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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第一話 いらっしゃいませ魔王さま
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1-4 何だか面白くない

 世の中は二種類の出来事で成り立っている。


 不条理な出来事と、そうではない出来事とでだ。


 人は誰しも自分の信じた規範と常識の中で、世界が回って行くことを期待して生きている。

 しかし世の中そんなに甘くない。

 世界は不条理の方が圧倒的に多いのだ。


 だいたい人生やっている時間の七五パーセントくらい(当社比)。


 人の人生というものは、その大半を「でたらめで理屈に合わない現実」をねじ伏せ、あるいは逃亡し、自分が望む状態にしようともがき苦しむ内に過ぎて行くモノなのである。


 世間から成功者と言われている人達は、果たして本人が望んだとおりの現実を手にすることが出来たのだろうか。


 納得出来ないからこそ、際限なく足掻あがき続けているのではないか。


「そして人は決して満足などはせず、常に次なる欲望を求めて放浪を続けるのである」


「彩花さん、さっきから何ひとりでブツブツ言ってるんですか」


「人生について少々な。常日頃から己に問い続けるというのは、自分自身をより深く掘り下げる一助になるのだよ」


ただれた妄想を煮詰めているの間違いでしょう」


「いつになく辛辣しんらつだな、公介くん」


「あんな投稿画像を見た後じゃあ言いたくも為ります」


「や、アレは間違いだぞ、うん。ほんの手違いだ。アレはわたしの守備範囲から一歩離れた所にいる輩が勝手にやったことで、望んで呼び込んだものではない」


「コメント求められて返答していたじゃないですか」


「挨拶されたのだから返すのは礼儀じゃないか。そう、タダの答礼なんだよ」


 平静を気取ってみたが背筋に冷や汗が流れるのが分った。


 うんまぁ確かに、公介くんがご機嫌斜めなのも理解出来る。

 だが本当にわたしが望んでやったコトではない。

 それだけは理解してもらわなければならなかった。


 あの倉庫に転がっていたくそガキは、しばらく駄々をこねて騒ぎまくっていた。

 だが我々がまったく相手にしなかったからだろう。

 やがて疲れ果ててしなびた頃、公介くんが大人しくするのならいましめから解くと言って聞かせ、くそガキはようやく首肯しゅこうしたのである。


 そして子供は自由を取り戻し、我々もスマホを取り戻した。

 確かにわたしとしても、中学校に上がるか上がらないかの子供を縛り上げたまま、床に転がしておくのは本意ではなかった。

 密かに良かったと胸をで下ろしていたのだ。


 ソコまでは良かった。

 だがスマホでわたしのブログをチェックしていた公介くんが突然、素っ頓狂な声を上げたのだ。


 何事かと思えば「コレはいったい何なのか」と詰問され、スマホの画面を突き付けられた。

 ソコにはバリバリ一八禁な領域の、公介くんの顔写真を利用したBLコラージュ画像が映し出されていたからだ。

 それは相互リンクしているブログ仲間のページであった。


 頭の中が一瞬で冷えた。


 公介くんはきっと、互いのコメントのやり取りから疑問を抱いて移動してみたのだろう。


 どういうコトだ、と思った。

 昨晩彼女(ブログ主)には削除してくれと頼んでおいたはず。


 とはいえ、あの子は自分のこと以外にはとことんズボラだからな。

 そのうちにと思って後回しにしているに違いない。


 なんてはた迷惑な。


「そのアカウントの場所は成人オンリーで、未成年のきみが入れる所じゃないはずだが・・・・」


 しかも会員制で一見様お断りだ。

 紹介状代わりのコードを打ち込んで初めて入室出来るのである。


 しかし、わたしのブログを経由すればのぞけなくはない。


「確かに俺がこうして閲覧しているのはめられたことじゃないです。でも、彩花さんも人のこと言えませんよね。以前から顔出し不許可だって言った筈です。そもそも写真を撮られるのも嫌だというのに」


「だ、だからわたしのブログでは目線にモザイク入れてるじゃないか」


「じゃあ何でコッチには俺の素顔が出てるんですか」


 モロ出しじゃあないですか、ソレも色々と。そんな具合に詰め寄られた。


 確かに無理を言って彼の写真を撮らせてはもらった。

 だが不埒な写真などネットには上げていない。

 本当だ。理性のタガが緩いこの会員制一八禁ブログの管理人が、わたしのデータを使い、勝手にやらかしたコトなのだ。


 まぁ、彼女に強請られてオリジナルのコピーデータを譲ったのは確かだけれども。


 しかし公開不可と念は押したのだ。


「こういうコトやらかすから、いちいちしなくてもいいブログのチェックをせざるを得ないんです。大概にしてくださいよ」


「い、いや。落ち着きたまえ。きみが怒るのも分かる。実によく判るぞ。だがわたしが望んでやったことではなくてだな。顔写真のデータを使って彼女が勝手に加工を・・・・」


 彼への釈明と謝罪。

 不信は早々に拭いたかったが、控えめに見積もっても相当な時間を要するに違いなかった。

 額から脂汗がにじむのが分かった。


 何故なにゆえに、あのだらしない女の為にこんな苦労を背負い込まねばならないのか。


 焦りと言い訳とに必死で脳ミソの奥を引っ掻き回していたら、唐突に件のくそガキがひょいとスマホの画像をのぞき込んできた。

 わたしと彼との口論に興味をかれたのだろう。


「わあ」と叫んだのはわたしで「見ちゃダメだ」と声を裏返したのは公介くんだった。


 お子ちゃまにこの画像は早過ぎる。

 刺激が強いなんてもんじゃあない。二人して大慌てで隠す羽目になった。


 公介くんがまたあの訳の分らない言葉で少女をさとしていた。

 彼に頭をでられて、不機嫌そうにその手を払いのけていたりもしている。

 だが先程までの癇癪かんしゃくを起こすような素振りはなく、逐一ちくいち彼の言葉に頷いてさえもいた。

 だいぶ落ち着いたようだった。


 思わぬ横槍で彼からの追求は一旦お預けとなり、冷や汗をぬぐった。

 後で再び追求されるだろうが、もう感情のおもむくままたたみ掛けられることはあるまい。

 落ち着けば話の分る男である。


 しかしそれはさておき、何故に彼はあのくそガキと同じ言葉を知っているのだろう。

 確か外国語に苦手意識があるからこそ、海外出張のご両親と一緒に欧州に行くのを躊躇ためらって居たのではなかったか。


 それとも今(しゃべ)っている言葉は、彼にとって外国語ですら無いのか。


「・・・・」


 何だか面白くない。


 今晩は公介くんと二人で、のんびりまったり過ごせると目論んでいたというのに。


 いや、ちゃんと仕事はするがな。

 お給金相応にという前提付きだが。

 勤務態度は店内の防犯カメラで撮されている訳なのだし。


 思わず溜息が洩れた。全く以て世界は、不穏と不条理とで満ち満ちている。


 油断もすきも無かった。

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