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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第六話 千客万来です魔王さま
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6-8 目論見通りに事が進みますように

「そんなバナナ!」


「バナナじゃなくて。ジェネーブ条約なんて無いって言ったのは公介くんじゃないか」


「確かにそうですけれど。処刑されたら死んじゃうじゃないですか。死んじゃったらご飯食べられないじゃないですか。スマホのコンテンツだって利用できなくっちゃうし、映画やドラマも見られない。ああっ、そう言えばスマホも取り上げられたままだった!」


「落ち着きたまえ、今すぐって訳でもないだろう。わたしらが取敢とりあえず『丁重』に扱われているのは、そうするメリットがるってことだ。取引材料にでもされて値段交渉やってる最中なのかも知れない、多分だけど」


「だ、大丈夫なんでしょうか」


「コメントは差しひかえさせてもらおう。おりの中じゃ憶測おくそくくらいしか出来ないしね。無責任な事は言いたくないし、悲観論を開陳かいちんしても意味はないし」


「・・・・」


「ま、まぁ、大丈夫だよ。鰓子えらこ伯母さんだってわたしらが行方不明になった事は気付いているはずだ。わたしが言うのも何だが、普段はあんな感じだけれどイザという時には頼りになる人なんだ。何某なにがしかの方策は練っているさ。ボンヤリ指を咥えて待っているようなキャラじゃない。それは保証する」


「いっその事、俺たちが別の世界から来た人間だ、関係無いから解放してくれと素直に言った方が良かったんじゃないですか」


「前にも言ったけれど、それを言う相手は慎重に見極めておいた方がイイ。わたしらは彼らにとって敵対している相手なんだ。しかも軍隊に捕まっているし、周りは血の気の多い連中ばかりだ。

 助かりたい一心で嘘でまかせを言っていると判断されれば、後はもう何を言っても聞く耳を持ってくれなくなる」


「いやいや、そんなコトは無いでしょう。言えば聞いてもらえますよ」


「みんなが皆、冷静とは限らないよ。耳を貸してくれればイイけれど。

 仮に昔の日本の軍隊に金髪碧眼きんぱつへきがんの白人兵士が捕まって『俺は別の世界から来た人間なんだ、助けてくれ』と日本語で叫んでいたら、素直に信じてもらえると思うかい」


「え、ええと・・・・」


「完璧に無視されるか、『ざけんなボケ』って逆に逆鱗げきりんに触れるのがオチなんじゃないかな。それに転移陣、だったっけ?それを使ってわたしらの世界と行き来出来る、なんて知られない方がいい。絶対今以上に面倒くさいコトになる」


「逆に帰る手助けをしてくれるかも」


「ロハで手を貸してくれる相手なんて居ない。そんなの崇高なボランティア精神の持ち主くらいのものだ。そして我々は何を見返りに出せる?わたしのバイク位のものだろう。

 それに迂闊うかつに情報与えて利益が見込めるとなったら色々とえげつないぞ。間違いなく拘束は長引いて、ヘタすると連中がわたし等の街にやって来かねない」


「いや、でも、流石にそんなコトまでは」


「大きな戦争の後らしいし、戦費回収になるなら何でも欲しがるだろうな。何度も言うけれど、戦場の軍隊ってのは無法と紙一重なんだ。末端に行くほどそれは顕著けんちょになる。だからこそ略奪りゃくだつや虐殺をしない軍ってのは、それだけで皆が手を叩いて喜ぶんだよ」


「それだと盗賊と大して変わらないじゃないですか」


「そうだよ。現代は個人にも情報の共有化が浸透して不埒ふらちな連中は減ったけれど、それでも本質はきっと変わらないよ。情報インフラが整備されていない世界なら尚更なおさら。それに規律なんてものは直ぐに緩むもんだ。

 帰ったら『戦争、略奪、虐殺』の項目でちょっとググってみるといい。そこら中から出てくる」


「・・・・」


「ベストは、此処ここから解放されて伯母さんがやって来るのを安全な所で待つ、って所かな。話の分る専門家に助けてもらって帰るという道もあるけれど、今はアテの無い夢物語でしかないし」


「俺等だってどうやって此処に来たのか分ってないじゃないですか」


「そう、だからこそだよ。分っても居ない事を口にしちゃ駄目だ。わたし等が未だ無事なのはバイクの取説が欲しい連中が居るからだ」


 そこで一旦いったん言葉を切った。

 彼にキチンと現状を理解して欲しかったからだ。


 の世界は、現代に住むわたしらの感覚で物事を考えちゃいけない場所なんだ。


「彼らが望むのは、自分でも分って居ない事をわめく捕虜じゃない。欲しいモノを提供する協力者だ。そしてわたし等にも同じように協力者が必要だ、絶対にね。コチラの話を聞く気があって信用出来る相手が、だよ」


「何処に居るんです、そんな人」


「今日来たあのエルフの女性とか、かな」


「途中から顔引きつらせて居ましたけど」


「商品を効果的に見せるには、最初のハッタリが大事なんだよ。それにあのエントツ隊長もわたしらが普通じゃないと気付いているからこそ、その都度に助言をくれるのだろうし。一見いちげんのお客さんには、破綻しない程度のインパクトがないと興味を持ってもらえない」


「だからエントツじゃないでしょ。お客さんって何なんです。それにエルフの人がまた来るとは限らないじゃないですか」


「いや、来る。別れ際に何かに気付いた顔してた。彼女はまた必ず来るよ」


「よく見てますね」


「社会行動学は先ず観察在りきだからね。観察と考察を絶えず繰り返して、自説を構築するのが基本だよ」


 とはいえ、多分に希望的観測が含まれて居るけどな。


 正直、勝率はそれ程高くはない。

 これっきりでこのまま最悪の結果がやってくる可能性だってある。

 いやむしろそちらの方が・・・・


 公介くんが気付いているのかどうか分らないが、此処に居る連中はみな人を殺し慣れている。

 まとう雰囲気が普通じゃない。

 あのエントツ隊長だって友好的に接してくれているけれど、一皮()けばきっと同じだろう。

 何と言うか、普段の何気ない身のこなしにすら緊迫感があった。


 この毛布代わりのボロ布だってアチコチに茶色の染みがあるし、これは間違いなく血の跡だ。

 見張りの連中のズボンや上着も似たようなものだった。


 そしてギラつく眼差しや肌に刺さるようなピリピリとした空気。

 わたし達が住んでいる国の住民とはまるで違う。

 言葉だの肌の色だの食事や衣服が粗末だのという前に、根本的に地金が違うのだ。


 コイツらは間違いなく、ガチで人殺しの集団なのである。


 理屈なんかじゃない。直感と言って良かった。


 伯母さんがきっとやって来るとはげましてはみたものの、簡単じゃあないと思って居る。

 大勢の仲間を助けようと八〇年以上準備を続けて、まだその願いが叶わずに居るのだ。


 わたし達の世界とは時差があると聞かされているけれど、果たしてコチラの一日が何年に相当するのだろう。


 あとどれ位待てばわたし達の世界とコチラ側がつながる?


 そして伯母さんは上手い具合にわたし達を見つけてくれるのだろうか。


 その瞬間が来るまで、わたし達は無事なのだろうか。


 間に合わなければ、あの時みたいに。


「・・・・」


 ああもう、イヤな場面ばかりが思い浮かんでくる。


 檻の中に閉じ込められっぱなしでネガティブな気分に為るのは仕方がない。

 だが、公介くんを無駄に不安にさせる必要もなかろう。


 そしてハッタリというヤツは色々な場面で使い勝手の良いスキルなのだ。


 わたしごときの虚勢なんて高が知れているのだけれどもな。


 それでもまぁ取敢えず、今日一日は生き長らえそうだ。


 願わくば目論見通りに事が進みますように。


 背の高い女子大生は毛布という名のボロ布の打合せを閉め寄せて、一眠りすべく軽く目を閉じた。

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