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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
第一章 アルフレッド編
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次男と同僚

 フィーナが屋敷のメイドの仕事に就いてから早三ヶ月が経った。

 特筆すべき事は無くとも、慌ただしくもあり淡々とした平な日々が続いている。そんなある日の早朝

「フィーナ、貴女には今度から日勤の業務を務めて頂きます」

 一日の料理の下準備をしているフィーナにメイド長のアニタが声を掛けてきた。

 聞けば、近々日勤のメイドが一人辞めてしまうらしい。

 その原因はジェシカ奥の苛めらしいのだが、原因は今となっては追求してもどうしようもない。

 そして、人員募集も掛けたらしいのだが、今度も応募してきたのは亜人の娘らしく、いきなり日勤で使うのはリスクがある……と、いう事らしい。

「そこで、貴女には新人教育を行って頂きます」

 すると、アニタの後ろから彼女と同じビクトリア朝のメイド服に身を包んだ猫耳の少女が現れた。

「こちらはエルフのフィーナさん。貴方のお仕事は彼女から教わりなさい」

 アニタがフィーナの紹介を済ませると猫族の少女は

「私、猫族のミレットと言います! 頑張りますのでよろしくお願いします……ニャ」

「こちらこそ、フィーナです。よろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げるミレットにフィーナも頭を下げる。それを見たアニタは

「それじゃ、頼みましたよ」

 フィーナにミレットを任せて自分の仕事に戻っていった。

「うむぅ……」

 仕事を教えろと言われても、朝にやるべき料理の下準備はすでに終わってしまった。

 こうなると、今やっておくべき仕事は無い。やる事が無いのに付き従わせても意味はない。

「あ、あの朝の作業は終わってしまいましたのでここで夜まで休憩になります。早速ですが夜まで休みますよ」

「はい! フィーナ先輩!……ニャ」

 ミレットには夜勤に備えて日中は休んでもらい、夜から本格的に働いて貰う事にするのだった。



 その日の夜……二人で屋敷内共用部の掃除をしている時だった。

「フィーナ先輩! これどうすればいいですか?……ニャ」

 一事が万事全てこの調子である。彼女が語尾にニャをつけるとアニタが渋い顔をしていたのを思い出す。

 何でも、オーウェン家に仕えるメイドとして語尾のニャは控える様にとアニタから言われてはいるらしい。

「すみません。どうしても癖が抜けなくて……ニャ」

 フィーナとしては、彼女の口調にどうこう言うつもりはない。が、ミレットがこの屋敷で長く働きたいというのなら、やはり改善は必要だろう。

 女神の力で変えてしまうのは簡単だが、本人に直す意思があるのなら、それを尊重するべきだ。

 何でもかんでも手助けすれば良いというものではない。

 幸いな事にミレットは仕事の飲み込み自体は早い様だ。

 分からない事があれば聞いてくるし、失敗してもきちんと報告してくれる。

「それにしてもフィーナ先輩だけ服装違うんですね。なにか深い理由が……ニャ?」

 そこは突っ込まないで欲しい所である。勤務初日にアニタに着替えさせられそうにはなった事があった。

しかし、どういう訳かアニタの方から途中でフィーナの着替えを止めてしまったのだ。

 もちろんフィーナ自身の意志で着替えようとした事も何度かあった。

 だが、レアのプロテクトの影響かどうしても着替える事が出来ないのだ。

 寝間着などへの着替えは簡単に出来るのだが……。

「あ、あはは……、ちょっと事情があって……」

 頭を掻きながら、フィーナはミレットの疑問に答える。

 もっともなんの答えにもなってはいないのだが。これ以上は突っ込まないでいて欲しい所である。

(…………)

 そういえば、レアからの連絡がここ最近全く無い。とは言え、あまり頻繁に呼びかけて手を煩わせるのも申し訳ない。

 彼女もまた多数の異世界を掛け持ちしている女神なのだ。自分に付きっきりにさせる訳にもいかない。

 もっとも、連絡が無いと言う事は、現状維持で問題は無いという事なのだろう。

「おい悪魔! 今日こそお前に勝ってやる! 覚悟は良いか!」

 掃除をしているフィーナ達の元にやってきたのはオーウェン家次男のアルヴィンである。

 初対面の晩の一件以来、毎晩かかさずフィーナの前に出てくる様になっていた。

 彼なりに何か考えがあるのか、木剣を手にやる気は十分である。

「あの……フィーナ先輩? これはなんなんです……ニャ?」

 事態が飲み込めてないミレットは首を傾げるばかりである。

「アルヴィン坊ちゃまのお戯れに、お付き合いさせて頂かせているだけですよ」

 そう言うと、フィーナはいつも通り悪魔羽と尻尾を生やす。そしてどこからか取り出した木剣を構える。

 こうしてアルヴィンに剣の稽古をつけるのが最近の日課となっていた。

 やはり人の成長を見るのは良いものだ。与えられる特技ではなく自ら勝ち取る技能。

 それを得るために費やした時間や経験は必ずや本人にとって宝となる。

 これからの彼の人生において、必ずや糧となるだろう。現にアルヴィンの剣は日増しに鋭くなっているのだ。

 彼は何度も剣を打ち込んでくる。弾かれようとも受け流されようとも、何度も何度も……

「滅びろ! デーモン!」


ーピュン!ー


 アルヴィンは渾身の力で突きを放って来た。体勢が崩れるのも厭わない程の一撃を。


ーカーン!ー


 フィーナがその突きを受け流すと、アルヴィンは勢い余ってそのまま転びそうになってしまう。

「うわぁぁぁっ!」


ーガシッ!ー


 彼は咄嗟に何かに掴まろうとし、何かを掴んだものの身体は支えられずそのまま床に倒れてしまった。

「いてててて……」

 倒れたアルヴィンは自分が何かの布を摑んでいるのに気付く。

「何だこれ?」

 彼が上を見上げると……そこには、スカートをずり降ろされたフィーナが立っていた。

「や……あ……」

 彼女は顔を真っ赤にしてプルプル震えている。彼女は反射的にその場にしゃがみ込んでしまった。

「悪魔なのに白……」


ーバシィッ!ー


 アルヴィンが途中まで言いかけたところでフィーナのビンタが飛んできた。

 手加減こそしているが、子供だからと容赦はしない。

「いってぇ〜! わざとじゃねぇ……」


ーバジィッ!ー


 アルヴィンが何か言おうとするたび、無慈悲なビンタが飛んでくる。

 言い訳など許さない、ただただ犯した罪を償えと言わんばかりだ。

「あの……先輩? もうその辺で……ニャ」

 たまらずミレットもフィーナを宥めようとしてきた。アルヴィンの頬はフィーナとは別の理由で両頬とも真っ赤になり膨れ上がってしまっている。

「ごめんなさいは?」

 フィーナはしゃがむと目線の高さをアルヴィンに合わせた。

 両手で彼の頬を挟むと、真っ直ぐ彼の目を見ながら謝罪の弁を述べさせようとする。

「ご、ごめん……なさい……」

 アルヴィンは意外にも素直に謝った。その言葉に、フィーナはこっそり両手でヒールを使いアルヴィンの両頬の腫れを引かせていく。

「……良く出来ました。わかって貰えれば良いんです」

 彼の頬を治すと彼女は立ち上がる。ずり下ろされたスカートもちゃんと整え直して。

 アルヴィンも頬を摩りながらフィーナの方を見る。

「なぁ、アンタ悪魔なんだろ? 悪魔だったら……俺と契約してくれよ」

 アルヴィンからの唐突なお願いである。フィーナも悪魔の存在は知っているが、契約とかの話は完全に門外漢である。

「少年、話だけは聞いてやろう」

 今更ながら、悪魔のキャラ付けを思い出すフィーナ。そ

 れにしても、この期に及んでまだ彼女の事を悪魔だと信じているアルヴィンの純粋さには驚かされる。

 隣のミレットの事をどう思ってるのかが気になるところではあるが。

「俺、もうすぐ王都の軍学校に行くんだ。だから……俺がいない間、弟を助けてやってくれ!」

 どうやらアルヴィンと弟アルフレッドの兄弟仲は何も問題は無さそうだ。

 自身が親元を離れる不安より、残される弟の心配をする位である。

 それほどまでにジェシカ奥が危険人物だというのだろうか。

「分かった。暇つぶし程度には見ておいてやろう。だが、契約など要らぬ」

 あまり悪魔の仕事内容について話を広げられても困る。ボロが出る前に畳んでおくに越したことは無い。

「なら約束だ! ちゃんと約束したからな! 絶対だからな!」

 そう言うと、アルヴィンは自室へと戻っていった。彼の姿が見えなくなったところで悪魔羽と尻尾をしまうフィーナ。

 その様子をミレットが見て何か言いたそうにしている。

「先輩? あの子とのやり取りも仕事の内なんですか? 私、悪魔の羽生やしたりとか出来ないんですけど。……ニャ」

「へ?」

 まさか、今のが仕事だと思われていたとは考えてなかった。

 広義で言えば女神としての仕事の一環と言えなくもないが、少なくともメイドがやる仕事ではない。

「い、今のはアルヴィン坊ちゃまと私の個人的な遊びといいますか……とにかく、済んだ話なので今のは気にしないで下さい」

 アルヴィンの乱入さえなければ、今はのんびり掃除をしている時間だった。

 二人は元の予定通り、月明かりが差し込む屋敷の中の掃除をこなしていくのだった。

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