8-7 考慮なさる域を超えておりませんか
「勘弁して下さいよ、閣下。寿命が何年在っても足りません」
「そう言うな、陛下も笑って居られたではないか。当人から聞く武勇伝は王宮に居る者にとって何よりの楽しみとなる」
「あのような出来事、武勇伝などではありません」
「そうかな、血を流す事だけが戦果ではあるまい。
それに現場の者から直の話を所望されたのは陛下だ。本来、今回の戦は御親征を望んでいらっしゃったのだが、周囲の者から強く止められてな。それだけがご不満だったのだ。魔族の地を直に見たかったと仰って居られた」
「魔王城も、ですか?」
「勿論」
「噂に聞く『深淵の壺』とやらもご覧になりたかったのでは?」
「恐らくな。聡いおぬしのこと故、此度の戦の真意も感づいて居よう。だが今暫し、その件は固く閉ざして置いてもらいたい。判って居るとは思うが念の為に、な」
「鐘を鳴らして魔物を呼ぶ莫迦は居ません」
「うむ。さて何人かの諸侯にそなたを紹介したがそれぞれどの様な感想を持った?誰が一番印象に残った。世辞や追従は不要、そなたの正直な意見を聞きたい」
「何故わたしなのです」
「そなたはかの御仁達と初対面であり先入観がない。精々名前や噂を聞いた程度であろう。どの様な印象を持った。一番興味をもった御仁だけで良い」
「上っ面でしか在りませんが」
「構わん」
「クラベル伯は慎重なお方に見えました。わたしの一挙一動に隙無く目線が反応する辺り、人物観察に秀で、立ち姿の良さから武芸の腕も噂通りかと。
サナカントゥ男爵は豪放磊落を地で行くお方ですね。戦場では頼りになるかと。故にわたしには落胆したご様子でした。件の『手柄』を過大評価していらっしゃったのでしょう。
パーウアーツ辺境伯は思慮深いお方にお見受けしました。ざっくばらんで陽気な物言いですが、わたしの言葉の端々を吟味しているご様子。会話には出ない言葉の裏側を探るのがお得意なのでは?言い方は悪いですが、今日お会いした御仁の中では一番の策士ではないかと思えます。
印象的なのはこのお三方でしたね」
「ははは、僅かあの程度の会話でソコまで見切るか。しかもわたしの本命も取りこぼさぬとは。おぬしの評価を更に上乗せねばならんな」
「それはしくじりました」
「わたしの目は節穴では無かったと安堵したよ」
メフレス・カーフォーナーはそこで一息つくと、そう遠くない日に夫を迎える事になるだろう、と言った。
「入り婿として我が領地に迎えるか、こちらが輿入れするのかはまだ判らん。だが恐らくわたしが辺境伯位を弟のシーズノッタに渡し、他国へと渡る事に為ろう。勿論、弟が元服した後の話ではあるがな」
「閣下が領地を取り仕切る事に何か問題が?」
「家臣や親族の中には妾の子が領主になる事を良く思わぬ者も多い。それにヨルフエン家ともなれば王室にも覚えが良いからな」
ああ、なる程。それで母方の姓であったかと合点が付いた。
「本日対面した方々が婿殿の候補、と」
「そういう事だ。我が周囲に居ない外部の者からの所見、是非とも聞きたかった」
「ですが、随分とお急ぎのご様子です」
「判るか。北方からの圧力は今しばらく大きな脅威とはなるまい。
だが此度の一件で東方の国境が賑やかになる、間違いなくな。疲弊した国力が回復するまで持つかどうか。
魔族領との国境から相当数の部隊を移動させることになろう。国王陛下の命に従うは勿論だが、縁者で在れば融通を利かせる幅が拡がる」
「ご熱心ですね。一辺境伯様が考慮なさる域を超えておりませんか」
「国難に備えるのが家臣というものであろう」
トーツエンはそれ以上聞こうとはせず、メフレス・カーフォーナーもまたそれ以上語ろうともしなかった。
そしてその数日後に、勇者が他界したとの知らせが国王の名の下に全土へ向けて発せられた。




