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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第二話 お勉強のお時間です魔王さま
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2-5 くれてやれば良い

の地のトールマンと交わって、仲良く繁栄すればよろしいではありませんか。望んで争いを起こさずとも、生きて行くことが出来る生活基盤が此処ここには在ります。大切なのは存続すること、そうではありませんか?」


「何を抜けた事を申して居る。きさまはそれでも魔族軍の幹部か。齢四百年を数える、魔女七人衆の一柱か。トールマンごと下賤げせんの連中とひざを交えて共存せよと申すのか。彼の地をべ皆を統合し力を蓄え、捲土重来けんどちょうらいを計ると申したのはそなたであろう」


「彼の地を総べるなどと申し上げてはおりません。捲土重来とは確かに語りましたが、の地でも魔法が使えるものだと思っていたが故の誤算にございます。

 先程ご説明申し上げた通り、次善から三つ落ちの代案です。前提条件がひるがえりましたので、ご容赦のほどを」


「我ら、母なる大地を捨てよと申すか。この異郷に永住し二度と戻らぬと」


「そうですよ。此の地では魔法が無くとも何とでもなります。我らの地はエルフやトールマンどもにくれてやれば良い。

 此の地に住んでつくづくと思い知りました。我らの土地は何と痩せていたのかと。これ程にまで富んだ国は我らの世界、何処を見渡しても存在しません。乳飲み子の生存率などまさに驚くべきものですよ。

 先細りの見通し暗い魔族が生きて行くべき世界は、我らの大地ではなくこの大地です。

 それにわたくしは四百歳ではありません。三九七歳です。七人の中で下から二番目に若いのです。お間違えなきよう」


「大して変わらぬわ。そもそもこの地での八〇年は計算に入れておるのか。サバを読むのも大概にせい」


「まぁ、サバを読むだなんてそんな熟れた慣用句、いつの間に憶えたのですか。それに実にイヤなことをおっしゃいますね。此処ここは異郷なので年齢カウントはノーカンです」


「たわけたコトを。そなたはいつもそうじゃ。肝心な時なほど暗愚を気取りコチラの言い分を煙に巻く。魔女エラ、わしは真面目に話をしておるのじゃ」


「わたくしは何時でも真面目です」


「そうは見えぬの」


「ですが魔王さまのおっしゃっているコトも分ります。確かに魔法と共に生きてこその魔族、しかし一族の命運と天秤にかけるほどのものでしょうか」


「おぬしは魔女であろう。魔族の中でも魔法と魔術に秀でた一団。ましてや上位筆頭陣の一柱ぞ。何故にそうまで己を否定できる。魔法はおぬしの生きてきた意味そのものではないのか」


「別の生き方もあると、そうお考え下さい。たしなみ程度の魔法があれば、わたくしには充分でありますがゆえに」


「寂しいことを申すな」


 魔王はそう言って重く深い溜息をついた。




 魔女の言に寄れば、不完全なれど此処に在る高圧コンデンサーなる物に可能な限り電気を蓄え魔法陣に流し込めば、一回分の転移は可能なのだという。

 しかもそれは人一人分がやっとで、二度目を行なうには十日ほどの充填期間が必要と説明された。


「話にならぬの」


「話にならないでしょう」


「どうやって万単位の人員を転移させるつもりだったのじゃ」


「コンデンサーの数もそうですが、先程も申し上げた通り魔法陣そのものがまだ完成していないのです。今の状態では網カゴに水を満たすようなもの。あちこちダダ洩れで効率が悪いどころの話ではありません。

 しかし出来上ればこの町丸ごとくらい訳はない、そう試算しております」


「まったく心強い話じゃの。それが百年後か」


「左様で。しかし元の世界に在るわたくしの魔法陣が無事ならば二〇年で可能です」


「甘い期待はせぬ方が良いとうたのは、そなたではないか。しかしの地で百年、我らの地で四日か。最悪でも五日と申すが・・・・たかが百年、されど百年。皆はどうしておるかの」


「人族に蹂躙じゅうりんされているのではありませんか」


「・・・・おぬしというヤツは」


「心配でしたら魔王さまだけ戻りますか?二日ほど待って頂けたら飛ばしますよ。ついでにわたくしの手紙も一緒に持っていって下さい。部屋に残していった香辛料が心配で心配で」


「きさまは同胞を気遣うことも出来ぬのか。わしが今戻っても意味がなかろうが。何の為に副官が身代わりになったと思う」


「打ち首になさるのではなかったのですか」


「勢いで言うたまでの話じゃ。本意では無い」


 しかし、と魔王は腕組みをして考えた。

 ただ漫然と此の地で魔女が転移陣を組むのを待つだけでよいのか、と。

 この異界で己に出来るコトが必ずあるに違いないと、思惑を巡らせるのだ。


「魔女エラ。先程の話の続きじゃが」


「はい」


「コチラから我らの地に飛んだとする。その者は戻って来れぬよな」


「左様で。しかしこの法陣が完成すれば行き来は可能です」


「我らの地で四日後。此の地で百年後」


「はい」


「不完全と申したが法陣は何回ぐらい使える」


「回数の制限はございません。ただその都度、膨大な量の電力が必要というだけで」


「ふむ」


「何か良からぬことを考えて居ますね」


「そなたが気を回す必要は無い。よし、おぬしはこの法陣が確実に作動するよう、これからも鋭意術式構築に励むのだ。わしはわしの役目を果たすとしよう」


「魔王さまが此の地ですることなどりませんよ。のんべんだらりと百年を過ごして居ればそれで良いのです。時間が来たら教えます」


「魔王には魔王の責がある。構わずとも良い」


「構わずとも良いではなくて、『余計な事するんじゃありません』と遠回しに言って居るのです。大人しくしろ下さいと申し上げているのです」


「相変わらず歯に衣着せぬな」


「物腰柔らかで、機微繊細きびせんさいな言い回しをしても理解出来ないではありませんか」

「やかましいわ。そもそも魔王に対して不敬千万であろうが。そなたが口を差しはさむことではない、そう申したであろう」


 くるりと踵を返した魔王を追ったが思いの外に足が速く、魔女はそのまま小走りになった。


 足音が遠ざかるにつれ、小うるさかった地下の空洞が静寂に包まれていく。


 やがて誰も居なくなった暗闇の中で、巨岩の如く立ち並ぶコンデンサーの群れが低い蓄電の唸りを響かせていた。

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