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側近の憂鬱・4

お話の区切り的に短めです。

引き続きファルネルト視点です!

「おはようございます」


 軽くノックをすると、思いのほか早く返事がある、しかも部屋から出てきた。 しっかりと侍女服を身に付け、髪も、几帳面なほど綺麗にまとめてある。 夜の帳色の髪を唯一飾るリボンは、今日は銀色だ。

 それにしても真面目なのか何なのか。 まだ眠っていることは無いにしても、身支度の時間まで考慮した時間に来たのに。


(困りました。 平均的な女性の身支度とは1時間以上は掛かると見積もってしまった)


 さらにそこから余裕をもって1時間半前に来てしまったのだから目も当てられない。 まさか準備万端の状態で待ち構えているとは。

 何とかして間を持たせようと取り敢えず腕を差し出すと、やんわりと首を振られてしまった。


「フール様、エスコートなどはお気になさらないでください。 私は確かに貴族令嬢で他国からやって来た客人の部類なのかもしれませんが、侍女です。 職務中は、どうか侍女として扱ってくださいませ」

「・・・畏まりました。 カロナル嬢がそう仰るのなら」

「我が儘を聞き入れて下さるフール様の寛大さに感謝申し上げます」

「いいえ、こちらこそ失礼致しました」

「何が、でしょう」

「貴女の仕事の矜持を、踏みにじるような真似を」

「そんな」


 ファルネルトは、一瞬でも


(自分のエスコートを断るご令嬢がいるとは。 珍しい事もあるものだ)


 と考えた自分を恥じた。

 彼女は不本意ながら連れてこられた場所であろうと早起きし、いつでも対応できる準備を整え、己が職務を全うしようとしていたというのに。

 予定が詰まっているアルベルトの朝は早い。 身動きが取りづらくなる学園入学前に社交を済ませてしまわなければならないからだ。

 そんなアルベルトが起きる、更に1時間半前。 まだ早朝どころか明け方と言っていい時間。 だと言うのに支度は完璧に終わっているなんて、一体いつから起きていたというのか。


 内心で悔い改めると、ムクムクと尊敬の念と興味が湧いてくる。


「・・・カロナル嬢は、もうご朝食は済まされましたか?」

「いいえ、まだですが」

「実を言うと私もなのです。 ご一緒しませんか」

「光栄です。 是非とも」


 直ぐに回答してくれたと言っても、ファルネルトと同じ無表情からその真意を読み取ることは出来なさそうだ。

 でも、素直に嬉しい。


(お近づきになりたいものです)


 この心根と志まで美しい人と親しくなりたい。 有力貴族へのコネになりそうだとか、情報源になりそうだとか言った下心が全くないと言えば噓になる。

 けれど、純粋に「友人になりたい」と思ったのは、本当に久々で。


「こちらの食堂の料理は本当に美味しいですね」

「えぇ本当に。 城下町で羨まれるほどなのです。 陛下のお気遣いで、召使い用の食堂にも一流のシェフを派遣してくださっているので」

「そうなのですか、どうりで美味しいと。 昨日のアルベルト殿下ではありませんが、ユーデリア皇国の食事はどれも美味です。 それに加えてフェルート王国の食事まで用意してくださって」

「はい。 フェルート王国とユーデリア皇国のどちらの召使いにも安らいで欲しいと」

「皇帝陛下のお慈悲のおかげで、故郷の味を恋しがらずに済みます」

「まあ。 それにしても、フェルート王国とユーデリア皇国の料理はかなり異なっていますよね。 隣り合っているのに・・・」


 お互いが社交で鍛えられた会話スキルを保持していることも理由の一つだろうが、会話は途切れなかった。 リリネルトが興味深いことを教えてくれたり、ファルネルトがフェルート王国のことを教えたり。 気が付けば会話を“保たせる”のではなく、会話を“楽しんで”いた。

 時を惜しみながら一緒に食べた朝食は、いつもよりも美味しい気がした。

勘のいいひとは、そうでなくても何となく行き先は分かると思いますが、まあファルネルト君の葛藤をお楽しみいただける幸いです

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