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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第十話 只今準備中です魔王さま
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10-5 どういう事ですか

「見落としたなんてどういうコトなんです」


 ハトポッポさんが見張り、もとい護衛のエルフに噛み付いていた。

 彼曰く、大荷物を引く毛むくじゃらな巨大な生き物(飼い慣らした魔物の一種らしい)の陰に隠れて一瞬視界が阻まれ、次に気付いた時には見失っていたらしい。


「彼はこの街に不案内なんです。トールマンを良く思わない連中は少なくありません。魔力が失せてからというもの、その傾向は更に顕著けんちょです。

 まかり間違って衛兵にでも見つかったら、どんな不条理を被ることになるか」


「彼が自分から逃げ出したなんて事は考えられないか」


此処ここから出て何処どこに行くと言うのです。それに逃げ出すつもりならとうに出来てました。まさかお忘れではないでしょうね」


 護衛の二人は口籠くちごもって視線を反らした。


 数日前、公介くんが真夜中にコッソリ出て行ったのは知っている。

 ハトポッポさんから事後詳細を聞いたということもあるが、わたしも知らぬ顔で寝たふりをして居たからだ。

 連日終始部屋にカンヅメでは、息抜きに抜け出したくもなろう。


 もっとも、客室のある別東の夜哨やしょうをサボっていた護衛の者たちは、後でこっぴどくしぼられたらしいが。


「すまん。わたしが話掛けなどして居なければ、彼から目を離すこともなかったのに」


「アヤカさんが謝ることではありません。わたしも彼への気配りが足りませんでした」


 キョロキョロと気ぜわしげに辺りを見回し、彼の姿を探し始めたハトポッポさんであったが、如何いかんせんそのちんまい身長では辺りを見渡すなんて出来やしない。

 しかも一歩歩くごとに他の通行人にぶつかって跳ね返されて、おたおたとよろめいたり、蹴躓けつまづいたりしている。

 大人に囲まれた小学生か「囚われの宇宙人」みたいな有様だ。

 ちょっと見てられなかった。


「仕方が無い」


 わたしは彼女をヒョイと抱え上げるとそのまま肩車をした。

「ふわっ」と小さな声が上がったのは驚いたからなのか、それとも喜んだからなのか。


「ちょ、ちょっとアヤカさん。何なんですコレ」


「高い場所からの方が、見通しが良くて捜しやすいだろう」


「い、いや。確かにそうですけど。でもコレ、もの凄く人目を引いて恥ずかしいというか何と言うか」


 まぁそうかも知れない。

 わたし一人だけでもこの小柄な人混みの中では、下町に建つ高層ビルか、野原にそびえる展望タワーみたいなものだろう。

 更にその上に乗る彼女は、正にエンパイヤステートビルに登るキングコングのごとし。


「・・・・」


 不穏当だろうか。


 わたしはフードを被っていて見通しが悪いから代わりに見てくれ、と言うと諦めたようで再びキョロキョロし始めた。

 護衛役の二人が呆れたような顔をしていたのは見なかった事にしておく。


 市の開かれている通りをしらみつぶしに捜して周りながら、「何か心当たりのようなものはありませんか」と聞かれた。


 頭の上から彼女の声が聞こえるというのも妙な感じだ。

 新鮮というか、ノスタルジック的なものを感じるというか。

 そういや昔、こうして親戚の子を肩車した事があったっけ。


「心当たりと言われても、わたしも彼もこの街は何も知らないし・・・・あ、でも、王宮や城門の場所を訊くことはり得るな」


「え、王宮は兎も角、寄りにも寄って何故なぜ城門に」


「門には間違いなく衛兵が居るだろう。ソコで王宮までの道をくというのは、思いつきとしては悪くない。まぁわたしは衛兵ヤバいとあなたから聞いているから近付かないが、彼はそんな事情は知らないからな」


「!急いで一番近い城門へ向いましょう。空振りでも構いません。先ずは警護団に一言釘を刺しておかねば」


 わたしたちは一番近い城門、東門へと向った。




 俺は蹴っ飛ばされて地面に転がっていた。


 何でこんな目にっているのかサッパリだった。


 王宮までの道を訊こうと思って門の脇に居る二人に声を掛け、陛下のおわすところに何用か、とすごまれた後に先ずフードを取れと言われた。

 取るなと言われているので取れませんと言ったら、ふざけるなと怒鳴られて、槍の先で無理矢理引きがされた。


 その途端だ。

 タダでもトゲのある態度が更に険悪になり、「トールマンか」と吐き捨てるように、いや文字通り唾を吐き捨ててにらみ付けられたのである。


「キサマのようなヤツが王宮に近付くことなどまかり成らん。とっとと王都から失せろ」


「失せろと言われても、俺は王宮で厄介に成っている者で」


「嘘でたらめを並べるな!」


 怒鳴られ槍のお尻の方で鳩尾を思いっきり小突かれた。

 痛みのあまり身体をくの字に折ったら、そのまま足を払われてその場にひっくり返る羽目になった。


「不甲斐ない、そのデカい図体は見かけ倒しか」


 フン、と鼻を鳴らされて、直ぐさま門から出て行けと言われた。


「で、ですから、俺は王宮で女王さまから客として」


「まだ言うか。見逃してやると言って居るのに、どうやら聞き分けも出来ん阿呆のようだ」


 教育してやる、と言われて脇腹を爪先で蹴られた。

 たった一発で息が出来なくなった。


 悶絶していると、そのまま槍の反対側で再び力任せに小突かれた。肩甲骨のすぐ下で、痛みに悲鳴が出た。


 そのまま再び蹴りが反対側の脇腹に入った。

 後は背中や腹や頭やお構いなしだった。


 キサマらトールマンのせいで魔力が失せた、と言われた。

 リクイリリ陛下のお顔に泥を塗った、とも言われた。

 我らエルフをコケにしている、と怒鳴られた。

 下賤げせんで欲深い劣等人種め、と唾を吐きかけられた。

 俺がやった訳じゃない、と反論したらどの口が言うか、と激昂げっこうされた。


 でもそれは、本当の事だというのに。


 二人がかりでヤられるがまま、されるがままだった。

 逃げようとする度に足を払われて何度もひっくり返った。


 そしてトドメの一撃が腹へのトゥキックで、地面の上を転がってゲロを吐き出す羽目になった。

 息が出来なくてゼイゼイと喘いだ。

 涙が溢れて、よだれはなとで顔がぐちゃぐちゃになった。


 ただ地面を転がるばかりで、何も出来ない自分が腹立たしかった。


 無力な自分が情けなかった。


 悔しくて悔しくて、嗚咽おえつまで漏れてきた。


 そもそも、俺が何をやったというのだ?


「ざまぁ無いな、トールマン。ちったありたか。言うに事欠いて陛下の客だなどと」


「もう二度と王都に踏み入ろうだなんて考えるなよ」


 汚らわしい、とあざけりの言葉が降ってきた。

 だけど俺は腹が痙攣けいれんする痛みに堪えることで精一杯で、反目の声を上げることすら出来なかったのである。


 不意に声が降ってきた。


「コレはいったいどういう事ですか」


 唖然あぜんとした声音に地面から顔を上げれば、逆光の中に異常なほどに巨大な人影がそびえ立っていた。


 声の主は確かにハルクックさん。

 だがこのシルエットは、どう見たって俺の知っているソレじゃあ無かった。


「な、何だ、お前」


 さらに唖然とした門番二人が問い返している。


 そのエルフは一般的なエルフの体躯たいくを、天上から睥睨へいげいするがごとき高所から見下ろしていた。

 彼女の名前はハルクック。

 そしてその極めて小柄な身体を肩車するのはやたらと背の高い、フードマントを被った怪しい人物であった。

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