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【1万1千PV感謝】下町侵略日記  作者: 九木十郎
第十話 只今準備中です魔王さま
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10-4 衛兵のヒトが居た筈

 人間の欲望ってないな。


 市の雑踏の中で立ちすくみ、行き交う人々を見ながらボンヤリと物思った。


 彩花さんはハルクックさんと一緒に市場の品を物色していた。


 荷馬車を引く牛とすれ違い、大荷物を背負った男性が幾人いくにんも行き来していた。


 こうしてながめるダケなら見知らぬ外国を旅する観光客の気分に浸れる。

 でもその実、ここの人達は俺や彩花さんとは相容れない別の世界の人間で、一歩間違えばあの銀髪碧眼のヒトに脅されたように、訳の判らない不条理に巻き込まれる羽目になるのだ。


 捕まえられて檻に入れられたり。

 金貨で品物みたいに取引されたり。

 幌馬車に押し込められてエルフの国に来てリアル首チョンパを見せられ、女王さまとご対面した後に、ベッドしかない殺風景な部屋に彩花さん共々カンヅメにされる始末。


 何なんだろうな、俺のこの状況。


 異世界に行った人間は特別な能力を授かって、その世界で無双するものなんじゃないのか。

 こんな四六時中見張られた囚われの毎日が続くだなんて聞いてない。

 何時になったらこの鬱陶うっとうしい毎日が終わるんだろう。


 あの甲冑着た人達、コッチの世界じゃトールマンって言うんだっけ。

 おりに入れられてトーツエンさんに色々と教えてもらっていた頃、この世界に来てどれ位日にちが経ったのだろうとボンヤリ物思っていた。

 いったいいつ解放されるのだろうと彩花さんとよく愚痴ぐちっていた。


 他に何もする事が無かったし、檻の中で荷馬車にられるダケだったし、素っ裸でボロ布に包まって彩花さんのウンチクに耳を傾けていた。

 そしてみんな今頃どうしているだろう、という話になった。


 もう夏休みなんてとうに終わっている。

 二学期の授業はどれ位進んでいるんだろうか。

 ヘタすると中間考査が始まっているなんてコトは・・・・


 そんなことをつぶやいたら彩花さんから、「その辺りは諦めた方がいいだろうな」なんて素っ気ない返事があって随分と腹を立てたものだ。


 でも今なら彩花さんの物言いも分かる。

 だってどうしようもないのだから。


 どんだけはしょって計算してみても、こっちに来てから既に二ヶ月は固い。

 一度完全に充電切れてしまっているから、スマホの時計もカレンダーも当てにならなかった。

 そしてふと、コッチ側と俺たちの世界とでは時間の流れ方が違うと言われた事を思い出した。


 確か、コッチ側の四日が百年みたいな事を真魚ちゃんが言って居たような・・・・


 軽く暗算して青ざめた。


「え、ヘタすると千年単位の時間が経っている?」


 やめてくれ、と頭を抱えた。

 冗談は止してくれ、それじゃあ帰っても俺の見知っている人達なんて一人も残って居ない、そういう話になるじゃないか。

 俺や彩花さんの帰る家も残って居ないって話になる?


 いや、そりゃそうだろうよ。どんなに頑丈な家でも千年前のヤツが残ってるなんて在り得ない。

 そして俺の家族が住んでいたマンションがそんな月日に耐えられる訳がない。

 耐震性バツグン日当たり良好の優良物件だって、一〇世紀分の年月はちょっとツライんじゃないかな。

 残って居たら逆にビックリだよ。

 国宝指定の重要文化財だよ。


 じゃあ俺は戻ったら、重要文化財に住まなきゃならないって話なのか?


 そして父さんや母さんはとうにご昇天あそばされていて、妹もまた同様で、その孫とか曾孫とか子孫の子達と生活しなきゃならないって事なのか?


 だいたい一度も顔を見たこともない曾孫もブッチギリな子孫なんて、もうタダの他人と変わりがないじゃないか。


「冗談じゃない!」


 頭を抱えたまま思わず声を上げた。


 道行く何人かが怪訝な顔で振り返って、直ぐに興味を失って去って行った。

 そしてハタと気付いたのだ。

 俺の周囲に見知った人達の顔が一つも無かったのである。




 人混みに紛れてウロウロと歩き続けた。


 彩花さんたちとはぐれて元いた通りに戻ろうとしたのだが、どれも似たような風景でしかなくて、ぐるぐると巡り歩く内に自分が何処どこに居るのかすら分からなくなって居た。


 いや、元々この辺りの地理なんて全然知らないから、何処をどう歩いたのかすら見当も着かないのだけれども。


 家族で旅行したり、修学旅行でクラスメイトと街を徘徊はいかいしたりした時にもそうだったけれど、どうやら俺は無自覚に歩き回るクセが在るらしい。

 お陰でよく妹や友人に小突かれたり、襟首をつかまえられて引き戻されたりして居た。

 お前の首には犬のリード紐が必要だ、などと失敬なコトを宣うヤツも居た。


 だが今は「嗚呼確かに」と納得出来る。

 いい歳して迷子になるなんて反論の余地がまるで無かった。


 どうしよう。

 誰かに道をこうか。

 でも俺が知っている場所なんて、王宮か城門くらいしか分からない。


 エルフの人達は押し並べて俺や彩花さんよりも楽に頭一つ分は低いから、群衆の中でも頭越しに遠くまでよく見渡すことが出来た。

 お陰で周囲からの注目度もバツグンなんだけど、俺や彩花さんを見張っていた二人が見落とすなんてどういうコトなんだろう。

 自分でも気付かない内に異世界者特典、「透明人間の技」なんてものでも身に着けていたのだろうか。


 キョロキョロと見回す内に、群衆の向こう側に城門と思しきものを見つけた。

 見通しが良いとこういう時に助かる。

 城門には確か衛兵のヒトが居たはず

 ソコで王宮までの道を訊こうと思って、そちらに向けて歩き始めた。

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