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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第九話 エルフの国です魔王さま
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9-7 覚悟はもう出来て居る

「彩花さん、何だったんでしょうアレ。通行手形は問題無かったんですよね」


「今まではほぼスルー状態だったからな。いまさら不備があったとは考えにくいよ。

 だが、何処の世界にもイチャモン付けるヤツは必ず居る。コンビニのバイトでも訳分からんクレームを付けてくる客は居ただろう?」


「あー、なるほど。クレーマーな金髪エルフなんですね」


「国や人種は違えども、ヒトが集まればいさかいは生じると、そういう事なんじゃないかな」


 ヤレヤレだなぁと公介くんは溜息をつき、この話題はこれで終わった。


 だが逆に、わたしはどうにもこうにも落ち着かなくなった。

 布の隙間から奥を見通した、やたら背の高い褐色のエルフ。

 間違いなくわたしと目が合った。


 外の明るさの中、暗い幌の中へよく目が利いたものだと思ったが、途中からヤツは片目を瞑ってやり取りして居た。

 きっと片目だけ暗さに慣れさせて居たのだ。

 そして隙間から覗き込むや否や、瞬時にわたしと公介くんを見通し、見定め、何かを確信したかのような微笑みを漏らした。


 油断成らんな、と思った。


 外の三人がやり取りして居た会話の内容は分からなかったが、わたし達が此処にこうして居るのは相当イレギュラーな事らしい。

 他の街を点々としてそれとなく気付いては居たものの、エルフの国はエルフだけのモノなのだ。

 他の他種族を受け容れるような、多種交流的な文化が希薄だ。


 どうやら彼らは自分達以外のモノは受け容れられない性情タチらしい。


 何しろエルフの街はエルフ以外の種族をまるで見かけなかった。

 途中で立ち寄ったトールマンの街や部落では雑多な種類の人々で溢れて居たのに、エルフの領内に入った途端キレイさっぱりなのだ。 

 街中には本当にエルフだけだった。

 エルフしか見なかった。


 隣のトールマンの街と馬車でほんの二、三時間程度の距離だというのに、境界を越えるとエルフだけの世界が拡がっているのである。

 それこそ、いったいどうしたコトかと思うほどの変わりようだった。


「・・・・」


 何と言うか異様だ。

 エルフの街以外を見てきたからこそ感じるのかも知れないのだけれども、違和感が半端ない。

 何だかゾッとする。

 道行く人々の話し方や物腰、やり取りなどは何ら変化は無いのに、目に見えない一線を越えただけで人の集まり方すらガラリと変わるだなんて。


「エルフって何者なんだろうな」


「どうしたんですか、彩花さん」


 単純な公介くんの返しだったのだが、わたしは素直に応える事が出来なかった。独り言のつもりで思わず漏れ出た言葉だったからだ。

 だから「ちょっと思ったダケ」と言葉を濁しただけだった。


 この異様さ加減を口にしても良かったけれど、公介くんを更に不安にさせても意味は無い。

 タダでも彼は女王に会うことでいっぱいいっぱいだというのに。


 それに何よりあの金髪褐色のエルフ。

 アレは間違いなく異分子を取り除こうとする者のソレだ。

 物心ついた頃から今まで、出会った人達の中にも何人か居た。

 あの手合いの人物は粘着気質で簡単には諦めない。


 厄介なヤツに目を着けられたと思った。


 と同時に、実に面倒くさい国に連れて来られたなとも思った。




「この二人をどうするつもりだ」


 それは何気ない独白にも似た語りかけだった。


「どう、とは?」


 質問の意味が分からなかった。


 自分は幹部会の決定に従ってただ面倒を見て居るだけだ。

 彼の二人の処遇に決定権を持って居る訳ではない。

 なので同じ御者台に座る幹部会長の問いかけに戸惑わざるを得なかった。


「我々は陛下の下命に従って魔族領へと赴き、トールマンとくつわを並べて魔王城を落とした。

 だが陛下がお望みであった深淵の壺の確保に失敗し、術無く目の前で破壊された。

 取り返しの着かない失態だ。

 それを僅かでも償おうと、魔族の男女と思しき二人と、見た事もない魔導具、あ、いや、フォクサンに寄ればカラクリ機械であったな。

 それらを手に入れて帰還した」


「・・・・はい」


「金五五〇〇〇は決して小さくない金額だ。だがそれに見合う価値がこの二人にあると思うか?あのカラクリ機械が我らエルフに途方もない程の益をもたらすと思えるのか」


「わたくし程度の意見を聞いてなんとなさいます。この二人の通訳を務め、身の回りの面倒を見てやれとおっしゃったのは卿ではありませんか。わたしはただその命に従って居るだけで」


「聞き方が悪かったな。今後どの様に扱うのが良いのかと聞いている。なに、単純におまえの意見を聞きたいだけだ。日々二人に接していれば色々と思う事も在ろう」


「繰り返しになりますが、わたしは幹部会の決定に従うのみです」


「取り繕わなくても良い。此処での会話はわたしの胸の中にのみ秘しておく。正直な感想を聞きたいのだ」


「・・・・迷っていらっしゃる?」


「ふふ、フォクサンに揉まれて随分と直裁的になったな。その通り、わたしは事ここに至っても迷っている」


「すいません」


「構わん、好きに話せと言ったのはわたしだ」


 そして横顔の視線だけで促されて、ハルクックは小さく唾を飲み込んだ後に口を開いた。


「最初二人に告げたとおり、あのカラクリ機械の助言者とその通訳として遇するのは筋。

 ですがそれだけで周囲が納得するとも思えません。

 深淵の壺を失い、それがこの魔力の希薄化を招いたのはもはや皆が知るところ。

 ソレの補填という意味合いでは余りにも弱すぎます」


「うむ」


「これより魔力の復活を目指すのは当然としても、今日明日それが果たされるとも思えません。ならばソレが成されるまで、他の方策で補う手段があったとすればどうでしょう」


「魔力以外でか?」


「エルフの本筋からは外れますが、手をこまねいてトールマンの跳梁ちょうりょうを指を咥えて見ている訳にもいきません」


「どの様な方策があるというのだ」


「これはアヤカ、あの背の高い女性から提案された話なのですが、自分達にはこの世界には無い、様々なすべや知恵が在る。相談役として改めて雇うと言うのはどうか、と。

 因みにコレは彼女からその一部を聞き取って書き綴ったものです」


 懐から取り出した数枚の羊皮紙には、事細かに様々な事柄が書き記されていた。

 「ふむ」と小さく呻く長髪の男性エルフの顔には、何とも表現しがたい感情があった。


「これはほんの一部です。わたしもつぶさに検証し、なる程と思うところも多々ありました」


「書かれている内容が事実なら、確かに興味をそそられるものでは在るが」


「鵜呑みにするのは危険ですから裏付けは必須です。ですがどれも面白い視点だと考えます。

 大事なのはあのカラクリ機械だけの話では無く、別途の世界から訪れた者の知見を得られるということではないかと愚考する次第です」


「おまえもフォクサンの話を信じているのか。あの二人がただの魔族ではなく、異界から訪れた者ではないかと」


「確証は在りません。ですが否定する材料も在りません。

 もちろん、彼女の知見が失われた壺の対価になると信じている訳でも在りません。

 されどこう考えては如何でしょう。

 金五五〇〇〇を積み、我らに無い知恵を持つ異界の客を招き入れたのだ、と」


「物言いを変えただけではないか」


「ですが、魔族の捕虜よりも耳当たりは宜しいでしょう」


「小賢しい。だが面白い。陛下にはその様な形でご報告申し上げるとするか。逆鱗に触れて飛ぶ首はわたし一人で充分で在ろうしな」


「そんな。今回の遠征軍が事前予想よりも遙かに損害少なく、連合内王国共々無事帰還を果たせたのは一重にハイロン卿の手腕の賜・・・・」


「世辞はいい。遠征を行なった最大の理由である壺の確保が叶わなかったのだ。

 そも、確保が叶わずとも、最低でもトールマンによる壺の破壊だけは何としても避けよとの厳命であった。

 だというのにこの体たらく。陛下のご期待に応えることが出来なかった。

 その責を受ける覚悟はもう出来て居る」


「リクイリリ陛下は苛烈ではありますが、聡明なお方。長きにわたって陛下を支え続けた卿を決して無下にはなさいますまい」


 ハルクックは務めて明るく、そして確固たる意思を込めてそう断言した。

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