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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第三話 勇者襲来です魔王さま
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3-1 いったい何事ですか

 コンビニのバイトで夜勤のシフトというのは初めての経験だったが、仕事内容は兎も角、昼夜逆転の生活リズムはちょっと馴れない感じだった。


 中学から高校に上がって、親が海外赴任だのすってんのとトンデモナイことを言い出す以前から、夜更かしは結構頻繁にやっていた。

 というか、普通の高校生なら深夜の一時二時まで起きているなんて割と普通だと思う。


 でも徹夜となると話は違ってくるのだなと、シフトに入ってつくづく思い知った。


 ハッキリ言って眠い。


 仕事の辛さ云々じゃなくってただひたすらに眠い。


 眠いから何気ない作業がきつかったし、普段なら絶対にしないポカミスも多かった。


 特に明け方から日が昇るまで、普段目が覚めるころに差し掛かる辺りの時間帯が一番眠い。

 店内をモップ掛けしながら立ったまま眠っていたこともあって、コレが夜勤の辛さかと身をもって知ることになった。


 だから眠気覚ましに外に出て、ゴミの分別だの掃き掃除をすることも増えたのだけれども、いま目の前に落ちているソレも、きっと寝ぼけた俺の頭が作り出した幻覚だと思ったのだ。


 駐車場のど真ん中に人が倒れていた。


 辺りにクルマは止まっていなかった。

 っていうか、他のコンビニならいざ知らず、夜勤ならほぼ来客皆無の開店休業なこの店舗。

 駐車場ガラ空きが日常風景なのである。

 ましてや、深夜に歩いて来る客など・・・・


 これがテレビのサスペンス劇場なら、開始直後か導入部の辺りなんだろうな。


 きゃーと、わざとらしい悲鳴が聞えて「どうした」と通りすがりの男性が駆け寄り、見るからに怪しい人影が四つ角の向こう側に消えるのだ。


 怪奇。

 無人の駐車場にうら若き女性の死体が!


 そんな不謹慎なテロップが脳裏に瞬いている。


 あ、違う違う。

 そうじゃないだろ。


 そしてそこでようやく俺は我に返って、倒れている人影に歩み寄っていった。


 妙な衣服を着た人物だった。

 やたら古くさくて、そして随分とボロボロだった。そしてかなりキタナイ。

 まるで今しがたまで山奥で遭難し、這々の体でようやく此処ここまで辿り着いたかのような、そんなあられもない姿だった。


 ファンタジーゲームの登場人物のような衣装を着た浮浪者、と言ったら一番ぴったりな気がする。

 勿論もちろんそんなこと思っても口にはしないけれど。


「も、もしもし?」


 腰を屈めて声をかけ、そこでようやくその人物が異性であることに気が付いた。

 衣服はアレだが体つきや横顔は確かに女性のそれだったからだ。


「あの、大丈夫ですか?」


 まさかホントに死体じゃないよな。

 っていうか、ほんのちょっと前にも似たようなシチュエーションで女の子を拾ったな。よもやまさかコレも御同様の、厄介ごとの一つだったりしないよな。


 冗談じゃない、こんな立て続けに同じような面倒が起きてたまるか。


 不吉な予感を振り払い、身震いしてから顔を近づけた。

 真魚ちゃんの時に彩花さんから注意された、意識の無い人への声かけと呼吸の有無の確認だ。

 保健体育の授業で聞いたような気もする。

 でも完全に右から左に流れて微塵も残って居なかった。


 今度はちゃんと憶えていたけれど、こんなに直ぐ役に立つなんて予想外も良いところだ。


「うっ」


 思わず呻いた。


 鼻の奥に悪臭が突き刺さってきたからだ。


 なんだ、この臭いは。


 汚臭というか腐臭というか、あまりにキツ過ぎて鼻をつまんだ。

 そのまま我慢して口だけで呼吸して、息を止めてから耳をそばだてた。

 微かに吐息が聞えた。


 ほっとひと安心してもう一度声を掛けた。


「もひもひ」


 鼻声なのがマヌケだ。

 軽く肩を叩いてもみた。

 だが低く呻く声が聞えるだけで目覚める気配が無い。


 顔を放して大きく深呼吸をした。

 フレッシュエアで一息だ。女性がこんなくさいまんまで倒れているなんでどーゆーコトなんだろう。どう考えたって普通じゃない。ホント何なんだろうな、いったい。


 それに、やっぱりコレは店の中に運んだ方がイイよね。


 以前の、先ずは救急車だろうという彩花さんの台詞がよみがえったが、此処はコンビニの駐車場なのである。

 女性を路上に転がしたままというのはあまりにもアンマリなんじゃなかろうか。

 入り口の直ぐ脇というのも体裁のよろしい話じゃない。


 意を決して彼女を抱きかかえると意外に重くて、思わずつんのめりそうになった。

 臭いはあえて考えないコトにする。


 口だけで呼吸して何とか踏ん張って持ち上げると、がしゃんと大きな音がした。


 足元を見れば何かが落ちている。

 何だろうと思ってかがみ込んでみれば、夜目にも鈍い輝きを放つ板状の何かだった。


 それはどう見ても先っぽの折れた剣のようにしか見えなかった。




「まぁ、先日の件のこともある。普通に考えれば、あのくそガキの関係者と考えるのが妥当だろうな。まったく普通じゃ無いけれど」


「コスプレマニアが仲間内のパーティをした挙げ句、酔っ払ってひっくり返っているダケかもしれませんよ」


「確かにその可能性は否定できない。だが公介くん。きみは本気でそんな在り来たりな状況だと信じているのかい。こんな汚くて臭いコスプレイヤーはまず居ないと思うぞ」


 事務室に運び込もうとしたら「臭すぎる」と言われて、商品の清掃用消臭スプレー(新製品、除菌パワーアップバージョン)を盛大に吹きかけられた。

 俺も一緒に浴びせられたのは少し面白くなかった。


 スプレーの代金はわたしが持つから、と言われたが、倒れていた彼女と一緒にされたのは何だかなぁ。


「でもそう考えるのが普通でしょう。こうも立て続けにアニメやラノベ的な展開になるっていうのはどうも・・・・」


「うん、そうだ。まったもってその通りだな。ではこの女性は酔っ払ったコスプレマニアだ。小汚いのは生ゴミの中で戯れていたせいに違いない。直ぐに警察呼んで保護してもらおう」


「ちょ、ちょっと待って下さい。ホントにそれで良いんですか」


「何をう。言いだしたのはきみじゃないか」


「いや確かにそうなんですけど。可能性の一つを口にしただけで、ソレだと決めつけるのもどうかと。真魚ちゃんの関係者だとしたら警察沙汰にすると面倒なことになるのでは?」


「ついでにあのガキも一緒に引き取ってもらえないかな。そうすれば面倒事が消えて無くなって、平穏な日常を取り戻せる」


「なんか投げやりですね。家で何かありましたか」


「なんつーか、ヤツは事あるごとにわたしに突っかかってきてな。いちいち鬱陶うっとうしい・・・・おや、店長からメッセだ。こんな深夜に何事・・・・『その女性に触るな、離れろ。直ぐにそちらに行く』・・・・なんじゃこりゃ」


「やっぱ顔見知りなんですかね」


「また防犯カメラでチェックしてたのか、几帳面なコトだ。でも何かあわ食ってる。いつもなら必ず散りばめられるスタンプや顔文字が無い」


 しかし触るなはかく、離れろとはいったい?


「どうしましょ」


「どうしましょうと言われても訳が分らん。コチラに向って来ているみたいだから、その時に聞くとしようか」


 俺と彩花さんが小首を傾げていると、店長さんと何故か真魚ちゃんまでが一緒に店内に踏み込んで来て、「あの娘は何処!」と血相を変えて叫ぶのだ。


「ど、どうしました店長さん」


「問答はあと。公介くんと彩花ちゃんは店の外に出て!」


「命の保証が出来ぬ。おぬしら二人は家まで戻れ!」


「いったい何事ですか」


「いいから早く」


 ただならぬ口調に気圧されて俺と彩花さんが顔を見合わせていると、事務室のドアが開いて先程の女性が出て来た。

 真魚ちゃんの時と同じく長椅子に寝かせて居たのだが、慌ただしい問答に目を覚ましたらしい。


 頭を押さえ足元はまだ覚束おぼつかない感じで、表情も何処か虚ろな感じだった。

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