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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第八話 ご覧に入れることが出来なくて残念です魔王さま
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8-9 たわけ!

 何者?


 誰何すいかしようとして息を呑んだ。

 黒いシルエットは黒いとんがり帽子に濃い色合いのローブを羽織っていた。

 人影は物も言わず、微動だにせず、ただじっとコチラを眺めているダケなのである。


 そしてその顔には老婆の仮面があった。


 気が付けば固唾を飲んでいた。

 その容姿には覚えがある。

 将軍達からの報告にもあった、まやかしと幻惑の権化。

 毒をまき散らし魂すら弄ぶ、忌まわしき魔女の姿であったからだ。


「何時から其処そこに居た」


 かすれていたが辛うじて声となって出た。


「つい先程からです」


 艶のある女の声だった。

 耳孔をくすぐる甘美さが実に心地よい。

 それゆえにおぞましさが際立った。

 なる程確かにコレはの世ならざる存在だ。


「誰か!誰かあるっ。くせ者だ」


 部屋の中に王の怒声が響いた。


 だが、ただそれだけ。

 己の声が部屋の中にこだまし、ただ消えて失せてしまっていた。


 二度三度と叫んだ。

 だが何も変わらなかった。

 むなしく部屋の中の気を震わせるだけだった。


「無駄です。この館の者はもう眠ったままか、痺れて動けないか、硬直して固まっているかいずれかですので。まぁ死にはしないのでご安心を」


「魔法か?いや、そんなはずは無い。もうその手の呪術は使えないはず」


「浅はか、実に浅はか。いやはやトールマンの愚鈍さは実に筆舌にくしがたい」


 そう言って仮面の魔女装束はからからと得意げに笑った。


「世の魔力が尽きたからと言って、魔法使いの身体に蓄えた魔力マナまで失せた訳ではありませんよ」


「!」


「確かにトールマンの身体に蓄えられる量はごくわずか。ですが何故なにゆえに自分達を基準に全てを計るのか、おろか以外の言葉が見当たりません」


「ま、まさか貴様はソレを見越して・・・・」


「魔力の根源こそ失せたものの、むしろこの瞬間は千載一遇せんざいいちぐうの好機。いまやこの段におよび宮廷付きの魔法使いなどデクの棒、寝とぼけた飾りです。防御護符もタダの落書き、抗魔術結界もまた同様」


 正に笑いが堪えきれぬという様相で、深夜の来訪者は老婆の仮面の奥より滑らかな声を響かせるのだ。


「世の魔力の根源を無力化させたは良いものの、まさかこのような形でしっぺ返しを喰らうとは思っても居なかったでしょう。魔法魔術をナメ過ぎです。いい気味、ザマぁ!ですね」


「それで、何用だ。我が首を取りに来たか」


「ふふ、最初はそのつもりでした。ですが友人との約束もあります。道中色々と思い悩み、あなたは生かして置いた方が利用価値が高い、そう判断しました」


「王に対して利用価値などと思い上がりも極まる。身の程を知れ」


「ではその無礼者を王自ら斬りますか。それ其処そこにあなたの剣があります。その気が在るのなら取って斬ればよろしい」


「言われずとも」


 立とうとしたのだが足が動かなかった。

 まるで床に釘付けにされたかのようになって、ビクともしない。

 いや足だけではなかった。

 腰すら椅子に貼付いて浮こうともしないのだ。


「こ、これは・・・・」


「どうしました。おや、もしかして腰が抜けて立てないとでも?これはこれは。中央王国の武王、イクサート二世陛下ともあろうお方が、女一人を前に足が震えて立てないとは。ほほほ、お笑いぐさです」


「く、貴様、わたしの身体に何某なにがしかの術を仕掛けたな」


「まぁ、暴れてもらっても無駄に刻を費やすダケですので。お互い忙しい身、手短にいきましょう」


「・・・・何が望みだ」


いくつかの質問に答えて頂きます。そしてその返答如何いかんによって、幾つかの『お願い』を聞いて頂きます」


「魔女の願いなどと身の毛がよだつ」


「あら既視感デジャヴ。以前も似たような事を言われたような?まぁ良いです。先ず一つ目、魔族領で二人の魔族の男女と魔道具を確保したでしょう。その売り渡し先とお値段を聞きましょうか」


「なに。ではあの二人は貴様の縁者か」


「質問に質問を返すのではなく、お答えを頂きたいですね」


「東方エルフ領の王国メーサだ。額は金五万五千」


「あらお安い。失敬ですよ」


「詰問はそれだけか」


「せっかちですね、質問は幾つかと言ったではありませんか」


 そして老婆の仮面の魔女装束は「壺」の真意をどの辺りまで知っているのか、その知見は何処で手に入れたのか、そしてその後の世界の有り様をどの程度だと考えて居るのかと問うた。


「壺の破壊で、世に満ちる魔力はほぼ全て喪失すると聞いている」


 トールマンの王は続けた。


 大半は瞬時に失せるが、二割程度は残留しそれも徐々に消えて数年で皆無となるであろう。

 魔物や竜族は著しく力を失い魔族やエルフは昔日の力を失い、短命種やドワーフに世界は取って変わる。


 特に我らトールマンの躍進やくしんにより、魔力によって繁栄した一族は凋落ちょうらくを余儀なくされる。


「これがわたしの、今後の目論見だ」


「根拠は?」


「言えん。王家の秘事だ」


「ひょっとして天地神の外典げてんかしら。確か万理随法典とか、もったいぶったご大層な名が付いていたわね」


「!」


「ほほう、そしてソレを鵜呑みにしたと。教皇もそのひとりですね。いえ、最初に提案したのは彼ですか」


「・・・・」


「なる程、よく判りました」


「わたしは何も言うておらん」


「彼をかばうのであれば否定すればよろしかったのに。それとも同じ穴に落ちるともがらが欲しかったのかしら」


「無礼であるぞ、仮面の魔女」


「笑わせてくれる。わたしの一〇分の一も生きてないお子様が粋がってんじゃないわよ。一族を背負う覚悟がまだ定まって居ないと見える。

 高々ひとりの男の言に乗せられて、軽々しい判断カマしてんじゃねぇよ、このガキ。もっと広い視野と洞察どうさつを磨きな。自分がまだ道具にされているって事に気付いてねぇな」


「な、なに?」


「何故、教皇の言葉を鵜呑みにした。何故、それを何の裏付けもなく信じた。秘典から引用されたからか?それが真言なら、何故今までそれを試そうとした者が居なかった。

 代々引き継がれてきた尊い本だったんだろうが。何故てめえが最初の一人だなんて思い上がることが出来るっ」


「・・・・先祖に、試す好機がなかっただけだ。魔法を駆使くしする魔族との戦力差を思えば数の優位を生かすしかない。

 確かに過去は劣勢であったが今は違う。単純な兵の数でも魔族の五倍以上にまで達した。先代の魔王が早世し幼年の王が玉座に着いた。の機を捕らえず、いつ魔族を駆逐出来るのか」


「たわけ!」


 罵倒ばとうを叩き付けると机の上のランプの炎が揺れた。

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