二話でもう海に行くんですか?
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ギルドあさかわ 酒場 夏
ギルドあさかわ、来れば来るほど謎過ぎるギルドだ。
俺は昨日猛暑から逃げる為に入った他のギルドを思い出していた。
依頼者側の視点から見ればあさかわは依頼をする場所と冒険者になるための登録所しか無いのだ。(しかも基本的に転生者以外は突っぱねてるし)なのに冒険者はいるし大体依頼は成功するしである意味不気味だろう。
他のギルドに行った時は酒場と一体化していてなんというか……そう、まさしくファンタジーのギルドと言った感じだった。
間違ってもここの役所じみた雰囲気は無い。
俺はそんな事を冷えたジュースをストローで飲みながら考えていた。
「今日は依頼は受けないのかい?」
そっと俺のテーブルに羊羹を置いてくれたのはこの酒場のマスター……ギルドマスターではなく酒場のマスターである吸血鬼のアルカディオスだった。
「アルさん、サービスっすか?」
「試作品だよ、スライムを寒天の代わりに出来そうだと思ってね」
「え、これスライムなんすか……?」
「毒は無いよ」
「毒は……」
俺はフォークで羊羹をつつきながら躊躇っているとツバキが隣に座ってきた。
「アル!私も同じのが欲しい!」
「はいはい、少し待ってて」
アルさんが奥へ引っ込むとツバキは俺の羊羹をじっと見て来た。
「……食べるか?」
「いや!私の分は今頼んだから大丈夫だ!」
「そ、そうか……」
しかし俺が羊羹をつつく度ツバキの口から涎が垂れているのを俺は見逃さなかった。
「……やっぱやるよ、実は二個目なんだこれ」
「そ、そうか?なら頂こう!」
美味そうに食べるツバキを後目にジュースを音を立てて飲み切るとふと背後に気配を感じた。
俺は後ろを振り向くと白いワンピースを着た白髪の儚げな少女が立っていた。
「……えっと、君は?」
「あなた、新しい人?」
「あ、おう。少し前に加入したガイゼンだ」
じぃ。 っと少女は俺を見ると突然こんなことを言い出した。
「あなたは泳げる?」
「泳げるけど……」
「むぐ……ん?おお、アゼリアじゃないか。どうしたのだ?」
羊羹を食べ終わったツバキがこちらに気づいたのかアゼリアというらしい少女に話しかける。
「ガイゼン、彼女はアルの妹なのだ。私達より年上だが本人たっての希望だ、あまり礼儀を気にする必要はないぞ」
「アルさんの妹さんか、わかった。よろしくアゼリア」
「ツバキ、この人借りるよ?」
「うむ、わかった!」
俺はアゼリアに引っ張られ初めて酒場以外の部屋に行く事になったのだった。
「お待たせ、ツバ……どうしてガイゼンの分を君が食べているのかな?」
「うぇっ!?こ、これはガイゼンがもう食べたからいらないと私に……」
「ガイゼンにはその羊羹しかあげてないけど?どうして君の口元に餡がついてるのかな?」
「えっ、嘘……ガ、ガイゼン戻ってきてくれ!誤解を、誤解をぉぉ!!」
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ギルドあさかわ 資料室
大量の書物が並んでいる場所に来た、というかここに来るまでの廊下の広さに驚いた。幾つもの扉に此処ではないどこかを映した窓があった……
「ガイゼン、貴方に依頼をしたいの」
「依頼?それは良いけど一体どういう……」
言葉を続ける前にアゼリアは一枚の資料を見せて来た、精巧な絵が描かれており水中の貝が口を開けている。
「貝……?」
「の、真珠。これを採って欲しい」
俺は資料を受け取るとしっかり読み込む
『プレゼントシェル 雄の貝が自身の作り出した真珠を雌に渡しアピールする、プレゼントシェルの真珠は非常に美しく貴婦人達のアクセサリーにもなる』
「『主な生息箇所はラスト王国のビーチ付近』……これを採ればいいのか?」
頷くアゼリア、俺はこれならそれほど危険も無いと思い受ける事にしたが、安請け合いは公開するとこの依頼で教訓を得たのだった。
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ラスト王国 観光ビーチ 朝
ラスト王国、所謂そういう施設が多い通称『色欲の国』。ここの観光ビーチもあるべくして生まれたのかと俺は水着姿で独り言ちる。
「海だ!やはり夏は海だな!」
「それで……なんでツバキもいるんだ?」
「普通に暑かったから海にでも行こうと思ったら二人も海に行くというじゃないか!だから便乗する!」
ツバキはビキニの上からラッシュガードを羽織っていた、しかし鍛えられた体は隠しきれず体の所々が強く主張している。
「資料だとこの辺、頑張れガイゼン」
アゼリアは麦わら帽を被り眩しく光る白いワンピースタイプの水着を着て、その体を……余すことなく……その……
「ふんっ」
「いった!?」
突然氷の塊が頬を直撃した、反射的に身を逸らしたが確実に怪我じゃ済まない威力だったぞ。
「と、とにかく……真珠を手に入れればいいんだよな……確か資料だとそれなりに潜らないと見つからないんだったか」
俺は深く息を吸い込むと海岸から飛び込んだ、眼を開けるとそこはサンゴ礁が輝く海のもう一つの世界だった。
「(すっげぇ……地球でも中々見ないぞこんなの)」
俺は感動もそこそこに海の中を進む、貝の大きさはばらばらだが観測されている最大は3mだとか。
何度か息継ぎを繰り返し随分と探したが、探しても真珠どころか貝自体が見つからない。
俺が海から上がるとアゼリア達が駆け寄り進捗を聞いて来た。
「ぶはっ……ふぅ、全然見つからないな。本当にいるのか?」
「いるはず、ちゃんと探した?」
「なんじゃ、お前さんらも真珠狩りか?」
と、突然横からお爺さんが会話に入ってきた。
「ここら辺の貝は殆ど全滅してるんじゃ、随分前にお偉いさん方が珍しい珍しい言うて根こそぎ持ってっちまったんじゃよ」
ガーン、という音と共にアゼリアは崩れ落ちていた。
「今考えれば価値を高めるためにわざと狩りつくしたのかねぇ、全く偉いからって何でもしていい訳ではないというのにのう」
ぶつくさいいながらお爺さんは砂浜を歩いていき、後に残ったのは俺と体育座りしているアゼリアと慰めるツバキだけだった。
「そ、そう落ち込むな!こういう時は美味しいものでも食べて気を紛らわそうじゃないか!」
「ツバキ声デカい……」
「おぁ……す、すまない……」
ツバキまで落ち込んでしまった、日も暮れ始めたしどうしたものかと思うと少し離れた先で悲鳴が聞こえた。
「きゃああぁぁぁ!!!」
「な、なんだ?」
「二人とも、見に行くぞ!」
光の速度で立ち直ったツバキが我先にと突っ込むと慌てて俺達も着いていった。
悲鳴の方へ向かうと、そこには蛸の怪物が無差別に観光客を襲っていた。
「な、なんだあれ!?」
「あぁ……!あれはこの海の怪物、クラーケンじゃぁ!!」
「あ、さっきの爺さん……いやそれよりクラーケンだって?」
「うわぁぁあ!!」
「助けてぇ!!」
「クラーケンは何十年も前に現れた蛸の魔物じゃ、数年前まで大人しくしておったから観光ビーチを復活できたというのに……また現れるとは……」
「言っている場合か!ガイゼン、私が観光客を奴から引き剥がす!君は魔法で仕留めてくれ!」
「わ、わかった!」
言うや否や突撃していったツバキに俺は慌てて魔術の構えをとる。
「はぁっ!」
盾も鎧も置いてきたがそれでもツバキ自慢の身体強化魔術は健在だった、渾身の体当たりはクラーケンを大きく揺さぶらせ観光客達を次々離していった。
「よしガイゼン、今がチャンスだ!」
「ツバキ!後ろ!」
「なっ!?」
アゼリアが叫ぶと同時にツバキはクラーケンの触手に捕らわれ宙に上げられてしまう。
「し、しまった!」
「クソッ、これじゃあ巻き添えになる……!」
俺は魔術を解かざるを得なかった、しかしこうしている間にもツバキはあの蛸に好き勝手されてしまう。
クラーケンはツバキのライフガードを剝ぎ取るとツバキの肢体を露わにする。
「「おぉっ……!」」
「おぉっじゃねぇよ!!」
助けられたにも関わらず歓声を上げる観光客(男)達に俺は威力の無い魔力弾をぶつけた。
しかし、どういう訳かツバキのライフガードを剝ぎ取ってから急にクラーケンは動きを止める。
「ガ、ガイゼン!私に構わずこいつを撃ってくれ!」
「だ、だけどそうなるとお前まで」
「というか早く撃ってくれ!このままだと全部剥ぎ取られかね」
言い終わる前にツバキは俺の方へ投げ飛ばし、俺はツバキ弾を真正面から喰らう嵌めになった。
「ぐえぇっ!?」
「うぐっ!」
「な、何?」
アゼリアが呆気に取られているとクラーケンは再び観光客達を狙い出した、しかし今度は男のみを。
「「「うわああぁぁ!!?」」」
「えっ何で!?」
いや何でじゃない俺、何言ってんだ俺。
「ハッ、まさか……!」
爺さんは何か気づいた様子でわなわなと震えていた。
「お、お爺さん……何かわかったのか!?」
「もしかしたら……あ奴はメスなのかもしれん……!」
「は?」
「見るんじゃあ奴の吸盤を!」
俺は思わずクラーケンの吸盤を見る、きっちりと整列していて規則性があった。
「メスの蛸は吸盤が小さく整然としておる、証拠に見るんじゃ!明らかに生き生きしておるじゃろあ奴!」
言われてみればツバキを捕まえた時より明らかにうねうねしている、気持ち悪っ。
そうこうしていると男達の水着をクラーケンは剥ぎ始めた、男達も必死に抵抗しているがこのままでは幾ら色欲の国と言えども法に抵触するのも時間の問題だ。
「ガイゼン、今度こそ助けるぞ!」
「あぁ、うん……そうだな……」
「なんでちょっとやる気を削がれているんだ!?」
だって……なぁ、冒険者である以上人助けもかくあるべしだと思うけど……ツバキ捕まった時歓声上げたような奴らだしなぁ……
俺がどうしようか悩んでいると、突然クラーケンの触手が次々と切断され始め観光客達が解放されていった。
「な、なんだ?」
俺だけでなくツバキ、アゼリアが困惑している内にクラーケンは完全に触手を断ち切られてしまう。
そして気づけば、クラーケンの傍に日傘をさしながら血の様に赤黒い剣を手に持った男が立っていた。
「……って、あれ?アルさんじゃないすか」
「やあガイゼン、奇遇だね?」
「あ、ハイ……アルさんはどうしてここに?」
「依頼を受けていたんだ、幾つかの魔物の巣の駆除だったんだけど案外早く終わってね。それで、君達はバカンスかい?」
「まあ、そんな所っすかねぇ……?」
俺は何とも言えない表情を作っていると突然クラーケンが苦しそうに何かを吐き出した。
「うわっ、なんだこれ……墨だらけだけど丸い玉……?」
俺は海で軽く玉を洗うと中からは綺麗な真珠が現れた。
「おぉ!そりゃプレゼントシェルの真珠じゃ!あ奴こんなもの呑み込んでおったのか」
「これが……?じゃあはい、アゼリア」
「あ……ありがとう」
俺はアゼリアに手渡すとアゼリアは礼を言いアルさんの下へ向かった。
「お兄様……これ」
「これを僕に?最高のプレゼントだ。ありがとうアゼリア、勿論君達もね」
アルさんは真珠を受け取るとアゼリアの手を取る。
「そろそろ日も暮れる、僕達は先に帰るとするよ」
そう言いアルさんとアゼリアは一足先にギルドに帰っていった。
「俺達も帰るか」
「私はもう少し泳ぎたいんだが……」
「俺はもう疲れたんだが……」
「お前さんら、まだいるつもりかのう?」
「あ、爺さん。俺はもう帰ろうかと」
「あのクラーケンの触手を使って料理でも作ろうと思ってのう、良かったらお主達もどうじゃ?」
俺とツバキは顔を見合わせると頷いた。
「「喜んで!」」
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数日後 ギルドあさかわ 酒場
ギルドマスターである浅川蓮司はアルカディオスと話していた。
「―――――という訳で……ん?」
「どうしたマスター?」
「アル、お前イヤリングなんて着けてたか?しかも片耳だけだし」
「ああ、妹からのプレゼントなんだ。似合うだろう?」
「互いに兄弟愛が強いねぇ、似合うぞ?」
「当然だ、僕の妹の選択なんでね」
「んじゃ、たまにはカクテルでも作ってくれよ。テーマは……夏だし海とかで」
「お任せあれ、マスター」




