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健康診断に来ただけなのに 1

 イエリが仲間として冒険者になってから数日、今日も俺はあさかわに顔を出していた。


「……あれ、今日は誰もいないな」


 はて、不思議な事にバーのマスターでもあるアルさんもいない。何度か特別な依頼で彼が居なくなることはあるがその間は妹のアゼリアが代理をしてくれている筈だが……


 今日は完全な無人状態に心細くなりつつ奥の扉に向かうと、俺が開ける直前に扉が開き俺の額を打ち付けた。


「痛っ!?」


 扉から現れたのはタンクトップに短パンという非常にラフな格好をしたツバキだった。


「す、すまない……ってガイゼンじゃないか。まだ健康診断は受けてないのか?」


「その声ツバキだな……健康診断ってなんの事だ?」


 俺の痛がる様子に焦っていたツバキは俺が健康診断を知らない事に不思議がっている。


「ん?聞いていないのか。毎年この時期はギルドメンバーの健康を記録するんだ、そういえばガイゼンは今回が初めてだな」


 初耳だが、損する訳でもないのでツバキに促され俺も健康診断を受ける事にした。


「まさか異世界に来てまで健康診断を受けるなんてな」


「早い内に身体の隠れた不調を見つけられるんだ、私は好きだぞ」


「まぁ、こっち(アストラ)だと健康に気を使ってる暇無いからなぁ……」


 医務室に着くと既に殆ど終わっていたのかまばらに人がいる程度だった。


 その内に一人がこちらに近寄ってきた。


「ガイゼン!お主やっと来たか!」


「イエリか、実は今日健康診断だって知らなくてな。お前も入ったばかりなのによく知ってたな」


「ワシは昨日教えてもらったんじゃ、というかなんでガイゼンが知らないんじゃ」


 う、と言葉に詰まった俺に、イエリは顔を腹に押し付けてくる。


「やっぱりワシがしっかりしないとダメじゃな!」


「わかったわかった……そういえばツバキ、先生はどこに……」


「ここだ、お前が最後だぞガイゼン」


 背後から声が聞こえ、後ろを振り向くと俺の腰程の位置に白衣を着た子供が立っていた。


「カダ先生、俺健康診断の話聞いてなかったんすけど」


「一月前から依頼掲示板にデカく張り付いていただろう、まさか見逃したって言うのか?」


 小さい姿をしているこの子供こそ俺達あさかわの医師、器用さに恵まれたドワーフのカダ先生だ。前回俺の腕を治したのも彼だった。


「いやぁ……最近はイエリの依頼を受けてたんで、掲示板見てないんすよ」


「やれやれ……まあいいだろう、サボって診断しない奴が現れるよりはマシか」


 カダ先生は俺の横を過ぎると検査器具の前に立った。


「そういえばガイゼンは今回が初めてだったな、ならこの健康診断が必須な理由も知らないか?」


「え?まぁ知らないっすけど健康診断なんだから理由なんて健康以外……」


「ああ、そうだな。だがもう一つあるんだ……こいつを見てみな」


 カダ先生は俺にカルテを手渡して来た、そこにはツバキの顔写真と彼女の健康情報が記されている。


「ツバキ・フラウ……身長176㎝、体重72㎏、スリーサイズは上から8……」


 取り上げられた、隣を見るとツバキが真っ赤な顔でカルテを持っていた。


「な、何で読み上げるんだ!?」


「い、いやごめんつい……それでこれがどうしたんすか?ただのカルテっぽいすけど」


「ツバキ、返してやれ……そうだな、血圧の数値を見てみろ」


 俺はツバキに睨まれながらカルテを渡されると今度は血圧の数値を確認する、見た所平均的でおかしなところは無いが……


「な、なんじゃ?ここの数字が目まぐるしく変わっておるぞ」


「そう、そのカルテは俺の魔法だ。診察した対象は一年間そいつの健康情報をリアルタイムで常に更新し続けることが出来る」


「凄いな……これがあれば大怪我してもすぐに発見できるって事か」


「そういう事だ、という訳でお前も素直に受けろ、まずは身長からだ」


 そうして受けた健康診断、やり方は前世で知っている事もあってあっさり終わったのだが……


「ふむ、身長162㎝体重59㎏。冒険者であるならもう少し筋肉を着けたいが、まあ適正体重だな」


「はは……こうして改めて調べられるとほっとするっすね」


「カダ先生、ここに大量にあるガラス瓶は何なんじゃ?」


 カダ先生はイエリの言葉に何かを思い出したのかしまったという顔をした。


「ああそうだった、内服薬を幾つか切らしてたんだったな……そうだガイゼン、薬を集めて来てくれないか?」


「え?いいっすけど、俺は薬草の知識とかないっすよ」


「大丈夫だ、プライド国に俺の弟子がいる。そこにいって薬を貰って来るだけだ」


 そういう事ならと俺は承諾し、ついでにイエリとツバキも同行する事になった。


 ・

 ・

 ・

 プライド国 貧民街


 プライド国、主要7大国の内最も裕福と言われる通称『傲慢の国』。国民の多くが裕福な層故に金銭に対しては寛容だが同時に裕福で無い人間も存在していた。


「ガ、ガイゼン……ここは真っ暗じゃ……さっきの道はあんなに騒がしかったのにここは皆下を向いて動かないではないか……」


「プライド国の貧民街……本当にここに弟子がいるのか?」


「ガイゼン、イエリ、あそこじゃないか?」


 ツバキが指す所を見るとどこか汚れている周囲と変わり小奇麗な一軒家があった。


「……あぁ、住所もあってるな」


 俺は家に近づき扉をノックする、しばらくして走るような足音と共に扉が開かれ現れたのは眼鏡をかけた青年だった。


「お待たせしました!患者さんですか……貴方達は?」


「ええと、ギルドあさかわっす。カダ先生から頼まれて薬を貰うように頼まれたんすけど」


「あぁ!そういう事ですか!立ち話もなんですし上がっていってください、お茶くらいならお出しできますので」


 そうして家に上がらせてもらい、お茶を頂いた所で本題に入る事にした。


「僕の名前はアエスクラです、一応カダ先生の弟子を名乗らして貰ってます」


「アエスクラ殿は転生者なのか?」


「いえ、僕は転生者ではないですが……転生者の事は知っています。彼らは凄いですね、魔術も無しに人を治す術を身に着けているんですから」


「言われてみれば……」


 俺は元々一般人だから技術がある訳では無いが……


「僕も先生には多くを教わりました、まだ未熟ですが……おっと、皆さんは薬を受け取りに来たんですよね。在庫がまだあるのでお渡ししますよ」


「助かるのじゃ!しかしアエスクラ先生はなんでここで医者をやってるんじゃ?」


 イエリの質問にアエスクラは窓を開け外の景色を見る様に促した。


「僕はここの生まれなんです、僕が医者になるまでは貧民街では病気にかかるとなるべく人に居ない所で死ぬのを待つだけでした、僕も病気になりましたが……そこに先生がやって来たんです」


 アエスクラは自身の眼鏡を外すと汚れを取り除きながら話す。


「この眼鏡も先生が僕にくれたんです、先生は僕の病気を治しながら医療技術も教えてくれました」


「それでこの街の病気を治したいからここで医者に?」


「ええ、色々と大変な事もありますけど……」


 アエスクラが話を続けようとした時、扉を叩く音が聞こえる。


 少し待ってて、とアエスクラが開けると銀の鎧に身を包んだ男たちがなだれ込んできた。


「プラウド騎士団だ。アエスクラ・コローニスだな?殺人未遂によりお前を拘束する」


「な、なんですか貴方達は……!殺人だって……?僕は人を傷つけた事なんてないぞ!」


「お前は医療行為と偽り、体を切り裂き傷つけていたそうだな?」


「それは本当の医療行為だ……!決して人を傷つける為の行為なんかじゃない!!」


「医療とは治癒魔術の事だ、お前は腹を切って内臓をかき回していたと密告者から聞いている」


 突然現れた騎士団たちに俺達は慌てて介入する


「待ってくれ、私達はギルドあさかわのメンバーだ。彼が行っているのは立派な手術で――――」


「お前達は関係者か?関係者たちは問答無用で拘束させてもらうぞ」


「な、何するのじゃ……!?」


 一人の騎士がイエリに触れようとしたのを俺は反射的に蹴飛ばした。


「何のつもりだ」


「何のつもりだじゃねぇよ、話も無しに拘束する権利があるってのか」


 俺がそう言うと騎士のリーダー格と思しき騎士が一枚の書状を見せて来た。


「現在プライド国全体で浄化活動を行っている、疑わしきは罰せよと国王直々の指令である」


 そこには物々しい文章から信じざるを得ない王族の印らしきものが押されていた。


「皆さん、逃げてください。ここは僕が抑えますから……」


「逃げる?残念だが既にこの家は部下が包囲している、我々は選りすぐりが集められたプラウド騎士団の直属部隊、素直に投降した方が身の為だ」


 その傲慢な態度にハッキリ言って俺はムカついた、一度深呼吸をするとアエスクラに声をかける。


「一回ギルドに帰ろう、いくら何でも異質な事態じゃないかこれは」


「賛成だ、私もこの騎士達には感化できない」


 俺は壁に向かって手を構える、その構えを見た騎士は鼻で俺を笑う。


「壁でも壊すつもりか?包囲しているといっただろう、それに我々の鎧は魔術霧散の刻印を刻んである、無駄な抵抗は止めて……」


「『トンネル』」


 俺が魔術を放つと凄まじい爆風と共に壁を破壊しながら余波で騎士達を吹き飛ばした。


「―――――なに?」


「行くぞ!」


 俺が合図するとアエスクラはツバキに抱えられ、壁から全員が飛び出した。


「何をしている!早く奴らを捕えろ!」


 我に返った騎士たちは素早く駆け出し、魔術を唱える者と剣を持って襲い掛かる者に別れ捕えに来た。


「『炎の槍よ、目の前の障害を焼き尽くせ。ファイアランス』!!」


「『氷壁』!からの『破砕』!」


 俺は騎士達の炎の槍を防ぐとそのまま生み出した氷の壁を砕き氷の礫として騎士達を妨害する。


 いつの間にか先回りしていたのか前方から二人の騎士が現れるが


「私を止められると思うな!!」


「ぐあぁっ!?」 「げほっ……!!」


 ツバキの突進がもろに当たった騎士は鎧に罅を入れながら吹き飛んでいった。


「もうすぐギルドだ!」


 俺が叫んだ直後、地面に響くような足音が鳴り同時に馬の鳴き声が聞こえて来た。


 背後を振り向くと先程のリーダーらしき騎士が黒色の馬に乗り凄まじい気迫と共にこちらに迫ってきた。


「貴様らは絶対に捕えさせてもらう!!絶対にだ!!!!」


「イエリ!拘束頼む!」


「わかったのじゃ!馬よすまぬ……!!」


 イエリは馬の脚に向かって輪っかを投げ込み、猪突猛進する馬がそれに触れた瞬間。


「あがががががっ!!?」


 馬もろとも騎士が雷に打たれたかのように感電しどちらも大きな音をたて倒れてしまった。


「い、威力に改良が必要じゃな……これは……」


「まぁよくやった!改良は後で手伝ってやる!」


 そして俺達はギルドに逃げ込むことが出来たのだった、この騒動が発端だった事に気づかずに。

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