健康診断しに来ただけなのに 2
ギルドあさかわには扉が二つある、一つはギルド外の人間が依頼や加入をする為に入る表の扉。
もう一つは同じ扉だがある手順に従って魔力を流し込むことで入ることの出来る裏の扉。
俺は倒れ込むように裏の扉に入るとあさかわに戻る事が出来た。
「げほっ……胸が……大丈夫か?皆」
「アエスクラ殿も無事だ、イエリもいるぞ」
「それより!一体どういう事なんじゃ!?なんで騎士団があんな理不尽な……!」
「とりあえず……カダ先生に話さないと」
俺は立ち上がり周りを見る、ここは通称『7つの扉』と呼ばれる部屋だ。様々な施設がある酒場にある奥の扉とは異なる部屋。
それぞれの扉に主要7大国の名前が書かれておりその扉に入ればその国に移動することの出来るあさかわの魔術の一つだ……だが俺は空間移動なんて魔術は聞いたことが無い。
全員が息を整えると俺達は今まで起きた事を報告するためカダ先生の下へ向かうのだった。
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ギルドあさかわ 医務室
「……突然お前達がアエスクラを連れて来た時は何だと思ったが、そんな事になってるとはな」
「お久しぶりです、先生。彼らの手助けが無ければ僕はどうなっていたか……」
「この件はマスターにも報告しよう、少し気掛かりな事がある」
「俺がなんだって?」
カダ先生とアエスクラの会話に割り込んだのはいつの間にか俺達の背後に立っていたマスターだった。
「ああマスター、プライド国の事だが……」
「俺の方にも報告が来た、プラウド騎士団が無差別に近い勢いでいろんな奴を拘束してるって話だ」
「聞いていたか」
「プラウド騎士団は本来外敵に対して用いられる兵力だ、プライド国は自警団が存在していて国内のいざこざはそいつらが対応する筈だ……そうだな、手っ取り早く事態を知る方法は上の奴に聞く事だ」
マスターは俺達を見るとビシッと指を指した。
「ガイゼン、イエリ、ツバキ。お前達はプライドの中心であるプライド城に行って王に話を聞いてきてくれ、同行者としてザザを連れていく」
「マスターはどうするのじゃ?」
「俺は少し調べたい事がある、何かあったらアルかエジアに連絡してくれ」
「アエスクラ、しばらくお前は俺と居ろ。勉強をサボってないか見てやろう」
「うえっ!?お、お手柔らかにお願いします……先生」
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プライド国 プライド城前
「イエリ、そんなに鞄に入れて重くないか?」
「大丈夫じゃ、獣人は力持ちじゃからこれくらいなんでもないのじゃ!」
俺達はマスターの指示通りザザさんと共にプライド城前に来たのだが……
「考えてみたら王様に会うのって一筋縄でいかないんじゃ……」
「拙者が文をマスターから預かっておる、ギルドマスター直々の書状なら無下には出来まい」
「流石ザザ殿、準備がいいな」
「人脈と知名度はどの世でもあって困るものでは無い……拙者が先に行こう」
そうして門の前に行くと二人の門番が槍を構え威嚇してくる。
「止まれ、今王城は立ち入り禁止だ」
「拙者達はギルドあさかわの者だ、王に謁見したく書状を持ってきた」
「見せてみろ」
ザザさんが書状を渡すと門番は読む前にびりびりに破いてしまった。
「あっ!書状を!」
「おっと悪いな、力がつい入っちまった。書状が無いなら入る事は諦めろ」
「お前らふざけやがって……」
「待て、ガイゼン」
門番の態度に俺は苛立ち、迫ろうとしたらザザさんが手で俺を制してきた。
「やはり只事では無いな、お前達プラウド騎士団は傲慢でこそあるが決して友人を無下にするような者達ではなかった」
ザザさんはそう言いながら持っていた刀を鞘に入れたまま構えると……
「こういう時は多少強引の方が良い」
音もなく振り抜かれた刀が門番を纏めて吹き飛ばしその意識を吹き飛ばした。
「ザザさん!?」
「このまま話しても真摯に通してくれるような状態ではなかっただろう?ならば多少強引にでも押し通った方が良い」
「い、いいのかな……?」
気絶している門番を隅に追いやりつつ俺達は城内に入る事になった。
奇妙な事に城内は殆ど人が見られず、兵士が巡回している訳でも無かった。
「どういう事なんじゃ?」
「以前拙者が来たときは一部を除いて国民も観光が出来るよう城内が解放されていた、しかしどうやら完全に人を払っているようだな」
「……その理由は本人に聞けばいいか」
そうして玉座の間にたどりつくと、そこには一人の男が座っていた。
「虫が紛れ込んだようだな」
それは茶髪で、鳥の様な翼を背に持つ獣人だった。
「この王の下に来るという事はただ観光をしに来たわけでは無いのだろう?」
それは青い鎧を身に纏い黄金の瞳を光らせていた。
「久しぶりだな、傲慢の王よ」
ザザが前に立ち、竜の翼を広げると王は眉をひそめ、そして思い出したかのように手を叩く。
「ああ、覚えているぞ?王の前であるにも関わらず敬おうとしなかったあさかわとかいうギルドのトカゲでは無いか!」
「罪のある者を無差別に捕えているようだな」
「罪人は罰せよ、当然の事であろう?」
「罰するにしてはいささか基準が緩いとは思わないのか?」
「思わんな、王の前で不山戯た態度を取る者達を捕える事の何がおかしい」
ザザは鞘から刀を抜き放つとその刃を王に向けた。
「やはり違和感がある、傲慢の王よ……一度刃を交えようではないか」
「ハハハハハ!!いいだろう!この王自ら刃を向けた愚か者を捕えるというのも悪くない!」
王は玉座から降りると三刃の剣と勘違いするほど長い鉤爪を取り出した。
「貴様ら、このルシウス・プライド・リフォンが相手をするのだ。せめて五分は持って見せよ」
それが合図だった。
「ぬぅん!!」
ザザの一振りを鉤爪で防ぐとルシウスはそのまま上に刀を弾く、そして片足を軸にした回し蹴りを放つがザザは身を逸らし掠める様に躱す。
「ハハハ!やるな、だが後ろの者は案山子なのか?」
剣戟を繰り広げるルシウスに指摘されハッとなったツバキとガイゼンはそれぞれザザを守るように盾を構え突撃し、魔術を放つ為にイエリを庇う様に構えた。
「『炎獄』!」
「ほう!上級の魔術を詠唱も無く容易く放つとは魔法だな!?案山子から木偶の坊に格を上げてやろう!」
そう言った瞬間鎖の付いた鉤爪がガイゼンに向かって投擲された。
「なっ!?」
「ガイゼン!」
不意を突かれたガイゼンを守るようにツバキが盾で割り込むと鉤爪は横に弾かれた。
「『かの者を捕え拘束せよ。バインド』!」
ルシウスが声を上げると鉤爪は魔力を帯び急速に曲がりツバキを鎖が絡めとった。
「うあっ……!」
「ツバキ!……おのれ!」
ザザがその鎖を持つ手を切り落とさんと刀を振り抜くが鎖を使いルシウスは刀を阻んでくる。
「ツバキ、大丈夫か!!」
「傷は無い……が、肉体強化の魔術が使えない!」
「魔力阻害まで付いてるのか!?」
「ガイゼン!これを使うんじゃ!」
イエリは鞄からガイゼンにノコギリの様なものを渡され、ガイゼンは手に取った瞬間それの意図を察した。
「まさかこれで切れって!?」
「そこにスイッチがあるじゃろ!」
「……あっ、これか!?」
ツバキを縛る鎖にノコギリの刃を当てスイッチを押すと耳をつんざく様な音と共にノコギリが発熱しながら回転し鎖に火花を散らし出す。
「うおああぁぁあっつぅ!!??」
「頑張るんじゃガイゼン!もう少しで切れそうじゃ!」
「なんでお前だけ鉄マスク完備してんだよ!!」
「すまない!耐えてくれガイゼン!」
「なんでツバキも着けてんだよ!今一番必要なのは俺だろ!!」
「……まさか切断するつもりか、私の鎖だぞ……おっと!」
「余所見とは随分傲慢では無いか、ルシウス!」
「それが王なのだからな!」
刀を寸でのところで防ぎ続けるルシウスにザザは焦りを感じていた。
「(可笑しい、この程度の鎖…拙者なら容易く切れるはずなのに何故切れない?)」
ザザは自分の実力をよく把握していた、決して驕らず過大評価せず、しかし確実に鋼程度なら切れると自負していた。
しかしこの鎖はなんだ?魔法金属とされるミスリルでも上手くやれば切れるというのにこの鎖は一向に切れる気配が無い。
「ぐうっ!?」
そんな考えが余計だったか、足を鎖で絡め取られバランスを崩したザザは今までで一番強く弾き出され大きな隙を晒してしまった。
「切れたッ!!」
しかし幸いだったのは隙を補うようにルシウスの動揺を誘った仲間達が居たことだった。
「これで鉤爪はこっちのものじゃ!」
「助かった、ガイゼン!」
「ちょっと……目が……休ませてくれ……」
完全に虚をつかれたルシウスは短くなった鎖を構えると鋼鉄の鞭として目がやられているガイゼンを狙い振るった。
「もう喰らう者か!」
「小癪な!」
ツバキが前に出て鎖を弾き、ルシウスは煩わしい存在を見る目でツバキを睨んだ。
「どうした!ガイゼンとイエリを傷つけたければ、私を突破してみせ――――」
ズバッ
と、斬れた音が背後から聞こえツバキの声は遮られる事となった。
「―――――ガイゼン!イエリッッ!!」
ツバキが振り向くとわき腹から三本の線を刻まれ血を流して倒れるガイゼンと、そのガイゼンに庇われる様に抱きしめられたイエリが宙に浮く鉤爪に襲われている場面が映った。
「ハアアァァッッ!!」
再び切り刻もうと迫る鉤爪を弾き飛ばすとツバキは二人を助け起こした。
「意識はあるか、二人とも!!」
「わ、ワシは大丈夫じゃ……けどガイゼンが、ワシを庇って……」
「イエリ、ガイゼンの止血を頼む。それまで私はあいつを―――」
「これはこれは、崇高なる王の間を血で汚す者がいるな?」
その声に身が凍り、恐る恐る見上げるとルシウスが目の前に立っていた。
「ルシウス……!?いつの間にっ―――」
しかし、ルシウスは何も言わず一枚の紙をガイゼンに貼り付けるとガイゼンの傷が淡い光と共に癒えていった。
「これ以上汚されては面倒なのでな、さて……この俺様を模倣する奴は何者だろうな?」
模倣、という言葉にツバキはハッとなりザザを見るとまだザザはルシウスと戦っていた。
「こ……これはいったいどういう事だ?何故ルシウス……王が二人も?」
「ザザがいるという事は、お前達あさかわの人間だな?決まってるだろう、この俺様が本物のルシウス・プライド・リフォンという事だ」
先程と同じ傲慢な態度だが、少し柔らかい雰囲気を放つルシウスはツバキたちの前に出ると全く同じ鉤爪を取り出した。
「『この俺様の前で王を騙るとはなんと傲慢だろうな』?」
その一言に魔力が載ると、ザザと戦っていたルシウスは突如としてその姿が乱れ弾き飛ばされた鉤爪もまともな形を保てなくなった。
ツバキとイエリ、ザザでさえ驚いている間もなく偽ルシウスは姿を変え、そこに現れたのはマジシャンを模した様な姿をした中世的な姿をした青髪の人間……?だった。
「オストー……!?一体なぜお主が……!!」
ザザが驚愕の表情でオストーと呼んだ奇術師は、見る人が見れば愛くるしいと思わせる様な表情でガイゼン達を揶揄う。
「あ~あ、バレちゃった?でも本物が戻ってきちゃったし、時間の問題だったかなぁ~?」
「少なくとも、今までのお主はここまでの悪事を働く事は無かった!一体……何を企んでいる……オストー」
「うーん……まぁ君達は僕に勝てないし~?言っても良いかな~」
オストーは小馬鹿にしたような表情で考えるとザザに向かって笑顔を見せる。
「魔王様が復活するのさ!僕の目的は魔王様復活の注意を逸らす事だよ!」
その言葉に、ザザは絶句し、ツバキとイエリは言葉の意味を理解するのに追いついておらず、そしてルシウスは鼻で笑った。
「ハッ……魔王だと?100年前に封印したばかりの魔王がそう簡単に復活など出来る訳がないだろう、下らぬ戯言をぬかすのは奇術師故か?」
ルシウスが鉤爪を構え、オストーに向かって投擲するとザザはしまったという風な表情を浮かべ叫んだ。
「駄目だ!オストーは―――」
「ほっ」
パシッと、まるで風に乗って飛んできた紙切れをつまむように鉤爪を掴むとその刃を掴んだまま引っ張る。
「何ッ!?」
「残念でした~」
まるで赤子と力士が綱引きでもしたかのように引き寄せられたルシウスは、予想もしていなかった事態に何もできず腹部への蹴りを防ぐ事は出来なかった。
「がはっ……」
「僕はドッペルゲンガーだけど~、僕が変身する理由は君達レベルに落とす為なんだよ?」
膝をついたルシウスに近づき優しく囁くとオストーは悠々と歩き玉座の間を出ようとする。
その歩みを止める事は、誰も出来なかった。
「あ、そうそう!蓮司によろしくね!」
そうして後に残ったのは、唐突に暴露された魔王という存在と、ただ立っているだけのザザ達だけだった。




