6-6 口惜しげに苦笑
捕らえられた最初の日に、彼を人質にされてバイクのお披露目をした事があった。
魔道具だの何だの大仰に騒がれて、どういうカラクリなのかと執拗に尋問された。
答えられる限りのことは話したが半分も理解してもらえなかった。
公介くんの通訳越しだったから今ひとつ意思の疎通が図れて居なかったけれど、どうにも「どのような仕組みで動くのか」という技術的な話よりも、「動かないはずの物が何故動くのか」という彼らの理屈に合わない事に説明を求められていたような気がする。
わたしのバイクを魔道具だと考えて居るのなら、それが「動かない」「動くはずが無い」と考えた根拠があるんじゃなかろうか。
それを知りたいが為に処遇が決まらないのなら、逆に分った途端に自分達は用済みになるという事ではなかろうか。
考えたくも無い未来を予見してブルリと背筋が震えた。
此処は日本じゃ無い、戦争やっている真っ最中の国なのだ。
人権なんて概念微塵も無さそうだし、現代の紛争地域ですら民間人の虐殺は起きている。
わたしらの捕虜としての価値を上げておいて損はあるまい。
っていうか、そうして置かないと間違いなくヤバいような気がする。
まぁこの檻の中で出来るコトなんて殆どないんだけれど、状況の整理とアピールの仕方には一考の余地アリだ。
「魔道具というモノはどうやって使うんだろうな。呪文か何か唱えるのだろうか」
「俺に聞かれても・・・・」
「今度その隊長が来た時に訊いておいてもらえるかい。なんて名前だったっけ。エントツとか言って居たような気がする」
「絶対違うと思いますけど、なんかそんなニュアンスの名前でしたね」
「だよな」
そして三千本桜彩花は間柄公介と共に、これからの先行きについて長い長いディスカッションを始めた。
何しろ時間だけは腐るほどあった。
「それではトーツエン殿はあの二人を解き放てと言うのか」
黒髪を頭の後ろでまとめた女騎士は天幕の中で、些か怪訝な表情のまま目の前に座る十騎長に問い返していた。
「連中が欲しているのはあの魔道具でしょう。取り上げて放逐するのが一番簡単です。あの二人はどう見ても戦に携わる類いの人種じゃない。魔族を何時までも陣内に留め置くというのも体裁が悪いでしょう。邪な連中は何処にでも居ます」
「首を落としても同じ結果だが、どうして二人の存命に拘る。それに生かし置くのなら、あの魔道具の仕組みや取り扱いを吸い上げるべく虜囚とするのが筋だと思わぬか」
「根拠という程のものは在りませんが、どうにもこうにも得体が知れないのですよ。ただ、間違いなく普通の市井の者ではありません。高い教養に裏打ちされた物言いや物腰があります。
しかし貴族という程にまで洗練されている訳でもない。薄らボンヤリしたボンボンかと思えば、思わぬ視野と知見すら持ち合わせて居る。チグハグなんですよ」
「とは言え、助命を乞う物言いとしては弱すぎるな」
「ぶっちゃけて言えばわたしの勘に過ぎません。何故か二人の処刑は竜の鼻先に蹴り入れるようなものだと思えてならんのです」
「勘、ね。しかも竜ときたか」
女騎士は含み笑いをしたが、特にトーツエンの言を無下にする様子もなかった。
「ポトルペル閣下は首を刎ね、魔道具もろとも破壊して地に埋めよとおっしゃって居るのだとか」
「軍律云々と口にはしていらっしゃったが、所詮捕虜の行く末なぞ上に立つ者の胸先三寸で決まる。初めてあの二人を見つけた時に、自慢の騎兵を完全に煙に巻かれたのが余程に腹に据えかねたようだ。
わたしも目にしたが、確かにあの魔道具の速さには驚かされた。どのような駿馬でもあれほどではないよ。果たして鳥でも追い付くことが出来るかどうか。
故に、エルフの興味まで引きつける羽目に為ったのだが」
「色々と話が大きく為っていると聞きました」
「魔道具ごとあの二人を取り込もうと画策している。お陰で閣下の一存だけでは事が決さぬようになってしまった。魔力の尽きかけた現状において、アレは垂涎の馳走であろうからな。ならば只で手渡してやる事もあるまい。
そしてエルフの魔法使いが二人への面会を申し入れている。明日立ち会ってはもらえぬか」
「それは構いませんが、何故にわたしなので?」
「そなたが今回の件で一番利害の外に在ると見たからだ。そして理だけではなく直感を大事にするところも良い」
「カーフォーナー殿、単純にわたしが事なかれな乙女を気取っているとは思いませんか」
「いや、そなたは実務的でかつ堅実な道を選ぶ。天秤の傾きを見ることに長けているのだ。賭け事が嫌いだろう」
「買いかぶりすぎです。まぁ確かに賭け事は嫌いですが」
「本当はわたしも立ち会いたいのだが外せぬ用事があってな。此度の動向、そなたの所見を参考にしたいと思って居る」
「責任重大ですな」
「そなたが研ぎ始めた剣であろう。最後まで面倒をみろ。そしてこのままわたしの配下に収まらないか」
「またその話ですか」
「此度の戦で大勢が死んだ。有能な者も、忠義に篤い者も。わたしは特に弁才ある能吏を捜している。悪いようにはせぬぞ」
「高く買って頂いて申し訳ありませんが、わたしは以前より戦が終われば旅商人を営みたいと考えておりました。ご辞退させて頂きたい」
「そうか。無理強いはせぬが、気が変わったのなら何時でも声を掛けよ。では明日は宜しく頼む」
しょぼくれた風体の十騎長は立ち上がると一礼をして、女騎士の天幕を後にした。
そして薄暗いテントの中で黒髪碧眼の主は、口惜しげに苦笑するのであった。




