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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第九話 エルフの国です魔王さま
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9-9 間違いなくサド

 俺たち三人が案内されて入ったのは、こじんまりとした部屋だった。


 王宮に謁見の間の他に引見の間も複数在って、此処は少人数で会する時に使われる場所だと教えられた。

 そう言われても「エッケン」と「インケン」の違いが分からない。

 椅子は一脚だけで机は無かった。先刻見た女王さまがそこに座り、左右に二人の脇侍を従えていた。


「面を上げよ、立つが良い」と言われた。


 だが言われて素直に顔を上げる事が出来なかった。


 言葉が分からなかった訳ではない。

 通訳されてその意味は理解出来たからだ。


 更に重ねてもう立ち上がって良いのですよ、と極めて小柄な女性エルフに囁かれたのだが、公介はどうしても立って「女王陛下」の顔を見ることが出来なかった。

 ほんの数一〇分前の惨劇が脳裏に焼き付いて離れなかったからだ。


 自分の迂闊うかつさに歯噛みする。


 興味に駆られて大広間の謁見の場、その末席になんて参加するんじゃなかったと、激しく後悔していた。


 別室で待機しているダケだったら、あんなシーンを目撃せずに済んだのに。


 知らないままだったら、もう少し落ち着いて対面する事が出来ただろうに。


 謁見の場に入れるのは限られた人達だけなんです、アヤカさんやコウスケさんは賓客あつかいなので望めば入れますよ、などと、甘い言葉に乗せられた俺がバカだった。

 特別なんです、というニュアンスに思わず目が眩んだのだ。


 なんで俺はこんなに特別仕様とか限定ものに弱いんだろうと、己のアホさ加減に腹を立てていた。

 コンビニ限定のスナック菓子(しか)り。

 特別限定と銘打たれていたせいで、うっかり買い換えた色違いの同型スマホ然り。

 普段なら絶対買わない紫ラメ色のスニーカー然り、有名万年筆メーカー創業ン十周年記念木目ボールペン然り、表紙の装丁だけ違っている既に持っているマンガ本然り。

 エトセトラエトセトラ・・・・


 カチカチと小さな音が聞こえて来る。

 ドコからだろうと思ったら、それは俺の奥歯からだった。


「公介くん。立たないと女王さまに悪い印象を与えるぞ」


 そう言われて慌てて、バネで弾かれたみたいに立ち上がった。

 我ながらカッコ悪いと思ったがそれどころじゃなかった。

 ヘタを打ったらあのヒトみたいに成敗されちゃうんじゃないかと、震え上がったからだ。


 恐る恐る目を上げると、玉座に座る美貌の女性と目が合った。 

 射貫かれるような眼差しで、また慌てて目を伏せた。


かしこまらずともよい。そなたらは客人として遇しよう。ハルクックと申したな。その二人を紹介してもらおう」


 極めて小柄な女性エルフから自分の名前と簡略化した素性(エルフの言葉なんでよくわからないけれど、多分そう)を紹介されて、「間柄公介です」とどもりながら自分の名前を口にした。

 ガチガチに固くて、まるで自分じゃない誰かが口にしているかのような、別人28号な自己紹介だった。


 あれ、俺ってこんな素っ頓狂な声だったっけ?


 対して彩花さんはいつも通りの彩花さんで、自己紹介の後に「ご尊顔を拝謁し恐悦至極」なんて、何処かの時代劇にでも出てきそうな台詞をスラスラと口にしていた。


 すげい。

 彩花さん、いつ練習してたんだろう。


 それに鋼の心臓だ。

 俺と一緒にさっきの光景を目の当たりにして、ボーゼンと立ちすくんで居た筈なのに。

 俺なんて自分の名前を言うだけでギリギリで、もういっぱいいっぱいだっていうのに。


 なんでこんな差があるんだろう。


 慌ててハルクックさんに通訳したけれど、半分も伝える事が出来なかった。

 何度もどもって、もつれる舌が自分のものじゃないみたいだった。

 頭の中が殆ど真っ白だった。


「ふむ、もどかしいな。アヤカと申したか。聞けばそなたは魔族の言葉も話すことが叶わぬとか。言を訳する者が二人も挟まって居っては挨拶すらもままならぬ」


 女王さまはそう言うと隣に控えていた一人に声を掛け、何事かを命じていた。

 命じられたエルフのヒトは何だか驚いて戸惑っていたみたいだけど、重ねて何かを言われて部屋から出て行った。


「コウスケさん。陛下はアヤカさんとあなたのお二人にお言葉を授けようとおっしゃっています」


「え、言葉?どんなのです」


「いえ、訓示とか祝辞とかそういった類いではなくてですね。エルフの言葉の、ええと何と言えばよいですか。わたし達エルフと同じ言葉を話せるようにすると仰っているのです。あの、意味は通じてますか?」


 話せるように?


 あ、ひょっとして店長さんがヘレンさんにやったアレかな。

 確かおでこを指でツンとしたら日本語を喋れるようになっていた。

 アレと同じ事をしてくれると、そういう事なのかな。


 そんなコトを話したら彼女は大変驚いていた。


「え、コウスケさんの国にも、わたし達と同じような魔術に長けた者がいらっしゃるのでしょうか」


 そんなやり取りを見ていた女王さまがハルクックさんに声を掛け、すぐに何事か返答していた。

 きっと今のを通訳しているに違いない。

 怖くてまだ真っ当に見ることが出来ないけれど、チラ見した女王さまの雰囲気が微妙に変化したような気がした。


 あー、ええと、コレは話さない方が良かったのかな。


 彩花さんに相談しようかと思ったけれど、女王さまの目の前でひそひそ話はまずいよな、と思い直し、取敢えず女王さまからの話をそのまま彩花さんに伝えた。


 すると一瞬、何故か、その顔が引きつったようにも見えた。


 出て行ったエルフのヒトが戻ってくると、ローブを羽織ったヒトも一緒だった。

 ハルクックさんの説明だと、そのヒトが魔法使いだという。

 そしてひざまずけなどとおっしゃる。

 そんなに偉いヒトなんだろうか、と思ったがそうじゃないと直ぐに知れた。


 彩花さんと一緒に片膝付いて上げた額に、魔法使いのヒトの人差し指が触れた。

 その瞬間、金槌で殴られたような衝撃があった。

 不意打ちもいいところで、ドコにそんな凶器持っていたんだと、反射的に絶叫しかけた位だ。


 頭の中で火花がバチバチ爆ぜていた。

 痛いなんてもんじゃない。

 こめかみに電極突き刺されて、カミナリ直撃クラスの電撃攻撃されているんじゃないかと思った。

 あるいは頭をデッカイ万力で挟まれて、頭蓋骨ごとギリギリと締め上げられるような激痛だ。

 声を上げることも出来ずに悶絶していると、ふと隣の彩花さんが目に入った。

 彩花さんも頭を掻きむしりながら、目を血走らせて苦悶の表情を見せている。

 食いしばった口元から涎まで垂れていた。


 ああ、俺もいま、こんな表情をしているに違いない。

 

 そのまましばらくの間、俺たちは二人仲良く頭を抱えて床に這いつくばる羽目になった。


 どれ位悶絶していたろう。

 二、三〇分位?いや四、五分か。

 痛みのあまり時間の感覚が無くなっていたけれど、気が付けば「大丈夫ですか」と覗き込んでいるハルクックさんが居た。

 大して慌てた風でもなく何処か軽い感じでの声がけだった。


  我に返って身体を起こすと、何食わぬ顔の女王さまと、その隣にやっぱり素知らぬ顔で立つ二人のエルフのヒトが居た。

 ローブのヒトは俺たち二人を見て軽く頷くと、女王さまに一言二言何かを言って、そのまま会釈をすると部屋から出て行った。


 全員拍子抜けするほどのアッサリした対応だ。

 俺と彩花さんの苦しみ様を見ていなかったのか?

 誰も毛ほどにも気に止めていない。

 俺たち二人のあの地獄の悶絶を、まるで端からなかったかのような振る舞いだ。


「あ、あの。ハルクックさん。俺たちどれ位うずくまっていました?」


「え?その、ほんの深呼吸一回分くらいですけど」


 え、ええ~。そんなバナナ。

 どう考えたって、たっぷりカップ麺が出来上る時間くらいは頭抱えていたと思ったのに。


 ひょっとしてアレか?

 優れたスポーツ選手がプレーの最中、自分以外のものがゆっくりと動いて見えるという、そんなスペシャルでワンダフルな体験をしていたってコトなのか?


 激痛の時間が長引くだなんて、ワンダフルもへったくれも無いけれど。


 確かに体育の授業でサッカーしていた時、クラスのスカタンが目測誤り、俺の顔目がけて至近距離でボールを蹴り込んだ時にも時間が吹っ飛んだことがあったな。

 いま思い出しても腹立たしい記憶だけれども。


 だけどコレは確かに床に膝を着いて居て良かった。

 立ったままだったら間違いなくひっくり返っていた。 

 でもこんな苦痛を伴うのならこんな対面式の最中じゃなくて、終わった後に自室か医務室のベッドの上でも良かったんじゃないかな。


 あ、対面式じゃなくて謁見だったっけ。

 でもどちらでも似たようなもんだ。


 未だ頭痛の残る頭を抱えながら立ち上がると、女王さまは実によい笑顔で「これでそなたらもエルフの知恵に触れられるようになったのう」などと言って居た。


 あ、確かに話している言葉が分かる。


 でもこのヒトは間違いなくサドだなと、確信した瞬間だった。

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