ギルドに加入して一か月、思ってたのと違いました
地球とは違う法則で成り立つ異世界『アストラ』、この世界には魔術が存在し人々の生活を豊かにしてきた。
まあ所謂中世風ファンタジーの世界だ、世界の謎は多いしダンジョンもあるし魔王も……昔はいたらしい。
俺はそんなアストラに転生した男ガイゼン、姓は無い……この世界では非常に珍しい魔法使いだ。
トラックに轢かれて気づけば赤ん坊になり、あり得ないことだらけで理解が出来なかった、15年は経った今はもう大人になって仕事に就く歳になった、もう俺には驚く事など早々ないと思っていたのだ。……先月までは。
さて、この世界には冒険者がある。世界を開拓しダンジョンを探検し魔物を倒し報酬を得る……まさにファンタジーの代名詞。俺はそんな冒険者を纏め上げる組織である冒険者ギルドの一つである『あさかわ』へ入ったのだ。
あさかわは200年前からある歴史のあるギルドらしく、とても実力の高いギルドだと聞いていた。あさかわという語感に妙な覚えを感じていたが……俺はその時噂で聞いていた和風な国の刀国という場所、そこの出身というだけだと思っていた。
俺はもう慣れた動作で扉を潜る。あさかわの内部は一見してそこまで広くない、外部の人間からの依頼を登録する受付所とあさかわの冒険者になる為の冒険者登録所の二つだけ、俺は受付の女性に軽く挨拶をすると何もない壁を潜る。
あさかわのギルドメンバーになった人間にしか通れない扉だ、初めて見た時は魔力的な痕跡も無く科学技術だけで作られてると聞いた時しばらくこの世界がファンタジーではなくSFだと疑った。
「お、来たかガイゼン」
ギルドメンバーだけが入れる酒場に来た俺を最初に挨拶したのはギルドマスターの『浅川蓮司』、顔つきはそこそこキリっとした中年と言った感じでいつもビジネススーツを身に纏ってる。異世界に来てまでスーツを見る事になるとは思わなかったがそれ以上に驚いたのはこのギルドそのものだ。理由は単純で……
「お前も今日で一か月か、どうだ?ギルド生活は慣れたか?」
「ギルド生活は慣れたけど……やっぱり慣れないっすよ、ここにいる人達殆ど転生者なんて……」
そう、このギルドなんとギルドメンバーの9割が地球からの転生者なのだ。今日いるメンバーだけでも100人近くはいる、転生者は俺だけだと思っていただけにこの転生者の安売りには絶句した。
「それでマスター、今日はどうしたんすか?いつもは真ん中のテーブルで皆と飲んでるのに」
「あー……実はな、今日は珍しい事に依頼が少なくて殆ど捌けちまったんだ。残ってるのは……この依頼くらいだな」
マスターは一枚の依頼書を渡してくる、内容は迷子のペット探し。報酬も高く特徴も文字ではあるがしっかり書いている。
「この依頼、随分待遇がいいですけどなんで誰も受けないんすか?」
「まぁ……それは受けた方が早いかもな、もし受けるなら二人パーティを寄越すがどうする?」
「そりゃ受けますよ、なんか裏ありそうですけど選り好みしてもしょうがないっすし」
「そうか……じゃあ少し待ってな、暇そうな奴ら呼んでくるから」
そう言ってマスターは酒場から奥の扉へ行ってしまった。
……俺は未だギルド内ではこの酒場以外の場所に行ったことが無い、マスター曰く空間を捻じ曲げているから外より広いんだ、と聞いていたがそんな魔術は俺でも聞いたことが無い。
暫く待っていたら二人の男女がマスターの後ろからやって来た。
「って、ザザさんとツバキじゃないすか」
「うむ、拙者も丁度暇を持て余していたのでな。助太刀いたそう」
「なに、ギルドの先輩として協力しない訳にはいかないからな!」
二人とも初めてギルドに来た時俺に優しくしてくれた先輩だ。
ザザさんは燃える様な赤い角に淡く輝く黒い尻尾を持った竜人という種族、転生前は本物の侍だったようでアストラでも刀を持って敵を切り伏せてくれる頼もしい人だ。
ツバキ・フラウは9割転生者であるギルドの1割の方、つまりこの世界の出身らしい。マスター曰くご先祖様が転生者らしく彼女の一族はずっと冒険者として居てくれるのだとか。まだ戦う所を見ていないが鎧に身を包んで硬い盾となってくれるらしい。
「それじゃ後は任せるぞ、二人とも。なんかあったら連絡してくれ」
「任されよ」
「よろしくお願いするっす……まずは依頼主に会うんすよね」
「そうだ、私達は顔馴染みだが……改めて挨拶に行くとしよう。場所はラス王国だ」
ラス王国か、アストラの主要七大国の内の一つ、気性が荒い人物が多い事で有名な『憤怒の国』。以前行った事があるが道端でぶつかっただけで剣を抜かれた時はこの国の法律を確認しようと思った程だった。
「気が進まぬ顔だな、ガイゼン。ラスは気性こそ荒いが国としては平和な方だ、それにいざとなったら拙者が場を収めよう」
「それに依頼も何かあったら私達が守る!お前は後ろから得意の魔法を安心して放てばいい!」
「はは、ありがとうございます」
……ん?ペット探しでどうして魔法を放つ様な状況が生まれる?
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ラス王国 富裕層エリア
「あらぁ!あさかわギルドの方達ね、待ってたわ!」
依頼者の居る屋敷へ話に行くと絵に描いたようなマダムが俺達を待っていた。
「貴方達には何度も厄介ごとを解決して貰って助かってるわぁ!他のギルドだとこうはいかないもの!」
「それでマダム殿、拙者たちは把握しておりますが今回は新人を連れておるのです。彼の為に今一度依頼の説明をお願い致します」
「あらぁ、若い坊やね。あさかわの新人なら期待できるわぁ!」
「はは……」
屋敷中に響き渡るのではないかと思う程快活な声でマダムは依頼の説明をしてくれる。
「ウチのペットのケロちゃんが逃げちゃったのよ!いい子だから普段は人様に迷惑をかけないよう躾けているんだけど、お腹が空きすぎると乱暴しちゃうかもしれないからなるべく早く見つけて欲しいわぁ!」
「何か特徴とかはあるんすか?」
「普段の姿なら黒い毛並みにチャーミングな鼻をしてるからすぐにわかるわぁ!お腹が空いてる時はもっとわかるから大丈夫よぉ!」
「な、成程……?」
「あ、そうそう!武器が無い辺り魔術師か格闘家のどっちかみたいだけど、ケロちゃんには手加減しなくていいわよぉ。人様に迷惑かける前に止めちゃってねぇ!」
「は、はい。わかりましたっす?」
そうしてマダムに見送られ俺達は街を探すことになったのだが……
「あの、ザザさん。ペットに手加減をしなくていいってのはどういう事っすか?普通ああいうマダムってむしろケガさせたりしたら怒られそうっすけど……」
「ガイゼン、何故ただのペット探しがあそこまでの高額か不思議に思わなかったか?」
「それはまあ、富裕層っぽいですしペットの為に大金払ってでも取り返したいとかじゃ……」
ドスン、と話を遮るかのように小さな地響きが起こった。
「来たぞ、二人共私の後ろに下がれ」
ツバキが盾を展開するとザザさんは刀を抜き下段に構える、困惑しつつも俺も何時でも魔法を発動出来るよう構えると音の主は裏路地から現れた。
「GAAAAA!!!」
「で……でかぁっ!?」
体長は5mはあるだろうか、獰猛な牙に鉄すら容易く切り裂けそうな爪を持った浅黒い体毛の怪物が幾つかの壁を砕きながら目の前に現れた。
「ま、まさか手加減するなってのは……」
「ああ!あれがケロちゃんだ!ガイゼン、迷わず撃て!!」
「嘘だろぉ!?」
俺は叫びながらも魔法を発動する、俺の魔法は至極単純で魔術を発動する上で必須である詠唱を完全に破棄する事ができるというものだ。魔術を発動するための魔力とは別に破棄するための魔力も消費するがほぼノータイムで放てる且つ、強力な魔術のデメリットである隙の大きさを無視できるのは非常に強力だった。
「『壊炎』!!」
俺は業火の弾をケロちゃんに放つと避ける事も無くケロちゃんに直撃する、だがケロちゃんは立ち昇る粉塵の中から弾丸の様に飛び出し俺を噛み砕こうと飛び掛かった。
「うおぁっ!?」
「させるか!」
巨体からは想像も出来ない速度で襲い掛かったケロちゃんをツバキは盾で受け止め、鍔迫り合いの様な形に持ち込まれた。
「一度負けた相手の顔を忘れたか?私の力を甘く見るなよ!!」
魔力の流れから俺はツバキが身体強化の魔術を発動したのを察すると同時、ケロちゃんとツバキの一騎打ちはツバキが勝ったようでケロちゃんが地面を砕きながら横転する。
「ガイゼン!ケロちゃんは大きな衝撃に弱い、雷を撃つのだ!」
「う、うっす!」
俺は急いで立ち上がり構える、ケロちゃんが起き上がる直前にザザさんが走りケロちゃんの背に刀を突き刺すと俺に合図を送る。
「『雷帝』!」
音が鳴るよりも早く雷が俺の手から放たれ、ザザさんの刀を通してケロちゃんの体を衝撃が貫く。
「GAAAAAAAAA!!!」
鼓膜を破る勢いで咆哮を放ったケロちゃんはゆっくりと横たわり、魔力を放ちながらみるみる内に小さくなっていった。
「依頼完了だな!さあガイゼン、マダムに報告しに行こう!」
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マダム邸
「あらぁケロちゃん!早かったわねぇ!」
「今回は新人の活躍もあり迅速に鎮圧出来ました」
「あらぁ!やるじゃない新人さん!」
「あ、ありがとうございます。でもよかったんすか?その……結構傷付けちゃいましたけど」
「勿論良くは無いけれど……それで貴方達に無理させたらケロちゃんが余計暴れちゃうでしょう?もう三度目だから私も少し厳しくしないとねぇ!」
マダムは寛容な様でケージに入って肉を食べているケロちゃんを撫でる、俺はそこで気になる事を聞いた。
「所で良かったら聞きたいんすけど……どうやってペットにしたんすか?そのケロちゃん」
「良いわよぉ?私の妹が冒険者なんだけどねぇ、3年くらい前かしら……まだ赤ん坊だったこの子を拾って私に預けて来たのよぉ。最初は『魔物を育てるなんてとんでもない!』って思ったんだけど愛着って湧くものよねぇ!」
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あさかわギルド 酒場
「……はい、ではペット探しの依頼は完了です。お疲れ様でした」
「ありがとうございます、レインさん」
酒場での受付譲兼、副ギルドマスターのエルフのレインさんに礼を言うと報酬を受け取る。
俺はこのまま酒場で何か食べようと思うと、丁度酒を飲んでいるザザさんを見つけた。
「ザザさん、今日は助かりましたっす」
「ガイゼンか、ペット探しとは言え初の大型魔物との戦闘、どうであった」
「そうっすね……正直思ったより恐怖は感じなかったっす、勿論ツバキが助けてくれなかったら大怪我じゃ済まなかったかもしれないけど……それでも死ぬとは思わなかったっすね」
「そうか、ガイゼンは臆せず戦う事への才能があるのかもしれぬな」
「あー……ありがとうございます」
「とはいえそれは蛮勇にもなり得る、油断し格下に負けるような事が無いようにする事だ。それと、報酬はツバキと二人で分けていい、拙者は今回、ただついていっただけなのでな」
「そんな事はないっすけど……お言葉に甘えるっす」
礼をしてザザさんから離れると丁度奥の扉からツバキがやって来た。
「おお、ガイゼン!君は今回のケロちゃんが大型の魔物との初戦闘なんだろう、どうだった?」
「ツバキが守ってくれたからあまり怖くは無かったな、目の前まで来た時は少しビビったけど」
「仲間を守るのが私の役目だからな!私の父は槍を教えようとしていたがやはり私はこの盾で誰かを守るのが性に合っている、父には申し訳ないがこれでよかったと思っているんだ」
「そういえば……剣は持たないのか?」
ツバキは背中に装備しているのは盾だけで剣は持っていない、他のギルドメンバーから話だけは聞いていたが本当に盾だけだったとは。
「剣はダメだった、闇雲に剣を持つと敵を倒す事に意識を裂いてしまい仲間を守れない事があったんだ。それ以来、私は徹底して守る事にしたのだ。それにいざとなれば盾で吹き飛ばせばいい」
「凄いな……なんていうか」
俺はツバキに報酬を渡すと彼女と別れた、そうして一人で飯でも食べようと思い適当なテーブルに座るとマスターが隣に座ってきた。
「どうしたんすかマスター、俺これから飯のつもりなんすけど」
「なに、先にお前に伝えておきたい事があってな」
そう言ってマスターは俺に黒色のカードを渡した、その意味に俺は一つの答えを察する。
「おめでとう、今日よりガイゼンは5級から4級に昇格だ」
「おぉ……ありがとうございます」
「あんまり嬉しくないか?」
「いやいや嬉しいっすよ!?ただこう……どうリアクションすればいいのか」
「飛び跳ねりゃいいんだよ、なんなら酒でも飲めばいいさ!」
俺がギルドでのランクが上がった事を俺以上に喜ぶギルドメンバー達に、俺は苦笑いしながらいつの間にか置かれていた酒を口につけるのだった。




