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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第七話 お留守番していて下さい魔王さま
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7-9 最初から織り込み済みだった

「・・・・あの、フォクサン?」


「なんだ」


「わたしは今とても嫌な予感がするのですけれども」


「ふむ、恐らくそれは合って居るぞ。お前はまだ若く色々と未熟だが、その察しの良さは買っているのだ」


「まさか、まさかと思いますが魔王城に引き返すつもりじゃないでしょうね」


「ずっと考えて居たのだ。このままの地から離れて良いのか、とな。

 母国に戻って打開策が見つかるとも思えん。幸いまだトールマンの国境は越えて居らぬ。手形が無駄にならずに済む。いささか判断が遅れたキライは在るが手遅れという程でもない」


「待って下さい。王宮の判断も仰がず踵を返したと在れば、間違いなく陛下の逆鱗に触れます。脱走の嫌疑を掛けられてもおかしくありません」


「陛下のご判断から逸脱いつだつするのは心苦しいが、これも一重にエルフ一族のため。

 使い魔が未だ健在ならば直にご報告申し上げることも出来るが、今やそれは叶わぬ話だ。伝書の早馬を出すにしても時が経ちすぎる。一旦魔族領を出てしまえば再び踏み込むのは難しい。お前もそれは判っているだろう」


「だからといって命に背いて良いという理由にはなりません。このまま国に戻り許可を得、それから出直せば良いではありませんか」


「それでは遅すぎる。冬が国境を閉ざせば来年の春になるまで身動きが取れなくなる。魔力の枯渇は今以上に深刻になって居よう」


 言い切ると年長のエルフは懐から幾つかの書簡を手渡した。

 一通は女王陛下へ、一通は幹部会へ、そしてもう一通は時を見計らってドワーフ族の上位陣へ渡せと言った。


「既にこんなものまで・・・・しかし最初の二通は判りますが何故ドワーフに?」


「ユテマルスが巻き込んだであろう一人はドワーフの戦士。勇者付きに抜擢されたとあれば一角の人物だろう。連中も行方は気になって居る筈だ。

 明言はしてないがそれなりにあおる内容でしたためた。外からの圧力もあれば、幹部会の尻にも火が着くとは思わないか?」


「内情漏洩の罪に問われませんか。下手すれば反逆罪です」


「戦友に対しての心配りと言って欲しいな。戦後処理の一環だよ。我らヒト族は一致団結して魔族を攻め魔王を駆逐したのだ。なればその責も等しく分配するのが筋だとは思わないか?」


「権益独占を望む者たちからの罵倒がもう聞こえて来そうです」


「転移陣の確保に関してか?それが益となるかどうかはかなり怪しいがな。

 魔力あってこその魔法陣。水の無い荒れ地で手桶を持っていても意味はあるまい。権益云々を考える前に我らは先ず魔力の復活と、トールマンと相対することを考えねばならん」


「は?魔力は兎も角、トールマンと事を構えると?どういう意味です」


「この魔力の枯渇もまた、トールマンの国王や教皇どもの描いた絵図の上、思惑通りということだ。魔力が失せれば魔族を筆頭にエルフ、ノーム、魔物に竜族、その他魔法魔術に寄り添う者たちをすべからく弱体化させることが出来るからだ」


 フォクサンの言葉が染み入るのに暫しの時間が必要で、それが脳髄に到達すると若いエルフはただポカンと口を開けるだけであった。


此度こたびの侵攻は端からそれが目的だったのだろう。『深淵の壺』が如何いかなる代物であるか、それが失われればどの様な事が起きるのか。

 何処で知り得たかは不明だが、決断するに足る確信があったに違いない」


 それ、よく考えてみろ、と年長のエルフは指摘する。

 調理のまきだの明かりの為の油だの、随分と用意周到だったろう。

 この目の前にあるランプにしてもそうだ。


 エルフや他の部族に貸し与えるだけの数を用意していた。

 調理の火炎や灯火の魔法が在ればそんな物は必要ない。


 トールマンの市井にすら行き渡っている魔法だ。

 誰が好んで無駄な積み荷を増やすものか。

 魔法が失せれば暖を取るのが更に難しくなる。


 食材の調理もそうだ。

 火を通さぬ具材では身体を壊すのがオチだ。

 士気にも拘わる。

 だからこそ冬が来る前の決着にこだわった。


「最初から全て織り込み済みだったのだ」


 そこまで語ると年長のエルフは低く細い吐息をついた。


「これでトールマンの勢力は相対的に大きくなり、今まで以上に強大になる。

 我らはまんまとその片棒を担がされたという訳だ。

 そして我らが目指す魔力の復活に、連中は大きな障害となる。

 黙って見ている筈がないからな。

 と、まぁ偉そうに講釈を垂れているが、間抜けさ加減ではわたしも皆と同じだ。

 つい最近まで気付けなかったのだから」


 ハルクックは二の句を告げるコトが出来ず、自嘲するフォクサンの横顔を眺めるばかりだった。


 折りたたみが出来る簡易テーブルの上に置かれた油ランプの炎が隙間風にうごめいて、二人の影を天幕の布地に揺らめかせていた。

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