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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
幕間 日記その五
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値段に見合った対応と言われても

 わたしと公介くんはおりから解放された。

 聞いた話ではとんでもない額でエルフとかいう耳の尖った連中に売り渡されたらしい。

 っていうか、いま目の前にもその御仁が居るから、「らしい」というのはかなり投げやりな物言いかもだけれども。


 けれどまぁそれは割とどうでも良い話だ。

 少なくとも檻からは出られたし、わたしや公介くんの懐が痛んだわけでも無いからだ。


「で、このちんまい子はわたしに何をどうして欲しいと言うのかね」


「彩花さんのバイクの仕組みを詳しく教えて欲しいそうです。それと操作方法、というか運転の仕方ですね。それが俺たちが檻から出て、服着て普通に食事をして毛布で眠る事が出来る条件なのだそうで」


「因みにわたし達はバイク諸共、彼女らにいくらで買い取られたのだろう」


「ええと、金貨五万五千枚分だそうです」


「・・・・銅貨じゃなくて?」


「あ、はい。金貨です。ど、どうしました彩花さん」


「いや、ちょっと目眩が」


「あ、逆に銅貨って何、って訊かれましたが何て答えましょう」


「パン一つを買うのに手軽な価値のお金って伝えて・・・・いやソレよりも金貨一枚で、パン幾つ買えるか聞いてもらえるかな?」


「あー、ちょっと見当が付かないと言われました。そもそも金貨は貴族や商人の取引くらいにしか使わないとかなんとか。因みに、金貨一枚で貴族がパーティで振る舞う葡萄酒が樽で買えて余る位だそうです」


「パーティで、ほう、そうか。パーティというのはアレか?大勢の貴族を呼んで開く盛大なものなのだろうか」


「あー、えーと、トールマンは知らないがエルフでは王宮で開かれるのが常、とかナントカ。

 あの・・・・彩花さん、どうしたんですかスマホ取り出して。電源切っていたお陰で、辛うじて電池残っていたんですから無駄遣いはしない方が。折角持ち物全部返してもらったんだし・・・・って、顔色が悪いですよ」


「ちょっと計算してみた・・・・極めて、極めてざっくりとした概算でしかないから余り気にしないでおいて欲しいのだが」


「はい。どうしました改まって」


「わたしらは恐らく、五〇億円相当の値段で買い取られて居るのではあるまいか」


「は?」


「あくまでざっくりとだがな。

 因みに一三世紀のドイツでイタリアのワインは一樽、現代換算で約九万円ほどで取引されていたらしい。それを当てはめるとそんな感じになる。ちなみに同時期の小フローリン金貨なら一二万円相当。大フローリン金貨なら二四万円相当。こっちで計算すれば更にとんでもない値段だ」


「え、ええぇ!」


「仮定に仮定を重ねた概算なんでアテには出来ない。だがボンヤリと普通じゃない金額なのは雰囲気で分かるだろう?」


「俺と彩花さんとで五〇億!」


「勿論、バイクとセットこみこみの御値段だがな」


「そんなバリューセットみたいな言い方されても困ります」


「大事なのは正確な金額ではなくて、その普通じゃない投資に見合った対応が求められるという事だ」


「値段に見合った対応と言われても、俺はタダの通訳・・・・

 あ、そうですよ、そうです。俺は通訳でしかないんです。肝心なのは彩花さんのバイク知識なんですから、美味しい所は全部彩花さんにお任せというコトで。相応の対応はよろしくお願いします」


「え、何だソレは。ズルいぞ公介くん!」


「だって俺はバイクの事なんて全然分かんないですし。下手に間違ったこと言って、エルフの皆さんを怒らせるのも嫌だし」


「そんなんわたしもイヤだよ。きみとわたしは運命共同体じゃないか。

 わたしがコケるという事はきみもコケるということだ。バイクの二ケツと一緒だよ。シッタコッチャナイ的な態度は良くないと思うぞ。

 え、あ、何ですか。わ、わたしに何か?公介くん、このちんまいヒトはいったい何て言ってんだ?」


「喧嘩は止めて欲しいそうです。至らないところが在れば出来る限り対処するから、不満なら自分に言って欲しいと」


「・・・・」


 ちんまいヒトが必死になってわたしのすそにしがみついて居る。

 言葉は確かに分からない。

 分からないが、えーと、なんちゅうかその、何かめっちゃ泣きそうな顔で罪悪感が湧いてきた。


「・・・・あの、彩花さん?」


「えー、あー、その。なんだ、小さな子に気を遣わせるというのは良くないかな」


「あ、はい。俺もそう思います。っていうかコレはちょっとやべぇなって思いました」


「うん。じゃあ、真面目にレクチャー始めるとしよう。確かに喧嘩してる場合じゃない」


「スイマセン。俺もちょっと逃げに入ってましたね」


「お互い長い間(おり)の中に押し込められて、ストレス溜まってたからな」


「でも彩花さん。中世の価格レートなんてよく知ってましたね」


「伯母さんに色々と異世界レクチャーを受けただろ?あの時にちょっと興味が湧いて、ヨーロッパ中世の歴史を色々とググってみたんだよ。まさかホントに役に立つハメになるとは思ってもみなかったけれど」


「オタクの資質というモノは侮れんものですねぇ」


「もっと素直に感心してくれてもバチは当たらんと思うのだが?」


 しかしそれはさて置き、わたしたちがこれからどうなるのかは、やっぱりサッパリちっとも分からなかった。

 正直皆目見当もつかない。

 バイクのネタが尽きたらどうすればいいのだろう、とか、エルフの人達の国に連れて行かれて何をされるのだろう、とか、鰓子えらこ伯母さんは今どうしているかな、とか不安のネタは尽きることはなかった。


 でも何とか毎日を、自分で出来る限りのことをやってしのいで行くしかないじゃないか。


 まぁ、ソレで駄目だったらソレまでかな。

 現代でも一瞬先に何があるか分からないし。

 今度は居眠りトラックじゃなくて、暴れ馬に蹴り飛ばされるかも知れないし。


 でも叶うならばまた元の世界で、公介くんとダベりながらコンビニ夜勤をやれたらいいなぁ、と思って居るのである。

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