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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第九話 エルフの国です魔王さま
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9-2 全く以てトールマンなどという種族は

 地上で斯様なやり取りが為されているなどとはつゆ知らず、ユテマルスは細く狭い地下道を進み続けていた。


 ようやく見つけた、とはやる気持ちを必死でなだめた。

 焦る必要はない。

 ただゆっくりと進んで見極めれば良いだけなのだ。


 かの家を物色し無断で拝借してきたLEDの懐中電灯で注意深く先行きを照らせば、緩やかな坂道が更に奥へと続いているのが見て取れた。

 間違いなく道は更なる下層へと続いている。


 先日、この複雑な地下街道の一角に魔法陣の一部と思しき呪文の一端を見つけ、中心部へと続く道筋を見つけた。

 小生意気な黒髪の小娘の目を盗み、少しずつ探索を進めた甲斐が在ったと胸を躍らせた。


 あの魔王を自称する少女の言に寄れば、どうやらデンキなる力を魔力の代替として使うことが出来るらしい。

 うっかり口を滑らせたダケなので具体的な方法は聞き出せなかったが、それが本当ならば我が身に蓄える事によって、再び魔法魔術が使えるようになるということではないのか。

 そうすれば、この虜囚の辱めから脱することが出来るのではないかとの、ほのかな希望が見えた気がしたのだ。


 そしてソレを転移陣に注ぎ込めば門は開き、我らの地に帰還出来るのではないか。

 あの魔女がこの地より去ったところを見れば、そのすべは既に確立されているに違いない。

 故に勇者アリアと密談を交わし、協力してこの地より共に帰還しようと持ち掛けたのだ。


 だがどういう事だろう。

 何故か色よい返事がなかった。

 二つ返事で応じてくれるものだと思って居たので少なからぬ衝撃だった。

 言を濁し、わたしの策には賛同できないと首を振るのだ。


「わたしは鰓子に協力すると約している」


 その一点張りなのである。

 鰓子とはあの忌々しい魔女のコトかと訊けばそうだと答えられ、更に驚く羽目になった。


 勇者と魔女は互いに戦場で相対し、命のやり取りをした仇敵同士ではなかったのか。

 いまや禍根かこんは何一つ残って居ないとでもいうのか。


 嗚呼、もしかすると!


 ひょっとして勇者アリアはあの魔女の手管で魂が歪められ、けがさされているのではないかと思った。


 いや、きっとそうだ。間違いない。

 でなければあのように同じ主屋の中で、まるで市井の愚者へと堕したような、平々凡々とした日々を送ることなど叶わぬだろう。


 何たることか。

 許し難し、イカサマの魔女。


 こうなってはもう彼女の助力を得ることは難しい。

 それどころかわたしの目論見を阻害する可能性すらある。

 ならばせめて戦士ワーラーに我が策の手助けを、と思ったのだがコチラもまた霧を手でかくような手応えでしかなかった。


「わしは特に我らの土地への未練はない。軍籍に身を置いているが魂まで預けた訳でもない。

 それにこれまで百年と少し、兵役分は充分に義務を果たしたろう。争うことにも少し飽いた。

 戻るよりむしろこの異界は珍しく、興味深いもので満ちている。

 此処へ居を構え一つ一つ探索してゆくのも面白かろう」


 そんなコトを宣うのだ。


 ああ、駄目だ。此奴も某かの呪いを受けてたぶらかされているのだ。

 所詮はトールマンにドワーフ。勇者だ戦士だと持てはやされてもこの程度。

 エルフであるわたしのように確固たる信念が貫けず、欲望やしゅに打ち負けてしまうのだと確信した。


 この期に及んではわたし一人でこの禍々しい状況を打ち破る以外に無い。

 そう心に決めて転移陣探索に明け暮れるようになった。

 そしてその成果の一端が、今日こうして花開こうとしているのである。




「おお」


 思わず声が漏れた。


 狭い地下道から抜けるとそこは大広間だった。

 仄かに点る明かりの奥に高い天井が垣間見え、俄には此処が地下と信じられぬ程の広さがあった。


 四角い見上げるほどの大きさの代物がズラリと居並んでいる。

 鉄で出来上った巨大な魔導のカラクリが、獣のように低い唸りを上げていた。

 魔女の言を信ずるのであれば、この地主の館ほどの大きさをもつ代物はデンキを貯める為の仕組みらしい。


 ズラリと居並ぶ様は禍々しい死の都を彷彿とさせる怪しさに満ちていた。

 この場所の話は小耳に挟んでは居たものの、あの魔王を自称する小娘や忌まわしい魔女に阻まれて、此処に至るまでの道筋すら判然とはしなかった。

 だが、わたしは連中の隙を見てかいくぐり、こうしてその禁断の地へ辿り着くことが出来たのだ。


「なる程。連中が心血を注いでいるだけの事は在る」


 異様な光景だが不気味さと同時に荘厳さもあった。

 これが街ぐるみで形作られた巨大な魔法陣の中枢なのかと息を呑んだ。

 魔王城の規模には遙かに及ばぬが、流石に魔法魔術に秀でた一族の建造物と、以前魔王城の廃墟に踏み込んだ時と同じ感想を抱くのだ。


「猿真似しか出来ぬトールマンとの大きな差よ」


 エルフの一族を真後ろから追いすがる真の脅威は、まこと魔族以外に在り得まい。

 地上の街もまぁそこそこのものではあるが、アレは以前この地に赴いたエルフの先人か魔族の名の在る者が築いた物を、つたなく悪模倣した代物であろうと考えている。

 トールマンに我らより先んじたモノが備わっているとは到底思えないからだ。


 そして町のアチコチで散見される下卑た意匠こそ、それを証明していると言って良い。

 連中の品性の無さがひねり出した無秩序な造詣。

 調和や均整といったものの意味合いを端から知らぬのであろう。


 そもそも連中には美醜を判ずる感覚も欠落している。


 無意味に乱立した石の柱から空中に張り巡らされた無造作なロープ。

 空から襲ってくる巨鳥への備えだとでも言うのか。


 威を誇るかのような無骨な鉄塔。

 ガラクタか出来損ないの櫓にしか見えない。

 ゴミを持て余して居て組上げているのか。アレが何かの役割を持っているとでも言うのか。


 夜になるとケバケバしく光る意味の無い灯火の立て板。

 目がチカチカして気分が悪くなる。

 魔物への威嚇のつもりなのか、気狂った者への手向けなのか。


 ひっきりなしに走る魔導具は悪臭と仰々しい騒音をバラ巻いていて、落ち着きというモノに欠ける。

 操る者は横柄で他者への配慮というものを感ぜぬ。自分が上位者にでもなったつもりか。


 そして聞けばよく同族を跳ね殺すのだと云う。


 それが分かって居ながら何故にこれだけ多量に、しかも意味も無く走らせる必要がある。

 かちで行ける場所には歩いて行けば良かろう。

 危機感というものが無く、自分だけは別物とでも考えて居るようだ。

 浅はかとしか言い様がない。


 下品。タダひたすらに下品。

 デタラメで全てに意味が無かった。


 ただひたすらに愚かしい。

 これらが全て権威と裕福さの象徴だとでも?

 自分達が成し遂げたものを自画自賛するのみで、実に幼稚な性情を周囲に喧伝して居るダケだ。

 それに気付いて居ないのか。


 知性も品性も持ち合わせぬ、愚劣な鈍物という感想しか湧いてこない。


まったもってトールマンなどという種族は始末に負えぬ」


 ドワーフにしてもまたしかり。その他の種族にしても大差は無かろう。

 奴らの探究心などそれこそ物欲の権化でしかない。

 清廉にして至高、世界の真実たる深淵の知恵を探ろうなどとは毛筋一つも思い至らぬのだ。

 結局頂点へとたどり着けるのは我らエルフしか在り得ないのである。  

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