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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第五話 馬に蹴られて死にますよ魔王さま
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5-11 ただ唖然とするばかり

 暮れて日が変わり再び陽が昇る頃、ようやく魔法陣の復元は成った。


 いくつかの欠損があった為、足りない部分は前後の文脈を読み取って、魔族語で補填した。

 何度も確かめてほぼ完全とえる出来映えだった。


「出来上りました」


 ワーラーに振り返った顔に疲労は見えたが、それ以上に気色があふれていた。

 途中で彼が一旦上地上に戻り、持って来てくれた乾パンや干し肉、そしてトウモロコシとタマネギのスープにも手を着けず、一心不乱に組上げた成果であった。


「そうか。だが先ずは食事をると良い。酷い顔をしとる。水も一口二口飲んだ程度だろう」


「いえ、動作を確かめてからにします。でないと落ち着けないので」


「いませねばらぬ事か?」


「剣を研げば試し切りはするものでしょう」


 ドワーフの戦士は「むう」と呻いただけだった。


 この所、魔力マナの集まりが悪かった。

 壺の破裂で精霊が散ってしまったのだろう。

 大規模な魔力の消費地にはよくある事だった。

 だが今、この地下には有り余る程の魔力が満ちている。


 魔法陣の復元が進むにつれ、徐々にそれが高まってゆくのが感じ取れた。

 見えぬ場所に壺の残骸がるのか、それとも蓄積された魔力が未だわだかまって居るのかは分らない。

 あるいは魔王城の魔法陣が一部生きているのかも。


 理由はかくこれ程豊富な魔力に浸るのは初めてのことだ。

 女王陛下のおわす宮殿でもこれ程では無かったように思う。


 流石は魔力の名を一族の呼称に冠する者たちの城。

 再び感嘆するに遠慮はらなかった。


 今ならどんな魔術でも編むことが出来そうだ。


 期待と全能感に鼓動を早めながら、エルフの魔法使いは静かに詠唱を始めた。




 彩花は公介を後ろに乗せ、愛車で山道を駆け下りながら妙な気配に身震いをした。


 別にトイレに行きたくなったという訳ではない。

 群衆の中、不意に誰かに呼ばれた気がして、はっとする様に似ている。


 スマホに着信でもあったか?


 マナーモードにしているから懐の辺りで振動したのかも知れない。

 でも確かめたいが確かめられなかった。

 流石にバイクでワインディングロードを疾走している最中、ライダースーツのジッパーを下ろすのは無謀に過ぎる。


 確かこの先に小さなパーキングエリアがあったはずだ。

 其処そこでちょっと休憩しよう。


 恐らく大した事ではあるまい。

 小一時間ほど前にも伯母から「何なら一泊しても大丈夫よ♡あなたの口座へ余分に振り込んでおいたから」等と余計なメッセが来たからだ。


 まったくもう。

 そんなにいてどうするというのだ?


 そんなつもりなど毛頭・・・・あ、イヤイヤ、願望が皆無かと言われれば嘘にるのだがな。

 しかし焦って全てを台無しにする訳にはいかないだろう。

 今日の所はコレで結構満足出来る時間だったのだ。


 今もこうして、その、何と言うか、彼とはみっちりしっかり「一つになっている」のだし。


 愛車は快調だった。


 デカい図体なので入り組んだルートは得意ではないが長年使い込んだ相棒だ。

 この程度の山道なんてどうとでも出来る。


 ギアダウンの度にタコメーターの針が跳ね上がり、両足の間でエンジンが唸った。

 少し重めのブレーキングの後にスロットルを空ければ、力強いエキゾーストノートが腹の奥底にまで響いて来る。

 そうやって彼と共にリズムを合わせて一つ、また一つとコーナーをクリアしてゆくのである。


 まるで、並み居る敵をバッタバッタと切り捨てるかのような爽快感があった。


 ふとこのまま、延々と陽が落ちない山間の道を彼と一緒に走り続けて居たい。

 そんな願望がジワリと胸の奥に湧いて来たりもするのである。


 日が傾いていて、真夏とはいえすでに山肌には影が差し始めていた。


 ヤケに濃く黒い木立の影を抜け、ブラインドコーナーを抜けた。

 そこでオヤ、と思った。地面が舗装されていないのだ。

 しかもアチコチにわだちがある。

 だがクルマのものではない。

 もっと細い車輪で出来たモノだった。


 ハンドルを取られそうになって慌ててブレーキングした。

 そのまま減速させながら路肩に寄った。

 石を寄せ集めただけの雑な縁石がわずわしい。

 迂闊うかつに踏んで転倒などさせたくはなかった。


 完全に止まってから後ろを振り返ったが追走車は無かった。

 いやそれどころか今曲がったばかりのカーブが無い。

 少しうねった未舗装の道が長く真っ直ぐに伸びているだけだった。


 何処どこだ、此処ここ


 バイザーを上げて周囲を見回しても、あのうっそうとした山肌なんて何処にも無かった。

 未舗装の道路と僅かな起伏をみせる野原、そして少し向こうに小高い丘が見えるダケだ。


「彩花さん?」


「あ、ああ。どうやら道に迷ってしまったらしい」


 しかしあの一本道でどうやって?


 背の高い女子大生は、ただ呆然とするばかりであった。

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