8-4 可愛いは最強
背の高い女子大生は相変わらずであった。
極めつけに小柄な女エルフのアンニュイな眼差しと繊細な思惑には気付くことはなく、幌の付いた荷馬車の荷台で揺られながら、ただひたすら自身のスマホに、己に課された使命と信ずる謎テキストを刻んでいた。
「そして我らの未来は運命の女神の指し示すがまま、ガタゴトと酷い揺れで酷い造りの馬車に抱かれ、よく判らない国を目指しよく判らない旅を続けるのであった。と、まぁ今日はこんなところだな」
「何です、そのよく判らない文章は。ブログの更新テキストにしては随分けったいですね」
「失礼な物言いだな、公介くん。コレはタダの備忘録だ。わたしの趣味の一環だ」
「あのいかがわしいブログも思いっきり趣味じゃないですか。何がどう違うんです。それによく電池が持ちますね。俺のなんてウンともスンとも言わなくなっちゃいましたよ」
「わたしの愛車には車外品の変換器とUSBコネクタ付けてるんだよ。エンジンさえ掛かっていれば充電出来る。まぁガソリンがもうリザーブタンクにしか残って居ないから直に使えなくなるがな」
「ズルい。俺のにも充電して下さいよ」
「仕方が無いな、コレを貸してあげよう」
「太陽電池じゃないですか。何処に持っていたんです」
「備えあれば憂いなし。ロングツーリングするときに在ったら便利かなぁ、と思ってキャンプ用品のヤツ買っといたんだよ。もっとも、使うチャンスが無くてキャリーバッグの奥に押し込んだまま忘れていたんだけどな」
「コレ、何時間くらいで充電完了します?」
「真夏の朝から夕方までお日様に晒して二〇パーセントいけば良い方かな」
「え、なんでそんなにしょぼいんです」
「そんな小さなパネルじゃそんなもんなんだって。よく災害用の電化製品に太陽電池付きのヤツが在るけど、実際に使う場面になっても大して役には立たないと思う。乾電池をしこたま買い込んで置いた方が余程に有益だと思うぞ」
「そ、そうなんですか」
「みんなコンセントで充電するイメージだけど、夜や雨の日は役に立たないってこと忘れてるんじゃないかな。それに太陽電池の発電量ってホントしょぼいんだって」
一時期は地方自治体にソーラー発電が大流行だったけれど、今頃になってようやくそのスカタンぶりに気付いたらしく、取り止めや撤去している所も多いと聞くよ。
専有面積がハンパないからね。
狭い日本じゃ効果薄いよ。
発電面が雨風で汚れたら効果落ちるし、メンテナンスも必要だ。
寿命だって二〇年ほどだって言われてる。
「タダで発電できるって部分に幻惑されて、夢を持ち過ぎたんだと思うな」
「ご家庭の屋根に付けてる所も多いじゃないですか」
「あくまでオマケ、或いは電力会社の電気の補助って割り切っているのなら良いと思う。それに発電よりも大事なのは蓄電の方だと思うしね。潜水艦並みにデカくて大容量の電池が用意出来れば、ソーラー発電も悪くないと思う」
「めちゃ高くないですか」
「数千万、ひょっとすると億単位かも」
「普通に電力会社の契約だけで済ませた方が安上がりですよ」
「だが非常時には泣くほど嬉しいぞ。
オール電化なら台風や地震で周囲が壊滅しても明かりは付くし調理も出来る。テレビも見れるし基地局が無事ならスマホやネットも使い放題。水の確保が充分なら風呂だってオッケーだ」
「壊滅した土地で日常生活は送れません」
「まぁ、わたしたちの町にはアホみたいにデカい蓄電施設があるみたいだし、いざという時には伯母さんに頼めば融通してくれるかも知れない」
「え、なんでココで店長さんが出て来るんです」
「前に言ってたじゃないか。わたしたちの町の地下には家並みに大きなコンデンサーがしこたま在って、日々膨大な電力を内緒で蓄えている。
内緒ってトコロがミソだな。そしてその電力を魔法に変えて超デカい魔法陣を毎日少しずつ書き足している。最終目的は故郷の国の人達を全員日本に移住させることだって」
「それ本気にしてたんですか」
「ちょっと前までは信じてなかったよ。
でも今のコレだよ?ひょっとしてマジでやる気なんじゃないか、魔法ってのも本当に在るんじゃないかって思えてもおかしくない。わたしたちがこのトンデモな状況になっているのは、魔法ってヤツが絡んでいるせい。そうじゃないのか?
それともきみは未だコレが、超リアルな映画のロケに巻き込まれているとでも思って居るのかい?」
「いえ、俺も流石にそこまで脳天気じゃないですけれど・・・・でも、魔法で異世界にって、まんまアニメかラノベで、なんちゅうかその・・・・」
「まぁ釈然としない気持ちはわたしもよく判る、よく判るぞ。だが観察者は現実を受け容れる勇気も必要なんだ」
「でも俺たちは魔法っぽいもの何も見てないですよね。中世っぽい汚くて野蛮なものは沢山見たり体験出来たりしてますけど」
「そこのハトポッポさんに頼んでみれば良いじゃないか。エルフだから出来るんじゃないかな、勝手な想像だけど」
「ですから、ハルクックさんですってば。駄目でしょ、名前を何度も間違えたら。俺たちのお世話してくれているのに失礼じゃないですか。
しょうもないウンチクはめちゃ憶えてるのに、どうして人の名前になるとポンコツになるんですか」
「ちょっと言い過ぎじゃないか、公介くん。誰がポンコツだよ。ちょっとした些細な勘違いじゃないか」
「すぐ忘れちゃうならスマホのメモ欄にでもメモって・・・・あ、いえいえ、違いますよ。喧嘩してる訳じゃないです。あ、そうか。日本語じゃわっかんないデスね」
「・・・・」
唐突にわたしと公介くんのレクリエーションは中断した。
件のちんまいヒトが半泣きで割り込んで来たからだ。
このヒトはわたしらの会話がちょっとテンション高めになると、口論していると勘違いをするらしい。
生真面目なのか、心配性なのか。
ひとりハブられてると不安になって居るのか。
何だか面白くない。
公介くんがまたあのちんまい子に訳分からんコチラの言葉で宥めている。
彼が何だか妙に丁寧な口調で接しているように見えるのは気のせいなのか?
確かにあの、めちゃ泣きそうな顔されると罪悪感しか湧いてこないから、戦意喪失というか及び腰になってしまう。
けど・・・・
あ、頭まで撫でてる。
ズルい、わたしもそんなことされた事ないのに。
わたしが半泣きで同じようにお願いしたら、同じように慰めてくれるだろうか?
いや間違いなくドン引きされるな、うん。
ハッキリ言ってデカ女のそんな姿、キモい以外の何者でもないからな。
可愛いは最強などと言う、何処の誰ぞが吐いたのかも思い出せない台詞を思いだし、わたしは静かに吐息をついた。




