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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第七話 お留守番していて下さい魔王さま
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7-8 驚きの心境変化

「連日面倒を掛けるな、トーツエン」


「いえ、役目ですので」


 そうは言ったものの、トーツエンは何故自分がこの場に居るのか未だに納得しきれないで居た。


 オレは只の十騎長で、後はこのまま本国まで本隊の尻尾に貼付いて、ダラダラと長い旅路を続けるダケで良かったはずなのに。

 魔族なのかどうかも判然としないあの妙な二人に出会したばかりに、この女騎士殿の諸事担当役というよく判らない役目をおおせつかっている。


 いったい何処どこで何を間違えた?


 カーフォーナーのテントの中ではランプの明かりが揺れていた。

 今ではもう精霊の灯火すら集まらなくなってしまい、エルフのテントですらトールマンから譲渡じょうとされたランプと松明、そしてロウソクだけが夜闇を照らす明かりとなっていた。


「エルフの御仁たち、どうやらその執着は日を追う毎に強くなっているようだ。そなたはどう思った。どの程度の対価が順当だと思う」


「金六〇〇〇か六五〇〇といった辺りが適当ではありませんか?あまりふっかけても禍根かこんを残します」


「欲が無いな。わたしは金五五〇〇〇、ヨーン大判銀貨なら二二〇〇〇が順当と見たぞ。ポトルペル閣下も売るとなればその程度の値を付けよう」


「わたしの八倍以上の付け値ですか。最上級の軍馬が一〇〇頭は買えます。荷馬なら八〇〇〇頭分ですよ」


「強欲か?貴族の身代金を思えば格安だと思うが」


「それは小官の断ずるところでは在りません」


此度こたびの戦は莫大な戦費を投入した。いささかなりとも補填したいと考えるのは人の常であろう。おぬしならばその辺り、かなり興味が在るのではないか?特に此度の戦で、我ら中央王国は如何いかな益を得られたか、それが気になって仕方がないのではないか?」


「何故わたしにそのようなお話をなさいます。それもまた小官の役目では在りません」


「目減りした国庫を潤すため間違いなく税は上がろう」


 皮肉めいた笑みを貼り付けて眼前の上位者は語る。


 民への負担と同時に可能な限り出費も抑えたい。

 参戦した貴族への論功行賞も必要だ。

 薄くなった軍の人員も補給せねば為るまい。

 租税の増額に加え多量に徴収した糧麦の為、今年の冬は民草にとって些か厳しくもなろう。

 可能な限り不満の声が上がらぬよう取り計らわねばならぬ。

 そしてこのような窮状きゅうじょうであってもなお、領地も取らず、敵地での兵糧抽出も行なわず、ただ元の国境を目指して引き上げるだけだ。


 そう語って女騎士は肩をすくめて見せた。


「確かに不可解ではあるが、命とあらば従うしかない」


「従順のようにも聞こえますが、まるで王族のような物言いですね」


 追従ついしょうではなく下位の者からの些か不敬な疑念であったのだが、カーフォーナーは聞こえぬふりをした。


「いま我が国には何が一番必要だと思う」


「カネと食料でしょう」


「それと人だな。人無くしては国は成り立たん。

 そしてまだ内密にしてもらいたいのだが、今後三年間、我が軍で十人長以上の者の退役金は支払わないという決定が為された。

 最低でもあと三年、軍に在籍して居なければ今まで務めた分の慰労金は受け取れないということだ。報奨金もまた同様だ」


「は?」


「軍団が母国に到着次第正式に発表される。

 寝耳に水であろうが、先程言った通り我が軍も厳しくてな。戦時招集の一般兵は致し方ないとしても、これ以上、正規で軍役に付いた者を失う訳にはいかぬのだよ。そしてそれに伴う更なる出費もな」


「け、契約違反でしょう」


「契約書を読み直してみよ。

 規定の兵役は二五年、或いは戦功による退役権利の獲得。そなたは後者だな。義務を果たせば去るのは自由だが、慰労金や報奨金の受け渡し条件や時期に明記はない。

 まぁわたしも姑息なやり口だとは思うが」


「な・・・・」


 トーツエンは二の句を告げるコトが出来なかった。


「三年後はこの落とし前として上乗せが為されるが、しかし、これからは税も上がり馬や荷馬車の値も吊り上がろうな」


 カーフォーナーは小さく溜息を付いた。

 だがトーツエンは知っている。

 それがただ表面おもてづらだけということを。

 その貌の裏に舌舐めずりをしている牝狼が見えるのは、決して幻影ではないと確信していた。


「そなたとはまんざら知らぬ仲でもない。そしてわたしは補佐を任せられる秘書官を求めている。上位の騎士補佐ともなれば受け取れる退役金もケタが異なるぞ?」


 艶然と笑うその唇に、頭から呑まれて行くような錯覚があった。




「連中は金五五〇〇〇と言ったらしい」


 ハルクックはフォクサンから唐突に金額を聞かされて一瞬頭の中身が固まり、そしてそれが何を意味しているのかと判ると「どういうコトなのですか」と聞き返していた。

 常識外れな金額の提示もさることながら、自分の与り知らぬ所で一足飛びに話が進んでいるコトに大層驚いたからだ。


「欲の皮のつっぱった連中だ。実にトールマンらしい。

 そして恐らく我らの幹部会もそれを呑むだろう。コチラもまた腰砕けはなはだしいわ。交渉する気概すら失せているとは情けない。魔力の枯渇と共にエルフの意地もすり切れたと見える」


「初耳です。いったいどういった経緯でそのような話になって・・・・いえそれよりもあれだけ渋っていた幹部会がどういう心境の変化です。本当にそれは事実なのですか?」


「まぁ驚くのも無理は無い。わたしも聞いた時に耳を疑った。わたしはただ報告会で『かの魔道具は魔道具ではない。より高次の機械技術の産物だ』と告げただけだ」


「間違いなくフォクサンの報告が火種ですよね、ソレ」


「わたしはわたしの所見を述べただけだ。それを聞いてどう判断するかまで責任は持てん」


「ひょっとして、いえ、ひょっとしなくてもわたしに説明した内容をそのまま開陳しましたね。アレはちょっと衝撃在りますよ」


「報告者が事実を報告せずしてどうする」


 辟易したふうの物言いだが口調は澱みない。


 あの黒い異物には魔石の存在も精霊の波動も魔法陣の構成も感じられなかった。

 試しになけなしの魔力を投入してみたが何の反応もなかった。

 そして魔族の女からも魔法魔術の気配が感じられなかった。

 呪文の詠唱など微塵も無し。その気配すら無かった。

 アレは火炎と燃える某かを封入し、それを糧として動くカラクリだろう。

 お陰で危うく火傷しそうになった。


「あの黒いカタマリはただの機械だ。我らエルフとは相容あいいれぬものだ」


 年長のエルフはそう語る。


「わたしは未だに信じられないのですが、やはりそうなのですか」


「あの二人は恐らくカラクリ技術に秀でた国から来たのだろう。

 連中が携帯していた魔道具も検分したが、やはり似たような感想でしかなかったな。

 魔法魔術に秀でた我らエルフよりもむしろ、手先の器用なドワーフ達の方がより親和性が高かろう。

 あと一〇〇、いや五〇年もすれば連中は同じ物を作り出せるようになるかも知れん。

 何しろ見本が目の前に在るからな。

 存外アレよりも良い物が出来上るかも、だぞ」


「魔道具のエキスパートからそんな事を言われたら不安にもなります」


「まぁ見本を渡さぬというのは一つの手だろう。競り合う相手に助力する者はらぬ。だがそれは筋を踏み違えて居よう。相手の足を引く前に、自身の難題を解決する方が先ではないか?そうは思わないか」


「確かにそれはその通りだと思います。ですがあの魔道具、いえカラクリですか?それを論外と片付けるのも極端だと思いますけど」


「エルフにカラクリ機械の類いは不要。魔法魔術を研鑽してこその我らだ。

 故にこの魔力枯渇の原因を探り、その危機から脱する為の方策を見つけ出さねばならん。半信半疑ではあったが、ハルクック。あの二人が別の理がある場所から来たという仮説、真剣に検討する必要があると感じた」


「それもまた驚きの心境変化です」


「茶化すな。あれほどのカラクリ機械を作れるほどの一族、この地上には恐らく在るまい。魔王城にあった魔法陣もそこにつながっている可能性が在るな」


 ソコには微妙な含みが在った。

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