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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
第一章 アルフレッド編
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王子、襲来

 フィーナガチ勢であるオッサン共を感情のままにぶちのめしたエルフィーネだったが、結果的にオッサン共に列に並ばせる口実を与えただけという笑えない結果で終わった。そんな時

「休憩、ありがとうございました〜!」

 いつになく上機嫌なフィーナの声が聞こえてきた。

 エルフィーネはすぐさま裏庭に行くと、フィーナとバトンタッチ、店内の人列の処理を丸投げして退散していく。

「あ、後はよろしく〜!」

 エルフィーネの顔が少し引きつっている気がしたが気のせいだろうか?

 実際、多少なりとも人が減っているだろうと少なからず期待していたフィーナだったのだが

「うえ……」

 帰ってきてみればあきらかに治療が必要なオッサンが増えている。

 休憩前は無傷だったはずが、順番が回ってきたら追い返す予定だった面子も少なくない。

 フィーナはとりあえず列の先頭から治療を始める。

「それでは後で教会でお祈りしてきて下さいね。それでは次の方〜」

 クリームソーダの効果がかなりのものだったのかフィーナは相変わらず上機嫌でニッコニコである。そんな時順番が回ってきたのが

「すすす、すみません、顔が痛くて……に偽物が暴力を……」

 どもりながら挙動不審で話すのはオッサンBであった。エルフィーネとのやり取りを何も知らないフィーナはにこやかに

「酷い打ち身ですね。顔から転んだんですか?気をつけなくちゃダメですよ?」


ーパアアァァー


 オッサンBの顔に優しく手を触れヒールを掛けていく。まるで女神の様な慈愛に満ちたフィーナの表情におっさんBが耐えられるはずもなく

(やっぱり聖女様は俺の事が好きなんだ……! 俺の運命の女性だ!)

 とあらぬ勘違いを生み出す結果となってしまった。

 これはオッサンBに限った話ではなく、エルフィーネがふっとばしたオッサン共は漏れなく同じ反応となってしまった。

 そんな彼らはまた後日列に並んでいくのだが、怪我をしていなければ当然追い返されるので、単なる列のカサ増し要員としかならなかった。

 そんなこんなでフィーナが人々の治療を進めていると

「道を開けよ! 馬車が通るぞ!」


ーガラガラガラ!ー


 店の外から馬車の音と馬の蹄の音、少なくない人数の歩く音が聞こえてきた。

「きゃー、見て!」

「こんなところで見られるなんて夢かしら〜!」

 程なくして女の子達の黄色い歓声も上がってきた。そんな折、突如店の扉が勢いよく開けられた。


ーバアァァァン! カラン……カラン……ー


「第一王子であるジークハルト様の視察である!」

 小隊長らしきベテラン風の兵士が店内に入ってきた。

 続いて入ってきたのが白い儀礼用の軍服にワインレッドのマントを羽織ったジークハルト王子だった。

 サラサラの金髪を靡かせながら店外の女の子達に手を振り応えている。

「きゃ〜! 王子様よ〜!」

「王子様〜! こっち向いて〜!」

 店内も状況はさほど変わらずアンを始め年頃の女の子は皆、王子に黄色い声援を送っている。

 こうして見ると王子はフィーナが元居た世界のアイドルやトップ俳優なんかとさほど変わりが無い様に見える。

 フィーナがそんな事を考えていると、王子が兵士を従えてフィーナの元にやってくるのが見えた。

(え〜と、逃げ道は……)

 前回の初めての接触の件から考えて思わず裏口へ避難しようかと裏口への進路を確認するが……

 王子の通り道を人々が開けたため、裏口への隙間は人々によって埋まってしまっていた。

(あ、あわわわ……)

 アワアワと慌てるフィーナの元に王子は自信たっぷりに近付いていく。そして

「ごきげんよう、聖女フィーナ様。貴女の事は妹やグレースから聞きました」

 ジークハルトはフィーナの三歩手前で止まり王族らしく恭しい礼と共に頭を下げる。

 そして再びフィーナを見据えると躊躇なく距離を詰めてくる。

「やはり貴女は運命の女性だ。昔から王子の前には女神の様な女性が現れると聞いています」

 グイグイと距離を詰めてくるジークハルト王子にはフィーナもタジタジである。

「そして二人は結ばれるとも……。僕達もその昔話に倣うべきではないでしょうか?」

 彼が言う昔話とは、恐らく過去の勇者の時代のシトリーの事だろう。

 彼女は時の王子と恋に落ちたらしいが……とんだ前例を作ってくれたものである。

 天界の女神でありながらしっかり後世の歴史にまで悪影響を残してしまっているではないか。

 この時のフィーナには知る由も無いが王女プリシアの特別な力はシトリーの子孫故の能力である。

 代々受け継がれている能力のお陰で王国が救われた事も少なくは無かったのだが、今のフィーナにはそんな事は関係無い。

 グイグイ迫ってくる王子から逃げた結果、フィーナはいつの間にか壁際に追い詰められてしまっていた。

 女将さんやアンに助けを求めて視線を送ってみるが、女将さんは腕を組んでうんうん頷いているしアンに至っては王子に見惚れているのか頬を赤くしてぼーっとしているのみである。

 誰も助けてくれなさそうや絶望的な状況にフィーナはどうする事も出来なかった。


ードン!ー


 王子は壁に手を付きフィーナに迫る。フィーナの顎に手を添え自分の方に顔を向けさせる。

(あわわわわ……)

 時間の経過とともにフィーナは追い詰められていく。もうジークハルトの顔面は目前に迫っている。逃げ場は無く時間も無い。そんなフィーナが取れる方法は

(ご、ごめんなさい!)


ーシュフィン!ー


「へ? なに?」

 60/1フレームにも満たないほんの一瞬の間にフィーナは神力でエルフィーネと自分の位置を取り替えたのだ。周りからは何が変わったのかもほとんど分からないはずである。

 もっともエルフィーネは物置の二階でだらけていたのでメイド服は着崩していたのだが……

(何これ? 夢……?)

 いきなり目の前にイケメンが現れたエルフィーネも事態が飲み込めていなかった。そして行われる王子との熱い口付け……。

 二人は幸せなキスをして終了となるはずも無く……

「なにすんじゃゴルァ!」


ーグキリッ!ー


 エルフィーネは王子の顔面を掴むと力任せに回転させた。

「な、なんだこれは……?」

 首がフクロウの様に180度程回転した王子はフラフラとよろめいたところを近くの兵士に抱き抱えられ事無きを得た。

「フ、フフフ。面白いじゃないか。僕の思い通りにならない女の子なんて初めてだよ」

 そう言いながら、王子は変な角度まで曲がった自身の頭部を元に戻しながら

「聖女フィーナ、僕は君を妻に娶ってみせる! 身も心も僕の物としてみせよう!」

 高らかに宣言するジークハルト王子であった。しかし、目の前に居るのは紛れもないエルフィーネである。

 この王子も萩原と荻原を見分けられない人間である様だ。

 ジークハルト王子は満足したのかマントをたなびかせながら兵士達を従えて店外へ出ていく。


ーガラガラガラガラ!ー


 そして馬車のけたたましい音と共に去っていった。その様子を裏口の扉の隙間から見ていたフィーナは頭を抱えていた。

(なんでこんな事に……)

 また厄介事が増えてしまった。自分はアルフレッドと静かに暮らしていきたいだけなのに……

 こんな事なら王都では無く片田舎の町に引っ越すべきだった…と、いまさらな後悔ばかりが頭に浮かんでくる。


ーシュフィン!ー


 とりあえず、フィーナは再びエルフィーネとの場所を取り替え人々の列の消化に努める事にした。昨日までは負担だった治療の作業がなんだかとても楽な仕事に思えてきた。

(はぁ……)

 フィーナは心の中で溜め息をつく。これから先の生活に不安を感じたからの溜め息だが、彼女の不安が杞憂で終わる事は無く、ただただ非情な現実が続いていくのみであった。

※王子様は特殊な訓練を受けています。

 良い子のみんなはマネしちゃダメだぞ?

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