魔道具は置物では無い
フォクサンに行けと言われて虜囚となった魔族の男女と面会した。
真っ黒な見た事も無い魔道具を前に、アレだコレだと説明を受けたが、半分も理解出来なかった。
要は地上を走る魔道具らしいのだが、動く様を見た者の話ではどんな馬よりも速く、熊よりも力強く大地を駆け、瞬く間に視界から失せたのだという。
速度が自慢の軽装な胸甲騎兵を容易く振り切り、投げ槍はもちろん弩の矢すらも追い抜いたという証言もあった。
正直、俄には信じがたかった。
だがあの真っ黒でツヤツヤとした、複雑な造形の外見を目の当たりにすると全てを鵜呑みにしたくなる。
何と言うか圧倒されたのだ。
まるで黒曜石を削り上げたかのような色合い。
水で濡れているのかと思い軽く手で触ってみたのだが、顔が映る程にまで磨き上げられているのだと知って思わず感嘆した。
中心部には、やはり同じく鏡の如く磨き上げられた支柱や板材が複雑に絡み合っていた。
恐らく銀細工の装飾ではないかと思うのだが、何某か魔術の役割を持っているのかも知れない。
魔道具を専門としている訳ではないが、全くの素人という訳でもなかった。
此まで数々の品を目の当たりにしてきたが、それらのどれとも似ていなかった。
その一方、何と言うか抗いがたい魅惑に満ちた逸品だった。
成る程、検分した者たちから、感心至極といった物言いが聞こえて来たのも納得出来る。
コレは確かに尋常ならざる出来合だ。
このまま王宮の水鏡床の間に飾ったとて決して見劣りなどはすまい。
「これはいま動かせるのですか」
迂闊にも声が弾んでいた。
そして魔族の女性から「お望みならば」という返答があって、胸が躍ったことを憶えて居る。
だが立ち会いの十騎長から、本日は口答のみで済ませて欲しいと言われて諦めざるを得なかった。
惜しい、と落胆したことは偽らざる本心だった。
「フォクサンも立ち会えば宜しかったのに」
「魔族は好かんと言った筈だが」
「あの魔道具は正に一見の価値ありです。わたしと一緒に検分して寸評を聞いてみたかったですね。まるで磨き上げられた工芸品の如き色艶。驚くほどに複雑な造形。逞しい佇まい。聞くところに寄れば獣のような唸り声と共に風を巻いて疾走するのだとか。動く様を見れなかったのが実に心残りです」
「随分と惚れ込んだものだな」
「良きモノは良きと素直に感嘆しているだけです」
「魔道具は置物では無い。働きをもって評価するのが筋だ」
「ならば次はその旨を申し込んでみては如何でしょう。その時には是非わたしも同行させて下さい」
「・・・・ふん」
少しの間を置いた後に、フォクサンは鼻を鳴らして立ち去ってしまった。
あの様な物言いをしているが本心は違うな。
そう確信するハルクックであった。




