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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第八話 ご覧に入れることが出来なくて残念です魔王さま
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8-5 何とでも言ってくれ給え

 わたしや公介くんのエルフの人達のあつかいと、コテコテの中世騎士の人達(コチラではトールマンと言うらしい)の扱いとでは正直雲泥の差だった。


 虜囚というのは変わらないがおりに入れられる事もなく、素っ裸にかれる事もなく、衣服や持ち物は全て手元に戻り、替えの衣類まで与えられた。


 ライダースーツはエロ過ぎるから人前では着ないでくれ、と言われたから支給されたシャツとズボンを履いているけれど。


 食事の内容は大して変わらなかったが、敵地から同盟国に入ったお陰だろうか。


 スープの具が増えて日に一回の食事が二回になった。


 水の代わりにビールが出されて大層驚いたが、水をいちいち煮沸しゃふつして湯冷ましを作るより、此方このの方が日持ちがするうえ安全だと聞かされて成る程と思った。


 そして水の方がビールよりも高いと知って二度びっくりした。


 しかしハッキリ言って美味くない。


 生ぬるくて苦みがやたら強いのは兎も角、のど越し悪いし酸っぱい感じだ。

 色も何だか煮出し過ぎた麦茶みたいな感じだった。

 確かにエール系や黒ビールは色濃いけれど、現代のソレとは何か全然違う感じだ。

 濁っているというか何と言うか・・・・


 でも久方のアルコールで、初日は思わず痛飲してしまった。

 公介くんは初めての酒で、ジョッキ半分でヘベレケになり次の日は頭が痛いとうなっていた。

 彼はどうやら下戸らしい。

 ちんまいエルフのヒトにうめきながら何かを伝え、その日の食事から彼には湯冷ましが出るようになった。


 確かに扱いは悪くない、っていうか凄く良い。

 この世界の扱いとしては虜囚の域を完全に逸脱している気がする。

 だが好待遇の分だけ胡散うさん臭さが増した感じだった。

 常に見張りの兵士が付くのは未だしも、ちんまいエルフのヒトがわたしたちのお付きとなり、出来る限り人目に付かないようにしてくれと言いふくめられた。


 この幌荷馬車に半ば監禁されているような状態だが、大枚はたいた商品を守るというよりも、汚いものを運んでいる場面を知られたくない、そんな雰囲気があった。

 兵士も、時折好奇心半分で訪れる妙にしゃちほこばった人物も、皆同じような顔と目付きで接してくる。


 コテコテ中世騎士連中に囚われていた時に見た、見下す気配と嫌悪とがチラ付いている。

 真っ当に接してくれるちんまいエルフのヒトが別格なのだなと感じる瞬間だ。


 この世界でわたしと公介くんは、文字通り招かれざる客らしい。

 って言うか、そりゃコッチの台詞。

 わたしらだって居たくて居る訳じゃない。

 一刻も早くこの不愉快な環境から逃げ出して元の世界、自分の町と自分の家に帰りたくて仕方がないのだ。

 ふざけんな、と言ってやりたかった。




「随分と扱いが丁寧ですけれど、わたし達をいったいどうしたいのですか」


 引き渡された最初の日、エルフの陣に招かれた時にそう訊ねてみた。

 一〇人程度の耳の長い人達が剣呑けんのんな顔でわたしと公介くんを出迎えてくれた。

 まぁ、歓迎されては居ないというのは判っていたからショックじゃないが、それでも上っ面だけでも取りつくろっても良かろうにとは思った。


 ちんまいエルフのヒトに寄れば、陣中屈指でお偉いヒトの集団らしい。

 ジロジロと品定めする視線は無遠慮で、他者を見下す事に慣れている臭いがした。

 成る程、と思った。

 時折コンビニにやって来る「世界は自分を中心に回っている」的な連中の同類か、と感じた。


 端から刺激するつもりは無かったが、言葉尻を取られないように充分注意する必要もりそうだ。

 ヤレヤレな感じだった。

 エントツ隊長がエルフと聞いて微妙な表情をしたのもこの為か、とも思った。




 彼らはわたしらが知っているコトを全て話してくれれば良い、と言った。

 更にあの魔道具に関して我らの知りたいことを全て教えること、充分な協力をすること、嘘偽りを語らぬこと、良からぬたくらみをせぬこと等々、一度では憶えられない様々な要求をしてきたが、要約するとそんな感じだった。


 口が上手いな、と言うのが最初の印象だった。

 通訳を間に二人も介しているのに端的で分かり易い。

 口先で相手をさとす事に慣れている。

 しかも聞いている側に反感を抱かせない言葉や表現を巧みに使っていた。


 だがそれは、かたわらに居るちんまいヒトの上手い言葉選びもあるだろうな。

 公介くんにはちょっとソコまで高度な物言いは難しいだろうし。

 政治家と面と向って話した事は無いけれど、こんな感じなのかなと思った。


 そして最後に「きみたち二人とは末永く良好な関係を保っていきたい」と告げて対面を終えた。

 その言葉を聞いた途端、わたしの背筋には冷たいモノが走っていた。


 それは在り来たりな台詞であると同時に、一時の同盟を結んだ者同士が最後に結ぶ、歴史的な常套句じょうとうくでもあったからだ。


 同盟なんてモノは、実にアッサリ呆気なくひっくり返される。

 用済みとなったらその日のうちにゴミ箱行きだな、と思った。




「同じ台詞でも吐く者の立場が違うと迫力も違うね」


「え、どういう意味です?」


「ハリウッドスターの『ご機嫌よう』と隣のオバさんの『ご機嫌よう』じゃ別物だろう」


「別の人間なんだから当たり前じゃ無いですか。喋っている言葉だって違ってるでしょうし」


「いや、そう言う意味じゃ無いんだよ」


 公介くんには未だ早かったかな、と思うと同時にわたしの勘ぐり過ぎかなとも思った。

 でも危機感は在って邪魔には為らない。

 素っ裸で檻に閉じ込められている方がまだシアワセだった、と思うような事態には為りたくなかったし、そんなつもりも毛頭無いからだ。


 かといって具体的に何をどうするのかと問われれば、何も思いつきませんとしか言えないのだけれども。


「彩花さんって時々わけワカメな事言いますよね」


「何とでも言ってくれたまえ。思い悩むことは多々あれど、きみの気持ちが穏やかならわたしにとっても幸いだよ」


「更にわけワカメなコトを。どうせ、エルフには美形が多いがどの程度が少年枠なんだろうな、程度の悩みなんじゃないですか?」


「・・・・何とでも言ってくれ給え」


 眠るのには少々早いが早々に毛布に潜り込んでフテ寝をしようと決めた。


 そしてエルフの領地に入るのが約五〇日後、それから更に三〇日ほどでエルフの王都に着くと聞かされた。

 時差云々の真偽は兎も角、夏休みは完璧に終わっているなと思った。

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