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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第二話 お勉強のお時間です魔王さま
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2-4 総べずとも良い

 かの魔女がこの地に現われたのは八〇年ほど昔。


 門戸が開かれたのは欧州の片隅だったが、大戦の最中であった為にそこを逃れて亜細亜へと渡った。

 支那と呼ばれる地域でも紛争は勃発していたが、欧州よりは幾分ましであったし、何よりも躍進著しく血気盛んな国家があったため、国民の熱狂のどさくさに紛れて地方都市に居を構えた。


 そこは小さな島国だったが、様々な思惑や勘違い、そして肥大した自尊心と彼らによって選ばれた者たちの勢いに任せて、自国の一〇倍はあろうかという強大な国に対して戦に踏み切った。


 結果はまぁ、予想通り。

 敗戦後はボロボロになって復興の途に邁進まいしんしたが、その混乱に紛れて一つの都市に目をつけた。

 この地に魔力や魔法は無いが、地政学や風水と呼ばれる「人と物とが集まりやすい土地」の研究は実に熱心に行なわれていた。

 要衝と呼ばれるそういった土地ならば間違いなく再び発展する。


 古くからの町の多い欧州よりも、廃墟になった後から再興される町の方が手を加え易い。

 木造建ての平屋が多く、綺麗さっぱり燃えて無くなったことも幸いした。

 かてて加えて国民は勤勉でしかも向上心が強い。

 これ程の好物件、元の世界と比べてもなかなか無かった。


 そして復興を司る者たちの懐に潜り込み、自分の思惑を通すため密かな「お願い」をささやき始めたのである。




「一言でってラッキーという感じでしたね」


不謹慎ふきんしんなヤツじゃな。この地に住まう者たちからすれば、寄生されたようなものよな」


「別に彼らの利益は損なっておりませんよ。ただちょっとわたくしめの意見を聞いて頂いて、計画に細々とした修正を加えてもらったダケです」


「魔女のお願いなどと、聞いただけで寒気がするわ。どうせいかがわしい術を使ったのであろう、イカサマの魔女」


「惑わしの魔女と呼んで頂けませんか。確かに当時はまだ魔力のストックは充分にありましたから、鼻薬程度には使わせてもらいました」


「そして苦労の末にコレが出来上った、と」


「はい。一つで自重二五〇トンを越える高圧コンデンサー群です」


 そこは大きな地下の広間だった。


 要所要所にLEDの照明灯はあったが、充分な数とは言い難くて薄暗かった。

 神殿を思わせる巨大なコンクリートの柱が幾本も立ち並び、何と言うか圧迫感があった。

 それは此処ここが地下ということもあろう。


 そして視界の全てに四角い鉄の塊が並んでいた。

 それらは一つで一軒家ほどの大きさがあり、それが整然と並んでいる様は圧巻で、地下の無人住宅地といった風情があった。


「全部で七六機あります。本当はこの倍は欲しいのですが、最近は汚職に手を染める議員も減ってしまって資金繰りに苦労しております」


「裏金を吸い上げておるのか」


「この国で金銭はもはやただの数字です。トールマンが生涯にわたって使える額など高が知れておりますし、見栄や自尊心の為なら財布の紐はいくらでも緩くなります。金を持つ者など所詮しょせんその程度ですよ」


「まぁわしとしては、異界の為政者や財を成した者がどうなろうと知ったことではない。魔族が救われることが最優先よ」


「まったくその通りにございます」


「して、コレは何時起動させるのじゃ」


「まだ使えません」


「な、なに?」


「あと二〇年ほど時間を頂ければ完全かと」


「悠長なことを申すな。魔王城は落ち、皆がどうなっておるかも分らん。良くても散り散りとなって辺境へと逃れて居る最中じゃ。我らの一族が滅亡の危機に瀕しておるのじゃぞ」


「本来は此処ここの準備が全て整ってから魔王さまをはじめ、皆様方をお迎えする腹づもりでおりました。わたしが旅立った直後からこの時この場所へと、です」


「そうか、おぬし予め転移陣の開門先の時間をずらしたのじゃな」


「ずらすというよりも、こちらの世界と元の世界とでは時間の経ち方が違う、それだけの話なのです。偶然この世界を見つけた時には手を叩いて喜びましたよ」


「要は、我らの世界の三日がこちらの世界の八〇年、そういうことか?」


「理解が早くて助かります。

 ですが当初わたしは、我らの世界の一日がコチラ側の五〇年に相当すると見積もったのです。

 百年あれば町ひとつ丸ごと術式で包むことが出来る、そう踏みました。

 なので魔王城の魔法陣は、わたしが転移した二日後に門が開くように術式を書き込んだのです。

 一日で五〇年分、二日で百年。

 完璧を期すならもう二、三〇年ほど欲しかったのですが、それはちと辛い。

 落城必死の状態で、もたもたしている暇はありませんから。 

 しかしわたしの見込みは相当甘かったようですね。

 あるいは術式に誤謬ごびゅうがあったのか。

 しかも指定当日になっても法陣が作動していないなど、計算違いにもほどがあります」


「では、わしの転移は法陣の事前設定を無理矢理こじ開けて行なったと、そういうコトになるな」


「そうなりますね。まぁ、人ひとり分の開門なら壺の間の術式だけで充分ですので」


「よもやまさか、元の法陣は壊れておらぬだろうな」


「知る術が在りません。そもそも人族の兵共が城内に雪崩れ込んだのでしょう?破壊の限りを尽くしたと考える方が妥当かと。魔法技術に貪欲なエルフや、好奇心旺盛で独占欲の強いドワーフあたりが現状維持のまま確保している可能性もありますが、過度の期待は禁物でしょう」


「むうぅ」


「幸い元の世界の帰還門は把握してます。コチラ側から開くことは可能です。しかし元からあったものを開くのと、ゼロから構築するのとでは手間も注ぐ魔力も段違いです」


「・・・・時間が掛かるというのは分った。

 おぬしはどれ程だと見積もる」


「追加で百年」


「流石にそれほどは待てん」


「一日で二六年ほどとすれば、元の世界では四日ほどの時間でしょう、恐らくですけれど」


 涼しい顔をして応え、「したる時間ではありません」と付け加えた。


 だが魔女の胸中には別の思惑が在った。


 仮に、である。

 当初の目算である一日五〇年の経過が正しく、現在も変動中で、此の地と我らの地との差が等比級数的に縮まっているとすれば、此の地の百年が我らの地で三〇日ほど経過する計算になる。

 流石に一ヶ月もかかれば残敵の掃討はほぼ完了してしまうだろう。


 そして此の地と我らの地との「時差」が無くなった暁には・・・・


 だがえて今、それは口にしなかった。

 ただの悪予想で根拠皆無、意味がないからだ。


 故に魔女は現在観測できる試算だけで予測を行なった。

 そして魔王もその言を信じ、こらえた。

 四日であっても敗残の者たちにとっては長い時間であった。


 そして今の自分達には魔法陣の構築に全力を傾ける以外の方策が無い。


 だがだからと言って、漫然と指を咥えていて良いという理由にはならないのである。


「魔王城は落ち、皆は散り散りになっていよう。どうやって集める」


「転移の得意な者が各地に避難経路を構築しております。わたくしが一度合図を上げれば、逆の手順で直ぐさま招集される手筈になっております」


「初耳じゃぞ」


「いま初めて申し上げましたから。当初の予定では魔王さまが、いの一番で逃避経路に叩き込まれる筈だったのですが、色々と予定外の出来事があったのでしょう。よくある話です」


 副官殿には申し上げて居たのですけれどもね、と付け加えたときの魔王の顔はなかなかに面白くて、スマホで撮っておけば良かったと思った。


まったもってキサマらは。おぬしの手筈や法陣を読み解き、コチラの世界に雪崩れ込んでくる可能性もあろう。悠長に構えては事をし損じるぞ」


「我らがもっとも警戒せねばならないのはエルフですが、コチラに出た途端子犬よりも貧弱な存在と化すでしょう。この世界には魔力が無いのです。魔王さまよりもヒドイ状態になるのは確実。脅威足り得ません。

 ノームは尚更、竜種は飛ぶどころか身体を動かすことすらままならならず、魔法嫌いなドワーフに至っては興味を持っても魔法陣を潜ろうなどとは考えないでしょう。連中に探究心はあってもフロンティアスピリットに欠けます。コチラ側に来るなんてナイナイ」


「あのなぁ、逆におぬしは危機感を欠いてはおらぬか。トールマン共が数を頼んで押してくるやも知れぬぞ」


「魔王城が落ちた現在、万単位の兵が転移の門を潜ることは叶いません。数百が精々でしょう。コチラ側の軍隊ともめ事でも起こせばそれこそ鎧袖一触、ほんの数刻で蹴散らされます。

 むしろ逆に攻めて来てくれないかと思いますね。連中は阿呆ですが命の損得勘定は出来ますから。痛い目にあったらりるでしょう」


「楽観的に過ぎぬか?それにいま思ったのだが、エルフが無力になるという事は我ら魔族も同様であろう。おぬしは魔族をこの地に呼んで、如何いかにして復興させるつもりなのじゃ。魔法の使えぬ土地で、どうやって此の地をべると言うのか。

 聞かせい、どんな目算がある」


「総べずとも良いではありませんか」


「なに?」

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