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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第六話 千客万来です魔王さま
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6-3 「名を聞かせて欲しい」

「待て。待つのだ、そこな怪しげな二人!」


 叫んでいるのは数騎の騎馬をしたがえた、銀色の甲冑を着込んだ騎士だった。

 互いの顔が判別出来る距離まで近付くと、お供の騎兵が件の二人を囲み速やかに退路を断った。


「そこな三人!何をボンヤリ突っ立っておる、早々にその魔族めを引っ捕らえぬか」


「これはこれは。『中央』の騎士殿とお見受けします。わたしは竜王騎士団第九大隊十騎長トーツエンと申します。御名前をお訊きしても?」


「第九?右翼の者か。わしは竜王騎士団中央第二大隊ポトルペル伯である。我が命は聞こえたであろう。直ぐさまその二名を捕らえこの場で素っ首をねい」


「それはまた急なご下命にございますね。罪状をおきしてもよろしいでしょうか」


「この者たちは魔族である。それ以上に説明が必要か」


如何いかな証をもってこの二人が魔族であるとのご判断でしょう」


「たわけたことを。魔族の言葉を操り見慣れぬ風体、しかも魔道具を操る。そもそも斯様かような魔族の領地にトールマンの市井など居るはずも無い。何処に疑う余地があろうか」


「わたしも魔族の言葉を多少操れます。『中央』の騎士でいらっしゃる閣下の鎧にもエルフの護符魔法が施され、帯剣されていらっしゃる剣にも魔力を付与されていらっしゃるのではありませんか。御身を包む甲冑や武具は紛れもなく魔道具。如何いかがでしょう、わたしと閣下は魔族に類するのでしょうか」


詭弁きべんろうし、わしを愚弄するつもりか!」


「閣下、しばし」


 かたわらに控えていた騎士が割って入った。


「駆けて来たばかりで気持ちもたかぶってございましょう。此処ここはわたくしが。下々との議論に御口をわずらわす必要もございますまい」


「む、む。よかろう、任せた」


「騎士トーツエン。そなたの言う通りではあるがこの二人は我が軍を翻弄ほんろうし、攪乱かくらんを企んだ者として捕縛命令が出ている。また生殺与奪の権限は現場に授けるとの幕閣の承認もあり、伯より先程の命が下された。納得して頂けたであろうか」


 しょぼくれた十騎長は部下に脇を小突かれて「なんだ」と唇も動かさず小声で答えた。


「おかしら。なに張り合ってるんですか。逆らっても良いコト無いですよ」


「隊長って呼べっつってんだろが。オレが良しって決めたことを、後から来た連中に目の前でひっくり返されて黙ってられるかよ」


「しかも『中央』の騎士様ですしね」


「うるせえよ」


 介添かいぞえの騎士の声が聞こえた。


如何いかがした。承諾の言葉を聞きたいのだが」


「見たところこの二人丸腰の市井の者に見えますが、仮に魔族の者で無かったとしたら剣のけがれとなりませんか。それに我らはとうに撤収の最中です。我が軍を翻弄攪乱し魔族にどの様な益があるのでしょう」


「軍の行動を遅滞させるのは充分な罪である。この場で冬となれば、越冬の準備の無い我らは凍えて果てる事も在り得る。由々しき事態とりかねない」


「それ程容易く事が為るのなら、連中はもう当にやってます。いささ大仰おうぎょうに過ぎませんか」


「我らが騒ぎすぎると。どうした、貴公はその二人に恩義でもあるのか。それともかばうことで何某なにがしかの益を得るのか。竜王騎士団の一翼をになったとなれば堂々たる経歴。帰国した暁には陛下の謁見をたまわることも夢ではない。此処ここで事を荒立ててもそなたの名に傷を付けるだけであろう。何故に閣下の決定に異を唱えるのか、正直理解に苦しむ」


「異を唱えているのではありません。むしろ伯の名に傷が付くことを恐れての事です。無名無辜むめいむこの民を不確かな事実で首切り落としたなどと、人々のそしりを受けることを思えば、わたしへの誹謗ひぼう中傷など如何いかほどのものでしょう。栄光の竜王騎士団の名にし負うポトルペル伯が斯様些末かようさまつな戯れ言に翻弄されるなどと、その様な事態となってはこれからの夜を満足に眠れる自信がございません」


「貴公は剣の腕だけではなく弁舌の才もるようだ。つまりそなたは、この者二人の罪状をつまびらかにし罪を認めさせた後に首を落とせ、誰にでも納得出来る手順を踏んだ後にそれをせと、そう申すのだな」


「ご明察にございます」


「閣下、如何いかが致しましょう」


「む、む、確かにいささか短慮であったやも知れん」


「ではこの場は、二人の捕縛に留めるという事でよろしゅうございますか」


「うむ。二人を捕らえて本隊に引っ立てい。其処そこにて改めて罪状を吟味ぎんみし処罰を言い渡す」


「ご英断にございます。二人を捕縛し連行せよ。ただし傷つける事はあいならん」


 こうして珍妙な二人組は虜囚と為り、黒い魔道具と共に本隊へ向けて連行されることと為った。

 その様子を傍目に眺めながら、ヤレヤレと言いようのない疲労に溜息をつくトーツエンに、介添え役の騎士がくつわを並べて来た。


「助かりました、騎士トーツエン。閣下は激し易く、如何様いかようにしてなだめようかと言葉を選んでいる最中でしたので。そなたの言う通り、あの者二人を斬ったとしても良い評判とはなり得ません」


「あなたの手の平の上でしたか。それに、申し訳ないがわたしは騎士ではありません」

「いやいや、そなたの弁才は中々のものです。それに欲すればその位を得るのも難しくはないと見ました。如何でしょう、その才を花咲かせようとは考えませんか。十騎長などそなたには小さすぎましょう」


「評価して頂くのは有り難いですが、過分な褒め言葉です。この身には荷が重すぎます」


「それは残念。しかしそれはソレとして貴公は中軍までご同行願いたい」


「は?いや、しかしの身には任務が在りますので」


「荷役隊の護衛に騎馬弓兵は過剰でしょう。後はかちの兵卒に任せ一隊丸ごと来れば宜しい。任の引き継ぎはわたくしの部下が引き受けますのでご心配なく」


「え、しかし、何故」


「あの二人をいさかいの種とらぬように、街道から隠そうとしていらしたでしょう。どの様な経緯からその様な思惑に至ったのか、詳しくお聞きしたい」


「成る程。しかし大した理由ではりません」


「その辺りも含め子細は今宵、わたくしのテントにて。それでは」


 離れようとする介添え役の騎士を呼び止め「名を聞かせて欲しい」と頼んだ。


「嗚呼これは失敬。ポトルペル伯補佐、騎士メフレス・カーフォーナーと申します」


 其処そこで初めて彼の騎士は面覆いを上げたのだが、その下に現われたのは黒髪碧眼くろかみへきがんの麗しき女騎士の横顔であった。

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