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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第五話 馬に蹴られて死にますよ魔王さま
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5-2 何でそーゆー話になるんですか

「こんな大きなヤツよく乗れますね」


「上背一五〇もあれば誰でも乗れる。もっと低い人でも乗ってるし。コケたヤツを起こすのはコツが要るが力は不要だ。副店長の兼田さんはドゥカティ・・・・ええと、あの赤いバイク乗ってるぞ、駐車場の隅でよく見かけるヤツ」


「えっ、兼田さんが?アレもデカいですよ。しかもあの人今年還暦って言ってませんでしたか」


「元気だよなぁ、尊敬するよ。旦那さんもバイク乗りで、春になると二人でツーリングに出掛けるらしい」


 ええぇ、知らなかった。

 バイクなんてヒゲ生やしたおっさんかあんちゃんが、革ジャン着てブンブン言わすだけの代物だとばかり思っていた。


 そしてこの女子大生がこんな黒くてデカいご立派なモノに跨がって、白昼公衆の面前でイキるのか。

 ちょっと想像出来ない。

 少年趣味をこじらせた、ただのウンチクオタクじゃあなかったってコトなのか。


何気なにげに失敬な感想を抱いて居ないカネ」


「い、いえいえ。そんなコトは在りませんよ、決して」


「ふふん、彩花ひょろ長。おぬしの性情なぞ周囲には筒抜けじゃ。いい加減諦めたらどうじゃ」


「ひとのファーストネームを怪しげに改変するな。それと人の一面だけ見て判断するのは止めておいたほうがイイぞ、お子様。思い込みだけの発言は思わぬ墓穴を掘る」


「物言いだけはいっぱしじゃの」


 この二人は相変わらずだな。

 真魚ちゃんも何だかんだ言うわりには彩花さんとよく一緒に居るし、よくこうやって掛け合い漫才やってる。

 仲が良いんだか悪いんだか。


「公介、一言()うておこう。わしは此奴こやつとじゃれて居るわけではない。至らぬ同居人に年長者としてしかるべき助言をほどこしておるダケじゃ。わきまえておけ」


「え、ええと」


 なんで二人とも俺が考えて居ることが分るんだろう。

 ひょっとしてコレが噂に聞く念話ってヤツなのか?

 アニメやマンガじゃ定番の特殊能力だ。

 こんな身近にファンタジーな能力者が居たなんて。

 しかも二人も。


「おぬしは考えてることが顔に出すぎじゃ」


 思わず掌で自分の口元を覆ってしまった。


 そんなバナナ。

 気付かぬ内に独り言で漏らした訳じゃないよな。

 口に出さなくても考えてるコトがダダ漏れだなんて・・・・


「公介くん気にしなくてイイ。お子様の戯言ざれごとだ」


「失敬であろう、ひょろ長!」


「あらあら、楽しそうね」


 呑気な声が聞こえて俺たち三人が振り返れば、何処どこか疲れたような顔をした店長さんが居た。

 庭に通じる開け放たれた戸口の所に、ティーポットとカップを乗せたお盆を持って立って居る。


 隣にはヘレンさんの姿もあって、両手には折り畳まれたガーデンテーブルと、同じく折り畳まれた木製のガーデンチェアを持っていた。

 そして「天気が良いのでお庭でお茶会にしましょう」などとおっしゃる。


 彩花さんが汚れたウェスで手を拭きながら「手を洗ってくる」と家の中に入り、俺とヘレンさんとでテーブルを拡げて椅子を用意した。

 真魚ちゃんは椅子の上でふんぞり返っているダケだった。


「ごめんなさいね、公介くん。誘っておきながら来てくれたのに気付かなかったなんて」


「いえ、忙しかったのでしょう?気にしてませんから」


 彩花さんが俺に煎れてくれたのは珈琲で、真魚ちゃんとヘレンさんは店長さんが煎れた紅茶だった。

 ヘレンさんも真魚ちゃんと同じく、珈琲の苦みが苦手らしい。

 カフェイン系統がダメというコトなんだろうか。


「紅茶の方が強いけどな」


 彩花さんはそんなコトを言いながら珈琲を一口飲んで、チョコチップクッキーを摘まんでいる。


「・・・・」


 また、ナニも言ってないのに返答されてしまった。

 いま独り言もってなかったよね?

 俺はそんなに分かり易いのだろうか。

 今までそんなコト言われた事も無かったのに。


「正直な人の方が好感持たれるわよ」


「ヒネて当てこすりする、こまっしゃくれたお子様よりも百億倍いい」


「常に相手の揚げ足を取ろうと、腹にイチモツふくんだ物見櫓ものみやぐら女よりは余程よほどな」


「素直は美点だ。気に病む必要は無い」


 店長さんとヘレンさんは静かに感想を口にしてカップを口に運び、彩花さんと真魚ちゃんは言い終えた後、互いに無言の火花を散らしていた。


「あの皆さん、これ以上俺の傷口をえぐるのは勘弁して下さい」


 フォローしてくれているのは分って居る。

 でも真実は時として悪意よりもクるものがあるのだ。

 ネットの何処どこかにポーカーフェイスの作り方はなかっただろうか。

 今晩にでも是非捜してみることにしよう。




 しかし店長さんの家に呼ばれるのもコレで何度目になるのか。


 何故に夜勤明けの都度にお茶会が開かれるんだろう。


 今ひとつハッキリしなくて、何となくモヤモヤする。

 けれど、真魚ちゃんやヘレンさん絡みのナニかなんだろうな的なことはうっすら分った。

 コチラ側に来たばかりで馴れないだろうから、少しでも早く馴染めるようにとかいう配慮なのかも知れない。


 そういう協力をするのにやぶさかでは無いけれど、どーして俺だけがという気分なのである。

 だって店のバイトは俺だけじゃないし。

 バイト以外の従業員も居るし、店長さんの知人だっている。

 何だったら彩花さんの友人でも良いではないか。


 昨晩も彩花さんと仕事をしながら「どーゆーコトなんでしょうかね」と話をしたのだが、「どーゆーコトなんだろうね」と全然当てにならない返事がるだけだった。


 誤魔化しているのか全く見当着いていないのか、それともただ興味が無いだけなのか。


 俺的には最後のヤツだと思っている。

 この女性ひとが興味が在るのは自分好みの美少年だけだ。


 あ、いや、このバカデカいバイクもきっとそうだな。

 無関心なら休日にイジったりしないだろうし。


「彩花さんはバイクで何処かに行ったりするんですか」


 素朴な疑問というヤツだ。

 何気ない質問だったのだが、突然真魚ちゃんの目付きが鋭くなった。

 店長さんの発する雰囲気も何気に変わったような気がする。


 アレ、俺ナニか変なこと言った?


「ちょっと前まではよく休日にプチ遠出に出てたな。最近は研究室が忙しくなってめっきり。そういやしばらくツーリングにも行ってない」


 何でそんなコトを、と逆に聞き返されて「こんな大きなバイク乗ってご近所巡りって訳でもないでしょう」と答えた。


「それもそうだ」


 そう答えた彩花さんの表情が何処か遠くを見る目をしていて、ナニかいわくありげだった。

 訊いて良いのかどうか少し迷って、結局訊かないことにした。

 何でもかんでも根掘り葉掘り訊くもんじゃあない。

 親しき仲にも礼儀ありってうし。


「まぁ山にはよく出掛ける方かな」


「バイクで山ですか」


「海もいいが山の方が好きだ。起伏の在る、立体的な空いた道を走るのは爽快だな。景色が見え隠れして変化に富んで面白い。そういう意味じゃリアス式海岸沿いの道路も走り甲斐があるな。岬や港を目指して、とか」


「へえ、面白そうですね。そう言えば俺、しばらく海にも山にも行ってない・・・・」


「だったら公介くん、いっそのこと彩花ちゃんとプチ旅行にでも行ったらいいじゃない」


「えっ、何でそーゆー話になるんですか」


 この店長さんは時々とんでもないコトを言い出す。


「そうじゃっ、何故にそういう話になるインチキ魔女。妙な方向に話を持って」


「真魚ちゃんお黙りっ」


 鈍い音がして、再び真魚ちゃんは頭を押さえてテーブルに突っ伏した。

 店長さんの右手にはいつの間に着けたのか、銀色のメリケンサックが光っていた。

 この人はいつもコレを持ち歩いて居るのだろうか。


 ヘレンさんも目をつぶり、静かに顔を左右に振っていた。

 哀れんでいるのか、それとも呆れているのか。

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