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掬水航空艦隊  作者: 畠山健一
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掬水航空隊の最期

 4隻の護衛艦はついに敵艦を視界に捉えた。距離はほぼ40km、アンテナの先端が水平線に顔を出したにすぎない。

 レーダー射撃ができなかった時代・・・例えばレイテ海戦における日本海軍の場合、栗田艦隊はおよそ30kmの距離から護衛空母群への砲撃を開始した。戦艦大和の主砲の射程距離が40kmあっても、艦影まで確認できない距離であり、着弾観測機を飛ばしても命中させるのはなかなか難しい。実際に命中弾を浴びせたのは15km以内に接近してからだ。

「こんごう」と「あきづき」の装備するレールガンは、弾丸加速度と命中精度が桁違いだ。しかし主にミサイル迎撃用で艦船への打撃力は小さい。連射によるピンポイント攻撃で敵の重要装備を破壊する・・・護衛艦隊はその使命を十分理解していた。

 全艦は戦闘態勢に入っている・・・A・S・Sをレールガンで破壊すると同時に、全速で突入してあらゆる火力で敵艦を撃破するだけだ。

「こんごう」の艦長は命じた。

「全艦攻撃開始!」


「かが」は40分遅れて護衛艦隊を追っている。レーダーも無線も使えない状況下で、彼らは傍受したデータから分析するしかなかった。

 まず、オーロラ・シールド反応が確認されたということは、米空母飛行隊が苦境に陥ったことは明らかだった。未だに反応が続いているということは・・・敵艦は健在だということになる。

 では岡村隊とスピアーズ隊は・・・その運命は誰にも分からなかった。

 安原はじっと上空を見つめた。たとえ攻撃に失敗したとしても、帰還する可能性はある・・・しかし彼らが現れることはなかった。

 レーダー員は、いくつかの爆発による衝撃波を探知した。そして・・・。

「オーロラ・シールド反応が消えました!」

 衝撃波はソナー員にも探知される。

「魚雷戦が始まった模様です・・・」

 戦況は分からないが、A・S・Sの照射が止まったことからみて、原潜が打撃を受けていることは確かだ。

「重要なのは通信システム侵入の遮断です」

 キーナンはロシア軍指令システムの支配を阻止する以外、第二段階への移行を止める手はないと理解していた。核の応酬は止まっていないのだ。

 

 既に激戦のピークは去っている・・・その戦場に接近するにつれ、「かが」にも戦況が見えてきた。AI原潜は激しく炎上し、動きはない。機能は完全に停止し、その情報通信の支配も終わった。

 護衛艦隊は空母ジョージ・ワシントンを包囲し、空母にも動きはなかった。ただ、発光信号で降伏の意思表示をしている・・・。

「かが」の飛行甲板に海自のヘリが待機している。ケリー少佐、キーナン博士、安原一佐がそれに乗り込んだ。

 発艦した海自ヘリはジョージ・ワシントンに向っている。

「まさか罠じゃないでしょうね?」

 安原は不安そうにケリーに尋ねた。

「乗組員たちが船のコントロールを取り戻しただけです。一連の行動は、彼らの意思ではなかった・・・首謀者らしき将校が拘束されているようですが、調査はこれからです」

 安原はさらにキーナンへ尋ねた。

「どうしても彼らに聞きたいことがあります。岡村大尉たちが何故消え失せたのか・・・生きているのか、死んでいるのか・・・」

「シャットダウンしたAIを解析しないかぎり分からないでしょう。何をやったのか、何の意味があったのか・・・それがどんな可能性を秘めているのか」

 そしてキーナンは二人に尋ねた。

「その内容によっては、引き継ぐ価値があるかもしれません・・・無論、平和的にね。我々でやりますか?万が一にも・・・彼らと再会する道が開けるかもしれません・・・」


 ウルップ島の無人の飛行場に、零戦4機と「コルセア」1機が並んでいる。そのパイロットたちは上空をじっと見つめている・・・。

 火を吹きながら墜落するヤク―9戦闘機を、1機の零戦が見届けるように追っていた。ソ連軍のエースパイロットは脱出することもなく、機と運命を共にした。

 零戦はしばらくその上空を飛び回っていたが、やがて仲間たちが待つ、荒れた滑走路へ着陸した。コクピットから降りたパイロットは岡村大尉だった。

 岡村は部下のパイロットひとりひとりに言葉を交わしている。そして「コルセア」のそばに立つスピアーズに近寄った。

 スピアーズの方が最初に声をかけた。

「見事だったが、決闘は中世の野蛮な習慣だ」

「ここではれっきとした敵だ。取り替えた無線機が初めて役に立った。傍受した交信によると、今は昭和20年・・・1945年8月19日で、ソ連と交戦中だ」

「俺も米軍の交信で知った・・・全く、このおとぎ話はいつまで続くんだ」

「俺はこれから部下たちと飛ばなくてはならない。貴様はこれからどうする?」

「戦争は終わったし、俺の戦いも終わった。死んだ部下たちの家族に手紙を書かなくてはならない・・・その先はまた考える」

 岡村は1冊の本をスピアーズに手渡した。

「歴史書だ。最後の特攻隊のことが書かれてあるが、我々が最後の掬水特攻隊として敵揚陸艦に突入する・・・貴様にそれを書き加えてもらえたら有難い」

「馬鹿を言うな。俺に日本語など読めない・・・揚陸艦とは何だ?」

「傍受した情報によると、戦車を積んだソ連揚陸艦が北海道を目指して出港した・・・我々が阻止する」

「戦争は終わっちまったんだ。何の意味がある?部下たちを道連れに死ぬつもりか?」

「俺が行かなくとも、部下たちは行くだろう・・・彼らの意思だ」

「ならばお前がそれを止めるべきだ。戦争なんぞ忘れて、人間らしく生きればいいんだ。お前は日本人の中でも話の分かる奴だと思っていた」

「確かに戦争は終わった・・・だからこれからは自分の意思で決める。意思とは天命に従うことなんだ。その本によれば北海道が侵略された歴史はない・・・俺たちが天命を全うするからだ」

 スピアーズは説得を諦めた。

「お前は立派な男だ。俺には真似できない」

 そう言ってスピアーズは並んで立っているパイロットたちと握手を交わした。彼らも敬礼で応えた・・・。


 最後の掬水航空隊・・・爆装した零戦の5機は飛び立っていった・・・。


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