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【1万2千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
幕間 ツーリング前夜(日記その四)
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今晩眠れるのだろうか

 コレは僥倖ぎょうこうと言えばいいのか、それとも棚からぼた餅と言えばいいのか。

 いずれにしても、わたしは公介くんとツーリングに行くことに為った。


 お茶会の最中わたしのバイクの話と為り、伯母さんの思わぬ口添えから成り行き任せの展開だったが、感謝しておくのが正しいのだろう。

 わたし一人ではどう間違っても誘う口実など思いつけなかったのだから。


 しかし彼はバイクに乗ったことがない。

 ライダースーツやブーツ、グローブは不要でもヘルメットは必須だ。

 試しにわたしの予備を被ってもらったが、彼には少し大きかったようだ。

 経年劣化で中のスポンジが収縮していたせいもあるだろうが、わたしより少し頭が小ぶりなのかも知れない。


 こんなチャンスはもう二度となかろう。

 奮発して新しいメットを買った。

 サイズは勿論もちろん彼に合せてだ。

 お店にまで彼を連れて行くのが筋なのだろうが、遠慮してツーリングに行くことを中止するとか言い出しても困る。

 取敢えず頭回りの寸法は取ったので問題は無いはず、と信じた。


 悶々として一週間を送った。

 これ程長く感じたのはどれ位振りだろう。

 高校生の時に初デートしたとき以来だろうか。


 あの時に付き合っていた男子との関係は、卒業後自然消滅してしまったが、そもそもアイツの方があまり乗り気でなかった事。

 そしてわたしも一度デートをした途端に冷めてしまった事も合せて、予想通りの結果だったとも言える。


 外見は悪くなかったが他者への配慮に欠ける男子ヤツだった。

 逆に相手は目線一つ分高いわたしの身長が不満だったらしい。

 デート中にかかとの高い靴は履くな、と妙な注文を付けていた。


 やかましい、わたしがどんな靴を履こうとわたしの勝手だ。


 もう顔も思い出せない。

 薄ボンヤリとした印象が残っているだけだ。

 何故あんなのと付き合おうと思ったのか、自分でも本当に不思議だ。


 校則の緩い学校だったので、周囲に付き合っている連中も多く、妙な熱にてられていただけだったのだろう。

 お陰で美少年方面により傾倒するハメになった。

 見栄えだけなら実物よりも、フォトやネットの中だけで充分満足出来た。


 そして生身リアルの醍醐味は妄想が現実になるその可能性にある。

 心躍らずに居られようか。


 今回のデート、いやいや彼との相乗りツーリング。

 行き先はもう決めてある。

 わたしのお気に入りのコースだ。

 久方ぶりだが問題はあるまい。

 ネットで道路の混雑状況や突発の道路工事の有無、お祭りなどのイベントで封鎖規制の予告は出てないかも全部調べた。


 愛車の方も万全だ。

 伯母に無理を言ってバイト代を前借りし、懸念のギヤオイルを交換してガス代や万が一の予備費も用意した。


 そんなコト言わなくてもデート代くらい工面してあげるわよ、と言われたが断固として断った。

 何と言うか、コレはわたしのケジメなのである。

 彼との約束事に他から借りは作りたくはなかったのだ。


 前借りが借りである事は、この際棚上げにしてあるが。

 それにこれはデートではなく、ただのツーリングなのだと重ねて念を押した。

 まったく縁起でもない。


 タイヤの溝も充分あるし空気圧も正常値。

 試しにエンジンを掛けてみたが妙な音もなく、吹け上がりもスムース。

 文句の付けようもない。

 真魚が「落ち着きのない奴め」と聞こえよがしなイヤミを垂れていたが聞こえなかったふりをした。


 そんな訳であと七時間もすれば夜が明ける。

 体調も万全だ。

 消化の良いモノを食べてお腹の具合も文句なし。

 念入りに風呂で洗ったから妙な体臭もないはずだ。

 髪を洗っているときに散髪に行くのを忘れたと思ったがもう遅い。

 まぁ、ちょっと収まりが悪い程度だから、清潔なら問題無いだろう。


 あとは布団に潜り込んで充分な睡眠を取れば完璧だ。


 ああしかし、わたしは今晩眠れるのだろうか?




 追記。この日記は真魚やヘレンさんや向こう側の世界云々の、胡散うさん臭い御託ごたくを整理する為に書いているものなのだが、まぁ、わたしの日常が侵蝕されているのだから、たまにコレくらい自身についての記録も在って然るべしだろう?


 何せもう、朝から晩まで魔王城の魔法陣が、魔族の命運が等と、真魚が五月蠅うるさくて仕方がないのである。

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