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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第七話 お留守番していて下さい魔王さま
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7-4 際限なく暇

 魔王はまた地下に降り立っていた。


 巨大な高圧コンデンサーが立ち並ぶ様はいつ見ても圧巻で、よくもまぁ一人でこれ程のモノを用意出来たものだと感心する。

 ざっくり八〇年程度などとあの魔女は軽くうが、異邦の地で同胞も無く、すがる者も無く、ただ黙々とこの巨大な魔法陣を構築し続けたのだ。

 並みの胆力ではない。

 ただ魔族を救うという信念が此処ここにこうして形を為しているのである。


 無駄にする訳にはいかぬ。


 魔族の為にも。

 あやつが貫く矜持きょうじの為にも。

 我らの行く末を憂える臣下の献身、その労に報いることが出来ずして何が王か。

 何が魔族の頂点か。

 の身は魔族の為にあり、全てを捧げ皆を救うことが出来るのなら、塵に為ろうといといはしない。

 その程度の覚悟はとうに出来て居る。


 だというのにあの唐変木魔女は!


 黒髪の魔王はギリリと音を立てて歯を噛みしめる。

 完成するまでの百年、この異邦の地で食客として寝て暮らせとは何たる言い草か。

 魔王を魔王とも思わぬこの扱い、わしを只の小娘としか見て居らぬと憤懣(たぎ)らせて、彼女は今日もまた足を踏みならすのだ。


 だが彼女は知っている。

 自分がこの地で如何いかに無力であるのかと言うコトを。

 そしてあの魔女の言う通り、術無く指を咥えて見ている以外に出来るコトが無いと言うコトを。

 それを熟知して居るが故に苛立いらだち、故郷の同族の先行きを憂い、焦燥を募らせるのである。


 確かにあの魔女の云う通りこの魔法陣は不完全。

 だがまるで使い物に為らぬという訳でもない。

 断片的でも能力を発揮出来るのだから、やりようはいくらでもあるのではないか。

 要は現状でも上手い使い方を編み出せば、幾らかなりとも手助けが出来るのではないのか。

 そう考えたのである


 なので、幾つかの案を練り出し、その都度に件の唐変木に話を持ち掛けた。

 だが、すべからく蹴り落とされた。




 何ですか魔王さま。

 蓄財者を片端から捕らえて魔法陣で我らの土地に放り込め?

 一日が二五年の時差なら数日でこちら側の関係する者が失せ、蓄財者は無力に?死体の処理や軟禁する手間も要らぬと。


 阿呆ですか、魔王さま。

 そんなコトをしても連中の金倉は手に入りませんよ。

 此の地の国家権力と捜探力を舐めすぎです。

 あの地下が大っぴらになったらどうするおつもりですか。

 戦場で貴族を縛り上げて身代金を要求するのとは訳が違うのです。

 我らの地の常識はの地での非常識。

 そんな浅知恵で乗っ取れるくらいならとうにわたしがやっています。


 権威の通じぬ権力は無意味なのです。

 此の地では魔王さまはただのお子様。

 今一度しっかりと御自覚下さい。




 またですか魔王さま。

 呼び掛けて我らのシンパを作り、向こうへ送り込んで魔族を集める一助にする?

 異世界に憧れる若人が多いから賛同者は少なくない筈?

 同じトールマンゆえ魔族の者より余程身軽であろうと。


 阿呆ですか、魔王さま。

 何処の怪しいカルチャースクールですか。

 今どきそんな三文詐欺に引っ掛かる間抜けは居ません。

 そもそもどうやって呼びかけるのです。


 ネット?魔王さまはサイトの作り方を御存知なんですか。

 公開したところで、ラリったトンチキが作ったお莫迦ブログと思われるのが関の山です。

 たとい引っ掛かったとしても、そんなお間抜けな者に同胞の捜索などという大役が務まると思いますか?


 それにお子様は保護者の許可が無ければネット運営出来ません。

 勿論もちろんわたしは不許可です。




 今度は何です、いい加減にして下さい魔王さま。

 わたしはこう見えても忙しいのですよ。

 え?

 自分を向こう側に送り出せ?

 子供の姿のまま難民を装えばトールマン共の目を誤魔化せる?

 向こうに行けば同族の助力も在るゆえ何の心配も要らぬと?


「ド阿呆ですか魔王さま!」


「至近で大声を出すな!叫ばんでも聞こえて居るわっ」


「正気の沙汰とも思えません。何の為に皆が身命を賭して魔王さまをの地へ送ったのか。近衛の者が身を挺して時間を稼いでくれたとおっしゃっていたではありませんか。その光景をもうお忘れですか。彼らの最後の声はもう魔王さまの脳裏には残っておりませんか。

 今の言葉を聞けばグノー殿も冥界で呆れ果てて居りましょう!」


「エルフさえ誤魔化せれば問題はない。トールマンなど障害にもならぬ」


「そのトールマンによって魔王城は落ちましたが」


「此の地にて幾ばくかの新たな知見も得た。我らの地の待避用の転移陣の位置も、コチラ側の開封呪文も知った。此の地の平穏さもな。それらを皆に伝えれば励みにも為ろう。そなたはわしが戻るまで魔法陣構築にはげめ。なに、我らの地でほんの四、五日じゃ」


「そのほんの四、五日で魔王さまの首は胴と離れて居りましょう。その光景が見えます、ええ、そりゃあもうハッキリと」


「不吉な事を云うでないっ」


「ツノのある魔族の子供を見逃すお間抜けな兵など居りません。そんなスカタンは端から軍人には成れないからです。ましてやエルフを誤魔化すなどと。はっははっはっはー!笑いすぎてヘソでグラタンでも作れそうですわ」


「器用なヤツめ」


「何度でも申し上げましょう。魔王さまはド阿呆です!」


「やかましいわ!此の地に在ってもわしは何の役にも立たぬ。それならば一端なりとも皆の助力と為る方が有意義であろうが」


「王族は血を残すという使命がございます。今日の恥辱屈辱が如何いかほどのものでありましょうかっ」


「目が血走って居るぞ。主君に殺気走るなど無礼であろう!」


「臣下の諫言かんげんにございます。

 魔王さまもとうに分かっていらっしゃるのでしょう。壺が壊されたいま、我らの地は以前のままでは在りません。エルフやノーム、フォレストウォーカー、魔物や竜族も衰退し、遠からず全ての地はトールマンが総べるように為るでしょう。

 既に我らの地は別物。素足の幼子を焼けただれた火の山に送り出す者など居りません」


「嫌な例え方をするのう。それに壺の消えたいま、魔族の王族に意味など在るまい」


「在ります」


「ほう、何じゃ。いまのわしは魔法魔術の使えぬ只の童よ。の地ばかりでの話ではない。我らの地でももはや同様。このツノも既に飾りでしかないわ」


「魔族のシンボルであると同時に、我ら魔族全員の魂のり所にございます」


「・・・・驚いた。随分と殊勝な物言いじゃ。そなた、その様な台詞が吐けたのか」


「ええ。今まで内緒にして居ましたが」


「いっその事死ぬまで口にせずとも良かったものを」


「それはソレで面白く在りません。

 魔王さま、此の世には面白いコトと面白くないコトの二つがあります。魔王さまはこの所面白くないコトばかり味わって来ました。そろそろこの辺で面白くつ、愉快なコトを味わってみたいと思いませんか」


「不思議じゃ。何故か銀色の『めりけんさっく』が頬や頭にめり込んだ痛みしか思い出せぬ」


「過去の傷は未来のスパイスと為りましょう」


「ふざけた物言いじゃ。おぬしは変わらんの、何処に在っても」


「それがわたくしの持ち味ですので」


「どうしても行くなというのか」


「不許可、でございます。これはお願いではありません。絶対の禁則事項なのです。どうあっても仰るのなら、このわたくしの屍を乗り越えていただきます」


「・・・・何処をどう見てもわしが勝てる目など無いではないか。まったく、おぬしは何処までも不敬なヤツじゃ。分かった、今回は諦めよう」


「次も不許可ですよ?」


「せっかちな奴め、少しは気を持たせる位は出来んのか」


 ヤレヤレといった風情でやれやれといった感じの溜息が洩れた。




 全く、けんもほろろで取り付く島もないわ。


 暗い地下の中でコンデンサーの唸る音だけが聞こえて居る。

 地上の喧噪と切り離されているせいだろうか。

 仰々しく賑やかな此の地の一角というのが、少し信じられないほどの静けさだった。


 あやつの言いたいコトは分かる、分かるがしかし・・・・

「お陰で此の身は際限なく暇じゃ」

 黒髪の魔王は少し引きつったような苦笑をすると、今一度、小さな溜息を付いたのである。

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