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接点?

ここから侍女と王太子殿下の邂逅が現実的に・・・

(何故、こんなことになっているのでしょう・・・)


セシリアとアルベルトとの顔合わせが終わってから数日、セシリアが王太子殿下のお相手を滞りなく行えるように奔走していたリリネルトはセシリアがいないにも関わらず皇帝に謁見していた。


「面を上げよ」

「はっ」


膝を着き深々と頭を下げる最上級の礼のまま待機していたリリネルトが、後から優雅な動作で謁見の間に入ってきた皇帝の許しを得て顔を上げる。  侍女としては二回の呼びかけがないと顔を上げられないが、臣下としてなら一回で上げて良い。 紛らわしい。

無駄のない動作で晒された銀月の瞳に映るのは、何もかもが最上級の品で揃えられた絢爛豪華な謁見の間。 その最も高い位置にある玉座におわす、これまた大国の主に相応しい華やかかつ品の良い衣装に身を包んだ我がユーデリア皇国の皇帝陛下、ガスト・ロアス・ユーデリアその人である。


「よく来たな。 楽にせよ」

「勿体なきお言葉、身に余る光栄でござい・・・」

「よい。 今日は我のごく個人的な用事でもあるからな」

「・・・畏まりました」


ゆっくりと立ち上がって姿勢を正しつつリリネルトは返事をした。 個人的な用事なら執務室とかに呼び出して欲しいと思ったが、「個人的な用事で『も』ある」ということは何かしらお仕事を頂くのだろう。 恐らく件の王太子殿下について。

このように謁見する場合は失礼の無いようある程度は着飾らなければならないのだがそれもない。 リリネルトは今、突然王宮から訪れてきた使者に着の身着のまま馬車に放り込まれ、王室御用達の最高級馬車の素晴らしい乗り心地を堪能した後に侍女服のまま臣民としての礼を取っている。 もちろん侍女も臣民の一人だが、お世話をさせて頂くという点で侍女は特殊な立ち位置にあるのだ。 つまり、侍女服のままこんなことするのは絶対におかしい。


(陛下の身内贔屓は今に始まったことではありませんが・・・)


実はこのガスト皇帝陛下、セシリアの父である公爵と非常に仲が良いのである。“懐刀”とされるのだから懐に居ないとおかしいと言われればそれまでだが、同時期に生まれた、血縁のある、公爵家の、将来有望な側近候補。 これだけ揃えば次期皇帝の遊び相手に選ばれるのも納得だ。

そして父親同士に習ってセシリアも皇子や皇女の遊び相手として日常的に王宮に上がっていたし、それに随伴するリリネルトも当然のことながら皇子にも皇女にも皇帝夫妻にも謁見する機会が多かった。 よって、陛下から見れば、恐れ多くもリリネルトは“身内”の範疇なのである。


(だからと言って皇城で侍女に親し気にするのはどうかと思いますよ、陛下)


「まず退屈な仕事の話から済ませようか。 賢しいお主なら察しはついていると思うが、例の王太子のことだ」

「はい」

「お主、あの王太子に紅茶を振る舞ったらしいな」

「はい」


(やはりですか)


察しがついて遠い目になりかけるが、臣下としての矜持で無理やり意識を引き戻す。 皇城の侍女より上手いからと紅茶を淹れる役目を引き受けてしまったのがいけなかったのかもしれない。 しかし仕事の話であるのなら、小さい頃に培われてしまった「皇城にいるキラキラした人は気のいい親戚のおじさん」という認識はひっこめなければならない。


「それで王太子から要請があった。 皇城に滞在している間は、是非お主に給仕して欲しいそうだ」

「それは・・・」

「あぁ分かっている。 お主には甚だ不本意なことであろう。 だが此度の情勢において、両国の国交という面で王太子の留学を恙なく終了させることは必須事項である。 よって王の名において命ずる。 期間は明日より学院再開までの二週間。 王城に滞在し、王太子の身の回りの世話をせよ」

「謹んで承ります。 全てはユーデリアの太陽たる貴方様の御心のままに」


再び膝を着き、最上級の礼を取った。 皇帝陛下から直々のご命令である。 ユーデリアの民として、身命を賭して職務を全うしなければなるまい。 ・・・例え、どれだけ不満でも。


「・・・とまあ、そんなに拗ねるな。 リリ」

「・・・酷いではないですか、おじ様」

「仕方なかろう! 無理難題でもないのに客人かつ王太子の要望を突っぱねるわけにもいくまい! だからそんな目で見ないでくれ心にクル・・・」

「・・・私が、どれだけの気持ちでお嬢様にお仕えしているかご存知の癖に」

「ご存知だが! ご存知なんだがお前にしかできぬ事であろう? 恨むなら自分の有能さを恨むが良い」

「むう・・・」


臣下モードで無表情なリリネルトからも何かしら感じるものがあったのか、「皇城にいるキラキラした気のいい親戚のおじさん」モードになった陛下が、もとい身内贔屓のガストおじ様が苦笑を伴って話しかけてくる。 堅苦しい仕事の話はこれでお終いという事なのだろうが、毎度のことながら本当に凄いギャップである。 一面しかない単純な人間に大国の賢王など務まらないという事なのだろう。


「勅命は勅命ですから、全身全霊でお世話させて頂きます。 頂きますが、シリーから怒られるのはおじ様の役目ですからね」

「うっ・・・」

「上手い事言い含められる事を祈っております」

「最近のセシリアは本当に弁が立つのだ・・・ それこそ我でも言い負けそうになるほどに・・・」

「お嬢様ですから」

「今から胃が痛い・・・」

「薬師たちに胃薬の用意をしておくよう申し付けておきます」

「すまぬな・・・」


 とまあ、半分くらいの冗談はさておき、王太子殿下のお世話をするのならそれなりの準備が必要だ。 まさか来訪前の備えが本当に役立つ時が来るとは。


(備えあらば憂なし、ですね)


 一気に忙しくなったスケジュールを頭で確認しながら、リリネルトは退出の許しを得ようと口を開いた。


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