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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第五話 馬に蹴られて死にますよ魔王さま
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5-7 意のままに動かぬ人形

「それでテーブルを蹴って戻って来たのですか」


 勇者付きのエルフ魔法使いは、いつもにも増して困ったような顔で溜息をついていた。


「ああ。厚顔無恥にも程がある。トールマンを、餌をちらつかせれば直ぐに飛び付く幼子とでも考えて居るのだろう」


 曰く、世界平穏の為に協力して欲しい。コレは国家間の権益を越えた重大な案件である。我らはその為に充分な用意がある。勇者はトールマンのみならず、種族間を越えた象徴として存在せねばらない。その第一歩が此処ここる。


 契約の暁には女王リクイリリの名を以て、エルフ諸王国に勇者アリアを一等貴としてたてまつるよう要請するであろう。遠くない未来にそなたの名はエルフ悠久の歴史の中、永遠に刻まれる事に為る云々。


 勇者殿はただ我らの提案を受け容れて下さるだけで良い。さすれば我が国より再び女王の名において御提言を申し入れる。我が国が勇者殿の後ろ盾となれば国王陛下も我らとの立場をかんがみ、ご再考なさるであろう。


 これはイクサート二世陛下への不信苦言などではなく、世の平穏の為、エルフとトールマンとの間をより強い絆で結ぶ交友の証なのである。その様に語った。


「わたしが国王陛下から受けた命を知りながらよくも言えたものだ。詭弁きべんはなはだしい、稚拙な理屈に呆れ果てる。おまけに金子まで用意していた。エルフの女王というのは莫迦ばかなのだろうか」


「声が大きいですよアリア」


「女王ではなくあのエルフが莫迦なだけでしょう。勇者に袖の下などと、禁じ手というのは子供で分る。『阿呆』と書いた首飾りでも進呈してやりましょう。今晩作って置きますよ」


「サナドゥ!」


 勇者付きのエルフ魔法使いはもう泣きそうだ。


「それよりもアリア。阿呆エルフの出した羊皮紙には何が書いてあったんです」


「一枚は確約状、口約束ではないと言いたいらしく女王のサインまであった。契約と言って置きながら明確なそれでは無いのが笑わせてくれる。そしてもう一枚は魔法陣だった。だが間違いなくわたしの付与魔法に干渉しようとしていたようだ。タータの護符結界が反応していた」


「おやおや」


「本当ですか」


「ヤツは素知らぬ顔だったが明らかに動揺していたな。瞬きの回数が増えたし、口説く文言が徐々に大仰になっていった」


「素人かよ」


「彼は本来交渉ごとは得手ではないのです。元々戦場に出るエルフは少ないので」


「しかし付与魔法に干渉してどうするつもりだったのだろう。そもそもタータ、何故にわざわざこんな護符を作って持たせてくれた?」


「以前アリアの付与術式を見せて頂いた時に思ったのです。少し危ういな、と。外から干渉されそうな部分がりましたので、それを守る呪法が必要だと思い持ってもらいました。しかしユテマルスが何をしようとしていたのかまでは流石に・・・・」


「そうか。しかし今晩の話の内容から見ても、良からぬ事を目論んでいたに違いない。助かった、タータ」


「い、いえ。お役に立てて何よりです」


「ヤツを締め上げて吐かせますか」


「喋らんだろうし意味は無い。貴重なエルフの魔法使いにヘソを曲げてもらっても困る。我らの役目に支障が出なければそれで良い」


「しかしヤツが先鋒群に配属されたのは、アリアが目的ってことで間違いないのでしょう?だったらほったらかしにするってのは危うく在りませんか」


「サナドゥ、待って下さい。彼は典型的なエルフです。自分の種族以外は下等種だと見下し、唯我独尊、至高の存在だと信じて疑っていません。向上心は人一倍、プライドは三割増し、トールマンは赤児のまま老いて死ぬ哀れな存在ゆえ虫と変わらぬ、とか考えて居ます」


「最低だな」


「格下の存在が何をしようと意にもかいさないでしょうし、干渉しようとも思いません」


「しかも傲慢ごうまん


「で、ですが良いところも在るんです」


「例えば」


「え、ええと・・・・強欲?」


「ダメじゃねぇかよ」


「自分の欲望に素直と言い換えた方が良いかも知れません。・・・・え、同じ?いえいえ違いますよ、もっと長く生きたい、そうすればささやかな悦びも積み重なって大きなものになる、そういう考え方です」


「エルフ長生きじゃねぇか。トールマンの何倍だ?六倍以上生きるだろ、贅沢ぜいたく言うな」


「ですから強欲なんですよ。それに自分一人の寿命じゃなくて、種族全体がより永く存続して欲しいと願う気持ちの方が強いんです」


「ほほう。その辺りはトールマンの長生きとちょっと考え方違うな」


「なので彼は決してエルフの不利益になることはしません。そして今回に限ってはトールマンも同じ馬車に乗った同乗者です。目的地を違えるコトはない、そう思います」


「成る程ね。全面的に信用は出来ないがテントを隣合せて眠る程度には信じてよい、そういうことか」


「はい。それに、アリアに危害や不利益が起きるような時には、わたしが全力で阻止します」


「その辺りは心配してないよ。何せ勇者さまのお肌を間近でご鑑賞出来る程に信頼されている御仁ですからなぁ。逆にうらやましいですわ」


「な、何を言い出しているんですサナドゥ。アレは純粋に魔法学的な・・・・」


「サナドゥ、あまりタータをからかうな。それに見たい言うとのなら今此処いまここで脱いでやろうか」


「だ、駄目ですよアリア。ご婦人が軽々に肌をさらしてはりません」


「あー、勇者殿。見たいのは山々だが、寝ている隙にいつも困ったような顔のエルフに呪い殺されるのは勘弁なんで、つつしんでご辞退させて頂きます」


「それは誰のことを言っているのですか!」


 食ってかかるエルフの魔法使いを、のらくらかわす戦士にアリアは思わず相好を崩した。


「もうわたしは、ご婦人と呼ばれるほど慎ましい存在では無くなっているのだがな」


 苦笑交じりに呟いた独り言は二人の間で始まった言い訳じみた口論に紛れ、誰の耳にも届かなかった。




 部屋にノックの音がして、返事をしてみれば入って来たのは魔王であった。


「あら真魚ちゃん。おでこに冷却シート貼ってどうしたの?お熱でもるのかしら」


「どこぞの魔女のバカ力のお陰で頭痛がしての。ソレよりも何を悩んでおる。ヘレンの付与魔法を写し取ってから気もそぞろと聞くぞ。何ぞ問題でもあったか」


「キチンと判明すればその時にお教えしますよ。今はまだ憶測でしかないので、中途半端な事柄では混乱するだけでしょう」


「おぬしが頭を抱えている状態で、何も聞かぬ方が落ち着かぬわ。良いから申せ。タダの予測で構わん」


「そうですか。刺青の八割程度はまぁ、予想通りの文言が刻まれていました。でも気がかりな呪文がいくつか。洗脳系の呪文が二系統。一つは国王や教皇への無条件絶対忠誠をうながすものです」


「ふむ、正に『人形』じゃの。だがそれは不思議でも何でもあるまい。勇者は確実に動作する『高価なシンボル』でなければならん」


「そうですね。造られた勇者である彼女が、何かの拍子に意にそぐわぬ働きをしないようにする為の安全装置とも言えます。

 ですがコレが妙に緩いのです。そして一定の条件が整えば、ソレが解ける法術も一緒に刻まれておりました」


「エルフの付与術者が手心を加えた言うことか。万が一自分達の障害となった時には排除出来る余地を残しておいた、と」


「ですがトールマンの術者も丸きりのボンクラではありません。エルフの一般魔法語どころか神聖魔法語すら解する者も居ます。気付けなかったとは思えません。ひょっとするとかせを外すコトも織り込み済みなのでは?そう考える方が矛盾は出ないのです」


「何のメリットがある。意のままに動かぬ人形など意味は在るまい」


「途中から使う用途を変えるつもりだったのでは?ふとそう思ったのです」

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