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側近の憂鬱・3

思ったよりも続いてしまったので、前中後だけでは収まらなくなってしまいました・・・

変更します、見通しが甘くてすみません//

「こちらです」

「ありがとうございます」


 困惑していた彼女は、それでもすぐに復活したらしく了承して―――立場から察するに是という以外の返事など彼女は持っていないのだろうが―――礼をした。 アルベルトはファルネルトに彼女の案内を言いつけると、今日はもう休んでいいと言った。 ・・・まだ昼前なのだが。

 伏し目がちに半歩後ろを付いてくる彼女はやはり美しい。 夜の帳色の髪と白銀の瞳。 肌も白いし、姿勢も所作も良い。


「・・・カロナル嬢、で宜しいでしょうか」

「はい、どうかお好きなようにお呼びください。 リーフ伯」


 抑揚は薄いが、空気にやんわりと滲むような声だった。


(落ち着く方です、私の妻の座を狙うご令嬢方とは違う・・・)


 ふわりと紅茶の匂いが薫る。


「カロナル嬢には今後、こちらの部屋で待機して頂きます。 本来ならば夜勤の侍従・侍女が主に使っている部屋なので、寛ぐことも出来るかと」


「カロナル嬢お一人で使って頂けるよう手配致しました。 アルベルト殿下が紅茶やお茶請けをを所望されない場合は何をなさっていても構いません。 移動は制限せざるを得ないのは申し訳ありませんが・・・ 何か暇を潰すためのものをご所望でしたら、誰にでも何時なりとお伝えを。 可能な限りご用意させていただきます」


「お分かりかと存じますが、アルベルト殿下のお目覚めからお休み、接待なさる際の紅茶も全てご用意して頂くことになりますから、勤務時間は長くなってしまいます。 ・・・あぁ、勿論その分のお給金はこちらから上乗せしてお支払いするのでご安心を。 待機なさっている間も貴女のお時間を拘束していることには変わりありませんので、どうかお気になさらないで下さい」


「10分間ほど歩くと完全な自室もご用意がありますが、アルベルト殿下の命に従うとなるとそちらを常時使用するのは少し難しいかも知れません。 食事は何処でなさっても構いませんが、食堂などに赴く時間が取れないと判断された場合はこちらまで運ばせます」


「休日をご用意できないお詫びですから、どうか呼び立てられない間はご自由に、伸び伸びと過ごしていただきたいと言うのが殿下のご希望です」


 ユーデリア皇国から与えられた、フェルート王国使節団のスペース。 そこを一通り案内してから、待機してもらう予定の夜勤の侍従・侍女用の部屋の前でまた止まる。 中まで案内しながら思う。 相槌が心地よくて、やんわりと挟まれる質問が嫌じゃなくて、予定よりも時間が掛かってしまった。


「・・・何か、他にも質問は御座いますか?」

「いいえ、ご丁寧にありがとうございました」


 色目を使うことも無ければ、キツイ香水のにおいを漂わせながら媚びを売りつつ擦り寄って来ることも無い。 口ぶりや会話からも聡明さが伺えて不快感の欠片も無かった。


 だが、それだけだ。


「カロナル嬢は、明日から仕えて頂きますので、今日はゆっくりとお過ごしください。 お出かけの際は部屋の枕元にあるベルを鳴らしてください。 お付きのものが参ります。 荷解きに人手がご入用の際も同様にお願い致します」

「畏まりました」

「では」

「はい」


 律儀に出口まで見送りに来てくれた彼女にあっさりと背を向けると、ファルネルトはさっさと部屋に戻った。

 部屋に一旦荷物を置いてから、またアルベルトの待つ執務室に戻る。


「只今戻りました」

「ファルネルトか、良い所に」

「はい?」

「今なぁ、丁度カロナル嬢の詳細な調査結果が届いた所なんだ」

「随分と時間が掛かりましたね」

「ま、読めば分かる」


 ばさ、と分厚い報告書を投げ渡されるままにソファーに座る。 アルベルトが大人しく今後のスケジュール確認に入ったことをしっかり見届けてから向き直った。


  *           *


リリネルト・カロナル

19歳

ユーデリア皇国カロナル子爵家の長女

ユーデリア皇国内でも屈指の権勢を誇るユーデル公爵家に代々仕える歴史深い家柄

薬草と製糸、それに伴う編み物系の、特にレース製品の商品の輸出が盛ん

ユーデル公爵家令嬢セシリア・ユーデルに絶対の忠誠を誓っている

セシリア・ユーデルと揃って理想的な主従と名高い


美しいが控え目な様子が好ましい

一部の、対象の魅力に気が付いた者らから「銀月の君」と呼ばれている。

※なお、対象に関する情報は当たり障りのないものばかりで、突っ込んだ情報を見つけるのは困難であった

 引き続き調査を継続する


  *           *


 要約すると、大体そんなことを言っていた。


(年上だったのか・・・)


 と言っても一つだが。

 ファルネルトとアルベルトは18歳―――因みにユーデリア皇国の皇太子は17歳、セシリア嬢は16歳―――、今年で成人する。


(それにしても、貴族令嬢か。 そうだろうとは思っていたが厄介な)


 王侯貴族の世話をする召使いともなれば身元の怪しい者を仕えさせるわけにもいかない。 何処の手の間者か分かったものではないからだ。 そこで活躍するのが低位貴族の2男3男、ないしご令嬢達と言う訳である。

 遠縁の者から選べば不安もないし、ご令嬢達にとっては花嫁修業にもなる。 さらに何より、高位貴族に仕えていた経験があるという事は一種のステータスに成り得るのだ。 だからこそ、低位貴族の令嬢達は破れば手痛い代償を伴う制約魔法まで交わして身分は違えど分類は同じ貴族令嬢に仕え、そして嫁いでいく。


 けれど、稀に定着し残る者もいる。


 そう例えば、妖精のような主に気に入られてしまったり、焦がれるように忠誠を誓ってしまった銀月のように。


(尚更、下手な扱いは出来なくなってしまった)


 子爵というのは確かに低位貴族に分類されるが、カロナル家ほど歴史深ければ話は別である。 低い身分でありながら家を長く存続させるというのは確かな手腕が必要とされる御業だ。 爵位という上っ面だけを見て嘲る頭の足りない愚者以外はみな敬意を払う。

 つまり、カロナル嬢への接し方を間違えれば、あるいは使い捨ての侍女として酷使したり、それを知らされでもしたら国際問題になるという事である。 そんなことをするつもりはもとより毛頭ないが。


(賓客に、世話を焼いてもらう・・・?)


 新たな、しかも大量の仕事が含み笑いでにじり寄って来る様を幻視したファルネルト。


 大きな、大きなため息で気持ちを切り替える。


(しかし、殿下の優秀な隠密がこれだけ手こずるというのが気になる。 今までにここまで時間が掛かったことはなかった。 流石はフェルート王国と並び立つ大国の、筆頭公爵家筆頭侍女と言う訳だ。 ・・・気になる点はいくつかあるが、侍女一人の為にかかずらっている暇はない、か)


 色々と言いたいことはあるが、引き続き行われる調査に期待することにして、ファルネルトは明日以降の接待予定をアルベルトと確認するのだった。

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