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紅茶の君

テスト期間で投稿遅れました。

申し訳ございません。

「よく来てくれたな!」

「再び御前に侍る栄誉をお許しくださったこと、恐悦至極に・・・」

「構わぬ。 無理に呼びつけたのはこちらだ。 本当に気にせぬ。 元より、あまり畏まった態度を取られるのは好かぬのでな」


(それは、王太子としてはいかがなものかと)


 そうは思っても顔に出さないリリネルトは手振りで促されるままにゆっくりと顔を上げ、最敬礼を崩しながら立ち上がった。 標準装備の無表情を保ちつつアルベルトが上機嫌に話し続けたため静かに聴く。


「お前がセシリア嬢のために控えていた時に淹れた紅茶の味が忘れられなくてなぁ。 皇城のメイド達が淹れる紅茶が美味くない訳ではないんだが、お前のものと比較すると一段劣るのだ」

「ありがとう存じます」


 にこやかに褒められた直後に身振り手振りで紅茶を淹れるように促された。 いかにも高位貴族といった態度だが、これこそリリネルトが慣れ親しんだ対応であるため小動もしない。

 不敬にならないかと少し不安だが、命令と受け取って話し続けるアルベルトを横目にリリネルトは大人しく準備を始めた。


「紅茶だけでなく、添えられていた茶請けも驚くほどに美味かった。 あれは何処かの店で買えるものなのか?」

「いいえ。 あのお茶請けは、皇城のシェフが丹精込めて作った逸品でございます」

「ほう。 そのシェフは 何処かの工房出身なのか? ユーデリアは食も素晴らしいと聞き及んでいる。 そこの秘伝のレシピを使っているとか? 叶うものなら我が国に招きたい」


(これは・・・)


 純粋に美味しかったからなのか、それとも我が国の技術を取り込もうとしているのか微妙なラインだ。 前者ならおもてなしとしてお教えするべきだし、後者なら上手くはぐらかして陛下にご報告するべきである。


(どういたしましょう)


 この間、およそ一秒。 若いながら鍛え上げられた侍女スキルは思考速度まで加速させるのだ。


「・・・いいえ。 私の考えたレシピを形にして頂いたので、特別変わった手法などは使われていないかと。 シェフは陛下が直々に引き抜いてこられた方ですので、どうか陛下にお伝えください」


 最後の一滴、紅茶の中で最高の一滴をカップに収めた後、リリネルトは年季の入った無駄のない動きでアルベルトに淹れたての紅茶を差し出した。 あからさまに当たり障りのない返事をしたリリネルトに、しかし紅茶を嬉々として口に含むアルベルトは瞳を輝かせた。


「ほう! お前のレシピなのか! シェフは・・・まあ陛下にお願いしてみるとしよう。 それにしても製菓にまで精通しているとは、何処かで学んだのか? 実は侍女ではないとか?」

「いえ。 正真正銘セシリア・ユーデル公爵令嬢にお仕えするしがない筆頭侍女にございます。 紅茶は趣味が高じての物、お茶請けとそれに関する知識は紅茶をより美味しく召し上がって頂くためにはお茶請けの質も疎かにはできないと気がつき個人的に調べただけのものです」

「・・・凄まじいな。 紅茶も信じられないほど美味い。 先程も喉が渇いていたので皇城の侍女にお茶を入れてもらったのだが、ここまで美味くはなかった。 同じ茶葉を使っているとは思えない違いだ」


 リリネルトの逆鱗。 それは敬愛するお嬢様への忠義を疑われることである。 意図せずリリネルトの逆鱗を掠めたアルベルトだが、幸運にもリリネルトが隠した殺気には気が付かなかったらしい。 先程と比べても明らかに句読点の少ないリリネルトの流暢な早口も気にかけていない。 ・・・まあ紅茶を堪能しつつ呆れかえっているので、そちらが勝って気が付けなかったのかもしれないが。


「お褒めに与り光栄です。 紅茶にも一杯一杯特徴があります。 品種ごとの特徴を理解していれば、風味やうまみを互いに邪魔せず、最大限に引き立て合う組み合わせを考えるのはさほど難しい事ではありません。 その上、私はあくまで素材や調理法に関しての提案をしたのみで、ああまで素晴らしい形に仕上げてくださったのはシェフ達ですから」

「それにしたってなぁ」


 感心と、やはり呆れを滲ませたアルベルトにリリネルトは沈黙を返す。 リリネルトはそういったイキモノなのだと認識して頂きたい。


「・・・まあいいだろう。 私がお前に望むのは身の回りの世話ではない。 それは王国から連れて来た者に頼むつもりだ」

「畏まりました」

「皇帝陛下から、お前を貸し出せるのは学院に入学するまでの半年間だと聞いている。 よって、この半年間のお前の仕事は・・・」

「はい」

「仕事は・・・」

「はい」


(もったいぶらずに教えて頂けないでしょうか)


「半年間、私の食べる全てのものの管理をし、私が飲む全てのお茶を用意することだ! 紅茶の君よ」

「・・・はい・・・?」


リリネルトは鉄面皮です。

即答できなかったのは3年ぶりで、後で地味に落ち込みます。

ただ困惑している間も表情は冷静です。

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