出禁止で食事は部屋に持ち込まれ、上げ膳据え膳だけどただソレだけ。

 部屋を出て良いのはトイレの時くらいのもので、場所は王宮の裏手の草むらの中。

 それもやはり見張り付きだ。


 何だかおりに入れられていた頃の状況によく似ている。

 日に二度の食事とベッドの上で寝られるから待遇は雲泥の差が在るけれど。


 後にって、此処ここの世界の人達は住居の中にトイレを造るという概念が無い、と彩花さんから聞かされてちょっと驚いた。

 町中に木々や草むらがうっそうとしているのは、ソレをしたりそういうモノを捨てる場所なのだとか。

 場所が決まっているだけマシだ、と彩花さんは言って居た。


 そういう問題かなぁ。


 それはかく、俺と口を利いてくれるのは彩花さんとハルクックさん位のものだ。

 顔見知りになった見張りのヒトに話掛けても、「無駄に話すな」と凄まれたダケだった。

 女王さま以外に話をした人なんてホントに数える程度だ。

 ごくたまにすれ違う他の使用人のヒトも、挨拶すらろくに返してくれない。


 ハルクックさんが特別なんだという彩花さんの言葉が、ジワジワと身に染みる今日この頃だった。

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