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掬水航空艦隊  作者: 畠山健一
9/21

特攻隊と海兵隊

「かが」の飛行甲板に、3機のF-4Uコルセアが並んでいる。特徴ある逆ガル翼の、米海軍艦載機は零戦に対抗しうる戦闘機として開発された。軽快で格闘性能に優れた零戦に対し、重武装、装甲された機体に、大馬力のエンジンで圧倒する。

 12.7mm機銃6門、1トンを超える爆弾に、ロケット弾まで装備できるが、今はソノブイの束をぶら下げている。

 翼の下からパイロットはそれを覗き込み、米軍士官の説明を受けている。

「再びA・S・S攻撃の危険性があり、君たちに飛んでもらうことになった。指定された座標に、こいつをばら撒いてくれればいい・・・簡単だろう?」

 ケリー少佐は、海兵隊パイロット隊長、スピアーズ大尉の顔をうかがった。彼らは日本軍パイロットと隔離された艦内区域で、退屈な時間を過ごしていた。

「ああ、暇つぶしにやってやる。ジャップと一緒でなければな・・・」

「ジャップとは俺たちのことか?」

 二人が振り向くと、そこに海軍航空隊の岡村大尉が立っている。流暢な英語に、二人の米国人は驚いた。

 岡村は「コルセア」の風防の下に刻まれた、七つの「日の丸」を数えた。

「我々の戦友を多く殺したようだな・・・」

 このような撃墜数の誇示は、日本側でもやっていることだ。しかし相手側からみれば全く面白くない。岡村の目は憎悪に燃えているようだった。

 スピアーズは、敵愾心という点で負けてはいない。岡村を睨みつけて言った。

「何の用だ?」

 彼は腰のピストルに手をかけている。戦場であれば、ためらわず撃つところだ。しかし突然の環境の変化で、彼らも同じ境遇にいる・・・お互いにその意識はあった。

「殺し合った相手の顔を拝みに来ただけだ」

 ただならぬ雰囲気の中、二人は無言で向き合った。たまりかねたケリーは二人の間に割って入った。

「岡村大尉、任務の遂行、ご苦労だった。スピアーズ大尉は任務の為、今から飛び立たなくてはならない・・・話はその後にしてくれないか?」

「いや、もう用はない」

 岡村はふり向き、遠巻きに眺めている部下たちのもとへ去っていった。

 スピアーズの後ろに、二人の部下のパイロットが近寄った。

「あのジャップの野郎は何て言ったんです?」

「多分、ハロー、と言いたかったんだろう・・・」

 三人はそれぞれの戦闘機に乗り込んだ。二千馬力エンジンがうなりを上げ、3機は次々と飛び立った・・・。


「かが」の船内で海軍航空隊にあてがわれた食堂は、34名がくつろぐのに十分な広さだった。

「全員、揃っているな?」

 パイロットたちは複雑な表情のまま、動きもなく座っている。岡村大尉は飛行帽をテーブルに置き、ゆっくりと座った。

「俺たちは沖縄の海で死ぬ予定だった。その通り、ここにいる全員、戦死したことになっている・・・だが、現実にこうして生きているのは確かだ」

 岡村は、ふと若いパイロットの顔が目に入った。

「日高三飛曹、貴様いくつになる?」

「十九であります」

「ならば今は109歳だ。信じられるか?」

 松本飛曹長が口をはさんだ。

「自分は信じません。日本をこの目で見るまでは・・・」

 すぐさま、崎野飛曹長が反論した。

「帰ったところで、誰も知る者がいなければ、何の意味がある。死んだことと何ら変わりない」

 伊藤中尉は苛立ったように立ち上がり、岡村に訴えるように言った。

「我々はこんな事をしていていいのでしょうか?散っていった大勢の仲間に顔向けできるでしょうか?敗戦だの、そんなことは関係ない・・・信念を捨てることは、死んでいった仲間への裏切り行為です!」

 皆、静まり返った。それは誰もが心から離れない呪縛だった・・・。

「ならばどうする?ここで全員自決するか?」

「それもひとつの道でしょう・・・」

 伊藤は、落ち着きを取り戻したように座った。そして付け加えるように言った。

「しかし、隊長のお考えに従います・・・皆、そうするでしょう」

 今度は岡村が立ち上がって言った。

「ならば貴様たちの命はこの俺が預かる。明日死ぬことになるかもしれないし、生きて何かやるべきことがあるかもしれない。だが、死に急ぐ奴はこの俺が許さない。死んだ戦友の事はしばらく心に留めておけ」

 岡村自身、何の確信もなかったが、僅かでも希望があれば、それに賭けたいと思った。

「俺が思うに、俺たちがこうして生きのびているのも、何か意味があるはずだ。それが何かは分からないが、簡単なことではないだろう・・・貴様たちとともに乗り越えるつもりだ」

 

 F-4Uの3機編隊は、高度三千メートルを巡航速度で飛んでいる。A・S・Sによる放射線は消え、三人のパイロットは自由に交信できる。

「大尉、俺たちはいつまであのジャップの船にいるんです?」

「おい、無線交信は連中に筒抜けだぞ」

「構いませんよ。むしろ聞いてほしいぐらいだ・・・戦争が終わったのなら故郷のピッツバーグへ帰して頂きたいのですが」

 海兵隊パイロットの申し出に、スピアーズは快く応じた。

「構わない。今直ぐ飛んで行ってもいいぞ、ジョンソン」

 もう一人のパイロットはそれに否定的だった。

「俺は御免です。妻はどこぞの誰かと再婚し、とっくに一生を終えているでしょう・・・どうせならまとめて給料もらって、人生をやり直したい」

 スピアーズは感心して言った。

「いい考えだ、スミス少尉。で、どこで何をやる?」

「モンタナで酒場を経営します。おいジョンソン、ピッツバーグなんか諦めて俺といかないか?いい待遇で雇ってやる」

「冗談じゃない、俺にウエイターをさせるつもりか」

 

 スピアーズ大尉が言った通り、三人の会話は「かが」の艦橋に筒抜けだった。あきれた顔の安原に向ってケリーは言った。

「彼らは標準的なアメリカ人です。今後彼らを動かすには契約書が必要になるかもしれませんね」

「そろそろ投下ポイントじゃないのか?無駄話を止めさせないと・・・」

 艦長の心配は無用だった。ソナー員が艦長へ報告した。

「予定位置へソノブイが投下されました。分析を開始します・・・」

 目的は潜水艦の探知だ。艦長はそもそも疑問に思っていた点をケリーに尋ねた。

「沈没艦は三千メートルの海の底だ。他に潜水艦がいたとしても、そこへとどまる理由は?まさか救助を試みる訳でもあるまい」

 ケリーが何かを言おうとする前に、ソナー員がそれを遮った。

「潜水艦らしき反応を探知!二か所からです!」

 三人は二つの輝点を示すモニターの周りに集まった。艦長はレーダー員へ尋ねた。

「目標までの距離は?」

「36,000メートル・・・40分で到達します」

 艦長はケリーの顔をうかがった。険しい表情になっているケリーの口から、驚くべき言葉が発せられた。

「直ちに、全護衛艦に魚雷攻撃の準備を・・・」

 安原が慌てたように間へ入った。

「撃沈しろと言うつもりですか?何者かも分からないのに・・・」

「手遅れになれば取り返しのつかないことになります」

 安原にはその意味が理解できなかった。

「何が手遅れです?もし彼らの目的が人命救助だったら・・・」

「人命救助などではありません。そもそも無人なのですから・・・」

 安原は唖然とした。その意味を問いただそうとすると、今度は通信員の報告がそれを遮った。

「米海軍の緊急通信です」

 それを受け取った艦長は、そのメッセージを読み上げた。

「米艦隊が到着するまで、目標に一切手出ししてはならない・・・まるで君の意図に気付いたような言い方だな」

 ケリーは無念さをにじませて呟いた。

「チャンスは失われました・・・奴らを逃すことになるでしょう」


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