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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第八話 ご覧に入れることが出来なくて残念です魔王さま
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8-6 国王陛下とも引き合わされた

 王宮の広場では戦勝報告と拝謁はいえつの儀がり行われていた。


 謁見えっけんの間は精々二、三十人を納めるのが精々で、今回のような大規模な式典では外の広場を使うのが通例なのだという。

 確かに薄暗い王宮の広間に押し込められるより、よく晴れた青空の下の方が鬱屈うっくつしなくて良い。


 だがそれはソレとして、だ。


 なんでオレはこんな所に居るんだろう。


 もう数えるのも嫌になる程の自問を繰り返し、トーツエンはほおとこめかみを引きつらせながら居並ぶ貴族の最末席で我が身の不運を呪う。

 だがその悪夢もあと少しで終わりだ。

 式典の結びに我らが国王、イクサート二世陛下お声が響いていたからだ。


「悪は滅び平穏な時代が訪れる。これは新たな夜明けなのだ」


 王さまは良く通る声でそう仰った。


 確かに此の世には善良で誠実な者たちばかりではない。

 悪行に手を染める者はこれから絶えず出て来るであろうし、その種に事欠くこともまた在るまい。

 魔物や魔族が全て失せた訳でもなく、それら全ての諸悪がもたらす不幸に落涙する者も居るだろう。


 良き世の中というものは一朝一夕で為し得ることではない。

 だがしかし、人の世を否定する忌まわしきその根源は滅することが出来たのだ。

 これからは光と希望に満ちた素晴らしき日々に向けて歩いて行ける。


 王さまの長舌は続く。


おごらず迷わずあきらめず、たゆまぬ努力と揺るがぬ信仰、そして皆の協調が必要だ。誠実真摯に日々を重ねてゆけば、全ては良い方向に向っていく。さすれば祝福が世界を包むのはそう遠い未来ではないだろう」


 ヒト族の全てに永劫の勝利と繁栄を、最後をそんな玉虫色の文句でめ括った。


 式典が終わると大勢の下人下女たちが手際よく長テーブルや椅子を運び入れ、取りそろえ、次から次へと様々な酒や料理を並べていった。


 惚れ惚れするような無駄の無い動きだ。

 そんな光景を見てようやく肩の力を抜くことが出来た。

 金科玉条でコテコテにされた文言よりも、こういった連中のざわめきの方が余程に気が休まる。


 王さまのテーブルに銀の皿が並ぶと、その場にいる全員に酒が満たされた杯が渡され、通り一遍の挨拶の後に「ヒト族の未来に」と王さまの掲げたさかずきに皆が唱和し、戦勝会の宴が始まった。

 次から次へと怒濤どとうの勢いで酒と料理が追加されてゆく。


 ヤレヤレ、ひでえ目にった。


 席とテーブルが用意されるのは著名な氏族か上位の諸侯のみ。

 エルフやドワーフもチラホラ見えるがノームやフォレストウォーカーの姿は見えない。

 招待されたのだろうが辞退したに違いない。

 連中がトールマンの式典に出向いたという話はとんと聞いたことが無かった。


 末席に在るその他大勢は椅子の無いテーブルに群がるだけだった。

 だが、むしろこちらの方がほっとする。

 椅子になんて座ったらこっそり抜け出すのも難しい。


 内心嘆息はするものの杯に注がれた葡萄酒を一口含み、トーツエンは流石に良い酒だと、引きつっていた頬を僅かばかり緩ませた。

 産地は何処だろう、海沿いはトゥナポ辺りだろうか。

 王侯貴族には人気の酒造がると聞いている。


 思えば帰国してからというもの喉をうるおしたのは白湯かスープ位のモノで、酒の類いを飲むのはコレが初めてだと気付き、何とも言えぬ気分にもった。


 お披露目の場にまで引きずり出され、長々とした国王陛下のお褒めの言葉も、貴族達の戦勝をたたえるお愛想も、格式張った式典の息苦しさも、全てが全て苦痛苦悶を生み出すタダの拷問でしかなかった。


 この酒にしても、テーブルに並んだ様々な見た事も聞いたこともない料理の山も、どれでもコレもこの場に立つ機会が無ければ未来永劫出会う事のなかったモノばかり。

 先刻までの苦痛の対価と考えれば悪くはないが、あんな窮屈きゅうくつな思いはもう今後一切金輪際、久遠長久、御免被ごめんこうむりたかった。


「ご苦労だったなトーツエン。中々どうして堂に入っておった、居並ぶ諸侯にも負けて居らぬ。陛下に推挙すいきょしたわたしも面目が立ったぞ」


「これはカーフォーナー辺境伯閣下。過分な御言葉恐縮の極みにございます」


「どうした、顔が引きつって居るな。今になって冷や汗でも出たか。堅苦しい式典であるのは確かだが、何事にも節目けじめというものがある。務めが長くなれば出会う回数も増えよう。慣れるのなら早い方がよい」


 儀礼正装や磨かれた甲冑を脱いだ貴族も多いというのに、彼の女主人はあくまで具足を取ろうとはせず、軍装のままでソコに在った。

 女物の衣装でも問題は無かろうにと思うのだが、彼女なりの思惑があるのは間違いあるまい。


「もうこれっきりにしていただきとうございます、カーフォーナー閣下」


「おぬしも負けず劣らず堅苦しいな。公の場で無ければ名前で呼べと言うたではないか」


「戦勝会は公の場にございます」


此処ここには、わたしとおぬししか居らぬ」


「家臣とはなれ合わぬ方がよろしいかと」


「ふん。まぁ、本日は良い。だが我が領邦に戻れば改めてもらうぞ」


「・・・・御意」


「実はおぬしに紹介したい相手が居ってな。付いてこい」


「は、それはどなた・・・・いやちょっと待って下さい。そちらは上位席ではありませんか。騎士でも無いわたしが近寄って良い場所では」


「この場は無礼講じゃ。それにそなたはわたしの共でもある。何の問題も無い」


 そんな具合に再び貴族の前に引きずり出され、幾人かの人物と引き合わされた。

 そして再び国王陛下とも引き合わされた。

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