鉄面皮侍女を無表情決壊気味の未来の宰相閣下が攻略するまで
【タイトル、仰られましても(二重敬語)→仰いましても】「汝、病める時も健やかなるときも、新婦を愛し、王国を守ることを誓いますか?」
「誓う。 アルベルト・リン・フェルートの名に懸けて」
「汝、喜べる時も悲しめる時も新郎を愛し、国母たり続けることを誓いますか?」
「誓います。 セシリア・ユーデル・フェルートの名に懸けて」
「宜しい。 誓いはなされた! この魂の同伴者らに、聖なる加護あれ!」
大司教の錫杖から煌めく光が打ちあがり、大聖堂の天井のステンドグラスに弾けて輝いては新しく夫婦となった二人の頭上に降り注ぐ。
突然風の大精霊の祝福まで加わって驚く二人。 幸せそうに微笑む二人。
誰しもが祝福する。 隣国から嫁いできたにも関わらず心優しく美しい花嫁と、名君たる未来を約束されたかのように優秀で、民草を思ってくださる王太子である新郎を。 民衆も、貴族も、神や精霊でさえも。
そう、この物語は、ままならない立場に生まれた両人が出会い、困難を乗り越えて、今日という日に幸せになるまでの話・・・
ではなく。
「お嬢様・・・ ようございました・・・ 本当に・・・ 本当に・・・」
「珍しいですね。 侍女服のままあなたが取り乱すなんて」
「・・・このようなめでたい日に、平静でなんていられませんよ。 色々と、ありましたからね」
「・・・そうですね」
新郎新婦の立つ祭壇の横、大聖堂の隅。 藍色の侍女服に身を包み、幸福な嗚咽を堪えながら壇上の花嫁を見つめる、彼女のお話だ。
これは、ともすれば壇上の花嫁よりも数奇な人生を生きた彼女の、奮闘の記録である。