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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第六話 千客万来です魔王さま
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6-2 「待て」と呼び止める声

 魔族の魔術魔法が傑出しているという事実には、誰も異を唱えない。


 エルフやノームの一部は「我らこそが正統にして真なる魔法技術の体現者」と反論する者も居るが、あくまでそれは少数派。

 この世の大多数は「恐るべき存在なれど卓越した術を操る者たち」として畏怖いふの念を抱いていた。

 誤解を恐れずに言えば「憧憬(どうけい)」に似た感情が潜んでいると言っても良い。


 勿論もちろん、為政者を含め識者の大多数がそれを肯定することは無いが。


 元より国交の無い敵国の物品である。

 その為、魔族の持ち物や魔道具の類いは好事家や貴族の間では珍重され、闇市では市井の者では手が出ない程の高値で取引される事も多かった。


 故に、魔道具は女と共に略奪品の筆頭株でもあった。




「お前達は何者か」


 恐らく先見さきみの者が口にした詰問であろうが、場を取り仕切る者として今一度尋ねてみなければならなかった。


 見れば少年と女である。

 女の方は上背があり、やたらと髪が短かったので遠目には男かと思った。

 だが近寄って見て初めて女だと知った。

 身体の線がき出しの、まるで娼館でお出ましに為りそうな実に破廉恥はれんちな衣服であったからだ。


 白昼の路上は勿論、戦を終えたばかりの男共の前に立たせるのはいささはばられる格好だ。


 部隊を足止めして置いて良かった。

 部下の阿呆どもの中には見境の無いヤツも居る。

 最初、魔道具と聞いて火事場泥棒の類いかとも思ったが、どうにもこうにもそんな輩にも見えなかった。


 ひょっとしていくさで色町から焼け出され、稚児をともない逃れている最中なのか?


 少年の方も小娘かと思える程の顔立ちで、そう考えればいくらか辻褄つじつまは合いそうだ。


 正直この辺りの地理にはうとい。

 魔王城から幾分いくぶん距離はあるものの、自分の知らない街があるのかも知れなかった。

 だとすれば不憫ふびんな話ではある。

 たとい魔族とはいえ、武器も持たぬ市井の者に手を掛ける趣味はなかった。


 そもそも戦はもう終わったのである。


 コチラの胸中を知ってか知らずか、女と少年は不安そうに顔を見合わせるばかりだった。


「恐れる必要はない。素直に話せ。問題が無いと分ればこの場で解放する」


 魔族の言葉は大雑把だが日常会話程度なら話せる。

 国境守備隊として小競り合いを繰り返していた頃のたまものだ。

 会話が出来ればしなくても良い争いも減らすことが出来た。


 女が聞いた事も無い言葉で二言三言話し、それを少年が訳した。

 魔族の言葉だったが上品な言葉遣いだった。

 謙譲語や敬称の使い回しがあった。


 そう言えば見慣れぬ服装で埃まみれではあるが、随分と上質な衣服にも見える。

 ひょっとして貴族に連なる者だろうか。


「俺たちは道に迷っただけなんです」


 争う気は全く無い、ただの一般市民(耳慣れない物言いだが、文脈からどうやら市井の者という意味合いのようだ)。

 山道を行く内に行き先を見失い捕らえられそうになったので逃げてきた、そんな事をう。


 そして此処ここは何と言う土地なのか、この道は何処どこに向うのか、街はどの辺りにまで行けばるのか等々。

 とてもこの辺りの者は思えぬ質問を投げかけてくるのである。


 何なのだ、この二人はと思った。


 市井の者と言われれば確かにそうなのだろうが、土地勘どころか話しているその様子にまるで危機感が無かった。


 あれほど激しく闘った直後なのだ。

 たとい兵では無いとはいえ、争った敵国の人間である。

 自分達が捕らえられ首をねられるとは思わないのか。


 何と言うか違和感だらけだ。

 先見の者が途方に暮れたのも理解出来た。

 この二人は果たしてこのまま見逃してよい者なのか。

 宮廷の奥で縮こまっていた世間知らずの高位の者か、それに付き従う侍女や子息ようにも思える。


 汗を拭く仕草の中でチラリと見えた少年の額の傷も、その印象に拍車を掛けていた。


 あの傷は恐らくアレだよな。


 見るのは初めてだが話には聞いた事がある。

 ならば此処ここで見逃せば、それと感づきつつも看過かんかしたとして、後での身にらぬとばっちりを食う羽目にるのでは?


 そしてこの二人のかたわらに在る黒くて大きなカタマリはどう評したものだろう。

 車輪と思しきものが付いてはいるが、どう見ても馬車や荷車の類いとは思えなかった。

 だが先見の話では最初、二人してコレに乗って走って来たらしい。


 馬も引く者も無く走る。

 確かに魔道具には違いあるまい。


「ね、おかしら。怪しくってしょうがないでしょう」


「隊長と言え。まぁ確かにお前がオレを呼んだ理由もよく分る」


 だが少し考えた後に「行かせてやれ」と言った。


「いいんですか」


「オレたちは荷役隊の護衛役だ。あと最後尾を行く部隊として脱落者を拾っていく役目もある。敗残の敵国人にいちいち関わっている暇なんてない。

 厄介ごとなんてゴメンなんだ。グズグズしてると冬が来ちまう。ソッチの方がよっぽど一大事だ。オレは少しでも早く帰って、エールかっ喰らった後に自分の家のベッドに潜り込みたいんだよ」


「あぁそりゃ確かにそうですね」


「あの黒いヤツも放っておいて良いんですかい?魔道具の類いなんじゃ・・・・」


「だったら何だ。魔族の連中にとっちゃり来たりなモノかも知れんだろう。

 仮にアレが特別な何かで、怪しい何かを企ててるとしても、そんなヤツが行軍中の部隊のど真ん中にほいほい出てくるか?オレなら間違いなく隠して知らんぷりを決め込む。あるいは隠れて絶対に出て来ない。こいつらはタダのお間抜けな難民だ」


「言われてみれば確かに。でもお偉い人に見つかったら面倒くさいでしょ。『中央』の連中ならグダグダ難癖付けそうだ」


「こんな後ろまでやって来ねぇよ。

 おい、ソコの二人。何も見なかったことにするから、その魔道具抱えて向こうの茂みの中に隠れてろ。後から来る荷役隊連中の目に付かないようにしてな。やり過ごせ。ねーちゃんも白昼こんな道端で見知らぬ男を咥えこみたくねぇだろ」


 少年が女に通訳すると、一瞬実にイヤそうな顔をした。

 だが一言返事をして少年が「ありがとうございます」と言い、女は魔道具を引きながら道から外れて行った。


「いいケツしてますね。あの木立の奥なら誰も気付きゃしないでしょう」


「襲ったらお前の頭からオレの矢が生えるからな」


「冗談ですよ」


「二人とも何も見なかった、ただ道に迷った子連れの女を追い払っただけ。いいな」


「はい」


「了解です」


 トーツエンが部下の二人に語った言葉は嘘偽りなく本音だった。

 だがそれ以上に彼は、この件にこれ以上関わるのはヤバイと感じていた。


 一見、風変わりな魔族の二人組でしかないが、何かが妙だ。

 好奇心に飽かせてちょっかい出さない方が良い、関わり合いに為らないに限ると内なる声が告げていた。


 それは生来の勘の良さと長年の経験則によって培われた嗅覚、鋭敏な危険察知能力と言い換えても良かった。


 だがまぁいい。ちょっとアレな感じではあったが、しかしこの件はコレで終わり。

 厄介ごとの種は消えて失せた。


 そう確信していた。

 そのはずだった。


 だが何故か突然道の先行きから何騎かの騎馬が現われ、「待て!」と呼び止める声が聞こえて来たのである。

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