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中庭の月

発展編です。

プロローグなので短いです。

 この世には「勇者」と呼ばれる者が一定数存在している。

 それは決しておとぎ話の中の住人ではなく、彼ら彼女らは生けとし生ける生命全てを救った紛うことなき英雄だ。


 「勇ある者」と称される彼らに恐怖はなかったのだろうか。 迷いはなかったのだろうか。 神に愛されたその魂で、間違えることなく最善の道を切り拓いてきたのだろうか。


 何故、同じ人間であるファルネルトに勇気は存在しなかったのだろうか。

 何故、こんなにも臆病なのだろうか。


 何故

 何故だろう。


 何故こんなにも、貴女に。


  ※             ※


「相変わらず綺麗です」


 月夜、奥まった中庭のベンチに腰掛けて望月を見上げる。 絢爛豪華ではないが可愛らしく咲き誇る花々に埋もれるようにしてあるその場所で、一人の少女が佇んでいた。

 強過ぎない花々の香り。 月光を含んだ夜露が中庭全体に仄かな煌めきを投げかける。

 それは少女も、リリネルトも例外ではない。


 夜空色の髪が月光を受けて明るさを増す。

 空と月を内包した少女は、花に抱かれた夜そのものだった。


「・・・」


 恐れ多くも月に親近感を抱いて夜毎密やかな花園に出向いては月を見上げる彼女は美しい。 ともすれば神話に登場する月神に仕える巫女なのではないかと思わされるほどに。

 己の銀月に黄金の月をいっぱいに映して佇むリリネルトの髪を夜風が揺らす。


 さらり、さらりと靡いた後、その場を満たしていた静寂を―――破る者が。


「こんばんは」

「・・・」

「月の綺麗な夜ですね」


 冷ややかに細められていたリリネルトの銀月が満月に戻った。 音もたてず、呼吸を殺して、気配すらも消して至近距離まで接近してきたその人物にリリネルトはあえて手を伸ばす。


「久しぶりね」


 リリネルトの白い手がその人物の頬に触れた。 包み込むように、撫でるように、彼女の貴族らしからぬ働き者の手がその者の頬を掠める。

 秘密の花園で、2人の影が重なり合った。


皆さんは覚えてらっしゃるでしょうか。

完結した側近の憂鬱編とこれから始まる中庭の月編、どちらも壮大な回想の途中だという事を・・・!

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