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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第十話 只今準備中です魔王さま
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10-1 公介くんの姿が見当たらない

 城内を見て回りたいと提案してみた。


 城内というか王都の街中だ。日がな一日王宮にもりっぱなしでどうにも気が滅入る。

 それに後学のためにもエルフの都と言うモノをこの目で見てみたい。

 別の視点から得るもの多かろうし、自分達の生活様式との比較から、今までよりもより具体的な提案が出来るかも知れない云々《うんぬん》。


 取敢とりあえず適当に理由を付けて、「知識供与」のかたわらハトポッポさんにささやいたのだ。


 賓客ひんかくなどと言われ相応に扱われているが、詰まるところわたしらはタダの虜囚だ。


 宮廷内で働く使用人、部屋付きの世話役と紹介された女性のエルフも、毎日慇懃無礼(いんぎんぶれい)といった面持ちで接しているし、廊下で時折すれ違う他の使用人や、要所要所に立つ衛兵からのチラ見える見下した物腰は少なからず鼻に付いた。


 ちょっと前にも公介くんが、部屋付きの世話役のヒトが落とした鍵を拾って手渡したら、ひったくるようにうばい取って、その後手桶の水で執拗しつように洗っている姿を目にした。

 ヤレヤレと言うべきか、ソコまで嫌うかと苦笑するべきか。


 さして高くもない身分のヒト達でもこの反応。

 上位の者となれば推して知るべし。

 そんなガチガチに凝り固まった、イヤーな価値観の者たちへの申し入れだった。

 素直に受け容れられるとは思って居なかった。


 しかしダメ元でも提案することが先ず大事。

 言わなきゃ何も伝わらないし、行動しなければ何も変わらない。


 極めて短い髪の極めて小柄な女性エルフのヒトは少し迷って「うーん」とうなった後、上の者に相談して来ますと言って部屋を出て行った。

 まぁ期待はしない方がよろしかろう。

 取敢えず言うコトは言うというスタンスを示すことが大事なのだし。


 コレでも「がっかり力」は高い方なのだ。


 だから彼女が戻って来て「許可が下りました」と言われた時には結構ビックリしたのである。


いくつか条件が在ります。

 必ず護衛を伴い我らの指示に従うこと。

 フードマントを着用し人前では顔をさらさぬこと。

 話すときには必ずエルフの言葉で話すこと。

 なにがしか行動する前には必ず当方の了解を得ること」


 基本的にはこの四つで、細かい注意点はその都度伝えると言われ、反した場合には二度と外出が叶わないと釘を刺された。


 何と言うか、当たり前に過ぎて逆に拍子抜けした。

 よくもまぁこの程度のしばりでわたし達二人の物見遊山ものみゆさんを許可してくれたものである。

 賓客という物言いがお題目だとしても、虜囚と言うには寛容に過ぎる扱いだ。


 もしかして、わたしら二人の取り扱いに戸惑っているのではなかろうかと思った。

 まぁいい、コレで少しでも公介の気晴らしが出来るのなら何よりだ。

 きっと喜ぶだろうと思って部屋に戻って彼に話したのだが、「ああそうですか」と素っ気ない返事があるだけだった。


「そ、外に出られるんだぞ、公介くん。部屋の中ばかりにもってつまらないと言っていたじゃないか」


「彩花さんが頼んでくれたんですね。ありがとうございます。そうですね、日がな一日此処(ここ)で時間が経つのを待つよりは余程良いですね」


 そう言って疲れた笑みを見せるのだ。


 どうしたんだろう、何だか随分とテンション低い。

 どうやらわたしが思っていた以上に気分がふさぎ込んでいた様だ。

 だが王宮の外に出て、町の中を散策すれば鬱屈うっくつした気分も少しは晴れるのではなかろうか。


 その時のわたしは、その程度に軽く考えて居たのである。




 外出の日になってわたしは公介くんとハトポッポさん、そして護衛という名目の、剣を持った二人のエルフのヒトに監視されながら街の中へと繰り出した。


 街は思った以上に賑わっていた。

 流石王都というべきか、来る途中に寄った町とは比べ物にならなかった。


 丁度朝市が開かれている最中だと一際ちんまいエルフのヒトが説明してくれた。

 ヒトは多いが皆小柄だった。

 エルフ、エルフ、エルフ。どっちを向いても居るのはエルフのみ。

 誰も彼も耳は尖っていて見渡す限りのエルフだらけであった。


 まぁ当然と言えば当然。

 ここはエルフの国だ。しかも首都だ。

 居るのが当たり前、居なきゃオカシイ純粋無比なエルフ濃度百パーセント。

 あ、いや、わたしらが居るからこの近辺じゃあ九九・九九くらいかな。

 ファイブナイン、いやシックスナインかも知れない。

 正確な比率は分からないけれど。


 そうと分かっては居たものの、こうして目の当たりにすると圧倒された。

 そして基本的にヒトの営みというのは何処も変わらないものなのだな、というのが当然のようでいささか新鮮な感想だった。


 他の街でもトールマン(ふつーにわたしたちの感覚でヒト)に混じってドワーフ(基本的に小柄でヒゲ面で筋肉質)やノーム(エルフ以上に小柄で耳の位置がヘン)のヒト達を見かけたけれど、店の在り方や市場に出ているパンや野菜や食材の数々。

 そして皿だの衣類だの薪だの日常的な様々なモノは、此処でも実に見慣れたごく普通の品ばかりだった。


 貨幣を使わずに銀粒での量り売り買いや、物々交換が基本なのも同じなら、人々が着ている衣服も大して変わらない。

 ただ言葉と身体の特徴が違うだけで同じヒトなのに何故、という感じだった。


 どうして此処ここまでの純粋培養的なみ分けをしなきゃならないのか不思議に思えるが、そう感じるのもわたしらが単に余所者だからなんだろうか。

 思惑だの信じているものだの生活風習だの、相容あいいれないものが在るのかも知れなかった。


 わたしらの世界でも些細ささいな違いで反目し合ったり、軋轢あつれきや棲み分けなんてごまんと在るしなぁ。


 何処でもヒトはヒトなのだな、と思った。


 それでも見た事のないモノや珍しげなモノはそこかしこに在って、ハトポッポさんにアレコレ訪ね聞きながら町中を歩くのは楽しかった。

 エルフの歴史や慣習など耳新しい話は実に多彩で面白く、わたしは熱心に質問を重ねながら彼女の語りに耳を傾けた。


 だがしかし、わたしは突然ある事に気が付いた。

 先程まで隣に居た筈の公介くんの姿が見当たらないのである。

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