気晴らしが出来るイベントが在れば
王宮なんて入ったのは初めてだ。
まさか自分が女王様なんて存在にお目に掛かる機会が在るなんて思わなかったし、その御在所に足を踏み入れる羽目になるなんて考えたことも無かった。
小説やマンガの中じゃあホイホイ登場するシーンだけれど、こうやって実体験するとも為れば、嬉しいとか驚きとか言う前に、コレは本当に現実なのかと疑いたくも為ってくる。
しかもリアルな女王陛下とのご対面だ。
眉に唾でも付けたくなるというものだろう。
実際謁見の間に入る前に、そっと試して見たのは内緒だ。
結局何も変わらなかったけれど。
当然か。
公介くんは真横でカチコチに固まっていたし、こちらの様子を面白可笑しげに観察していた女王さまの視線にも落ち着かなかったし、脇侍の二人には終始ガン飛ばされるし、返答に舌はもつれそうになるし、何とも神経すり減らすイベントだった。
アレだけで二、三キロ痩せたような気がする。
王宮とも為ればベルサイユ宮殿だとかドイツの古城だとか、その辺りのイメージが映画やアニメでの定番だけど、そういう意味では肩すかしだったと言っても良い。
良くも悪くも中世の木造建ての屋敷だった。
二階建てですらなくて、平屋のべたーっとした横に広い屋敷だ。
流石にやたら部屋数は多かったが豪奢という感じじゃ無い。
立て付けは良い感じだけれど、公介くんは「地味ですね」と何処か唖然とした様子だった。
きっと、ショボいという感想を呑み込んでの物言いだったに違いなかった。
平安時代の建物が、低い床と洋風の体裁を纏った屋敷、と言えば一番近いのかも知れなかった。
そういやお城と王宮が一つに為ったのは、わたしらの中世でもずっと後の方だと何かで読んだ記憶がある。
城とは本来砦で実用性一辺倒。
居住性は考慮されていなかった。
翻って此処では城塞都市そのものがお城と考えるのが妥当なんだろう。
ベルサイユ宮殿辺りになると単純な住居じゃなくなって、国王の権威を見せびらかす絢爛豪華な国の中心、貴族達を呼び集め中央集権で行なう政治の場だ。
最盛期は五千人以上が住み込みで働いて居たらしい。
別の資料だと宮殿関係者は一万人規模だとか。
ソコだけでちょっとした街だ。
此処の王宮はそこまで徹底している感じじゃない。
言っちゃ何だけど、規模も桁外れに小さいし質素だ。
羽振りの良い人のお屋敷よりもちょっと立派な王族の住居に、国のイベントや政治を行なう仕事場が隣接している。
そんな慎ましい印象があった。
大広間と言われた謁見の間も大会議室や集会場といった感じで、天井はそこそこ高かったがわたしらが持っているイメージよりもずっと狭かった。
小学校の教室よりもちょっと大きい程度の感じだ。
体育館の方が遙かに広い。
エルフの人達が小柄であるという事も在るけれど、コレがこの世界のスタンダードらしい。
ハトポッポさんに寄れば、大きな宴会や兵を集めての式典などは野外で行なうのが通例だとか。
まぁ阿呆みたいにデカい広間を造るよりはそっちの方が合理的か。
流石に大広間以外のドアの上枠が全て低かったのには閉口したが。
いったい何度頭をぶつけた事か。
「彩花さん、彼女をハトポッポさんと呼ぶのは止めましょう。ハルクックさんです、ハルクック。何万遍言わせるんですか。ましてや間違った呼び方のまま記載するだなんて、失礼極まりないですよ」
「な、何だよ。公介くん。ヒトのスマホを覗き込むのは良い趣味とは言えないぞ」
「時々チェックしないとイカガワシイ妄想ダダ洩れの記事書き込むじゃないですか」
「失礼だな。わたしが何時イカガワシイ妄想ダダ洩れのぬれぬれ破廉恥記事なんて書いたよ。それにコレは間違っている訳じゃあない。親愛の情を込めた愛称なんだよ。ソコを間違えてもらったら困るな」
「当人の了解もなしに愛称云々なんて言い逃れもいい所じゃないですか。はい、練習です。ハルクックさん」
「は、は・・・・ハトポッポ」
「何か意固地な小学生のへそ曲がり感が垣間見えますね。見苦しいですよ、大学生のクセに」
「最近きみも歯に衣着せなくなって来たな。親しき仲にも遠慮は必要だと思うぞ」
「遠慮が必要な程度には相手を思いやった物言いして下さい。誰だって自分の名前を間違えられたくは無いんですから」
最近の彼は辛辣である。
しかも正論を盾にするようになった。
まったく、何処でそんな物言いを覚えたのやら。
「正論ばかり口にしていると嫌われるぞ」
「別に彩花さんに好かれようと思っている訳じゃないですから」
「!!!!」
「あれ、どうしました。硬直しちゃって」
「い、いや、何でも無いよ」
たった今、わたしのライフエネルギーはゼロになった。
彩花を殺すのに刃物は要らぬ。公介くんがキライと言えばソレでいい。
今晩は夕食が終わり次第、早々にベッドに潜り込むとしよう。
一秒一分少しでも長く眠って、この傷ついた、クリスタルガラスよりも繊細なマイ・ハートを癒やさねばならない。
そして公介くんも大分参って来ているな、と思った。
こうして閉じ込められっぱなしじゃあ然もありなん。
檻に閉じ込められ、幌馬車に押し込められ、そして今は王宮の部屋にカンヅメだ。
時折わたしはハトポッポさんと一緒にバイクの解説や、諸々小出しにしているウンチクを説明するために部屋の外には出してもらえるが、彼は基本的にこの部屋ダケなのである。
どうやらわたしが何か不埒な事をしないようにとの威嚇、というか人質的なポジションに据えているらしい。
何か気晴らしが出来るイベントが在れば良いのに、と思った。




