創生
どれくらいの時間が経過したのかも分からない頃、フィーナは暗闇だったはずの空間で
ーカッ!ー
突然とんでもない閃光が発生し眩い光包まれる感覚を身に受けていた。
(な、何……?)
自身の存在を維持するための神力も付きかけているフィーナは思考がまるで働いていない。
閃光が落ち着いたと思った時、何も無い空間に放り出された様な感覚をフィーナは感じていた。
ふと後ろを見ると何も無い黒い空間に間欠泉の様に吹き出す光の柱が見える。
ブラックホールは空間にどこまでも沈み込み最終的には空間を突き抜け新たな空間とのワームホールを形成していたのだった。
フィーナが見た白い間欠泉の様なモノはブラックホールに吸い込まれた物質が吐き出されたものであり、もし存在するのならそれこそがホワイトホールと呼ばれているのだろう。
ブラックホールの特異点と呼ばれた超重力の塊の姿は無い。空間を突き破る過程でエネルギーが尽きてしまったのかもしれない。
(ここは……?)
ある一方向に引き寄せられ続けていたさっきまでとは異なり、周囲の空間には星屑の様な何かが浮かんでいるのが見える。
「アル……アル? 大丈夫ですか?」
フィーナは抱きかかえているアルフレッドが無事かどうか不安になり彼に呼び掛ける。すると
「う〜ん……」
無事な様子の彼の反応にフィーナは安堵のため息をついた。フィーナは自分達の魂のサイズを元に戻していく。
(それにしても、ここは……? 私達はブラックホールに吸い込まれたのに……)
ブラックホールの中では物質は全てが特異点へと落ちていく。目の前の星屑の様に漂うなんて事が起きるはずは無い。こんな穏やかな空間があるとは考えられなかった。
(もしかして……ここは……)
フィーナは虚ろな頭を必死に動かしながら天界との連絡を試みるのだった。
「そいつらは列に並ばせとけ! フィーナの奴が帰ってきたら直ぐに対応させる!」
受話器を複数掛け持ちしながら各所に指示を出し続け
「なに? 魂が増えたり減ったりした? 知るか! いつもの誤差だ誤差!」
天界にて転生課課長代理の赤髪女神フレイアは業務に追われていた。
受話器を置いた側から直ぐに呼び出し音が鳴り響き出している。そんな折
(ツー……)
ほんの一瞬の呼び出しの後で念話が切れるアレが来た。
「あ〜五月蝿い! どこのバカだ! 発信者は……フィーナか! あいつめ!」
発信者が分かった途端フレイアは鬼の形相へと変わる。
「ノルン達を放ったらかしにして何処で油を売っている!」
怒りに任せて折り返すが何度掛けても
(この番号は念話の通じない場所に居るか……意識不明により掛かりません)
機械的な案内メッセージが繰り返されるのみであった。
「奴め! 念話で居留守とは賢しい奴だ! 直々に締め上げてやる!」
フレイアはそう息巻くとけたたましいデスクを飛び出してある場所へと向かうのだった。
「暇ですねぇ……ニャ」
多数の球形の異世界が整然と並べられているレアの仕事場である異世界管理室。そこには一人で暇を持て余している子猫のミレットが居た。
少し前にフィーナ達が揃って異世界に降りていったかと思えば、フレイアは直ぐに返ってきて仕事漬けになってるわノルンは顔色を悪くして異世界の歴史を調べたり出たり入ったりしているわ……。
天界の女神様はこうも忙しいのかと憐れみを感じる程の有り様だった。
そんなミレットが室内でいつものお散歩をしていると……
(ニャ……?)
今まではそこに無かったはずの小さな異世界が誕生していたのだった。
ミレットは元猫族で今は子猫とは言え猫の習性はしっかり受け継いでいる。
「フー! フーッ!」
突然の不審物にお尻を立てて警戒感マックスで謎の球体に敵意丸出しを披露する。
いつもと変わらない日常でないと不安になってしまう猫の習性が今の彼女には色濃く反映されていた。
ーガリッ!ー
しかし、ピクリともしない異世界に一安心したミレットがなんとなく猫パンチしてみたところ立てた爪が何かに引っ掛かったらしく
(外れないニャ! このままだと誰かに怒られる……ニャ!)
焦ったミレットが異世界に引っかかった前足を外そうとあれこれ動かしていると
「ミレット、お前ここで何してるんだ?」
ミレットの脇の下から抱え上げようとしたフレイアは
「ん、何が引っ掛かって……お前、異世界には触るなと言ってるだろう?」
異世界に引っ掛かったミレットの前足の爪を外そうと、フレイアが彼女の前足に手を添えながら慎重に引っ掛かった爪を異世界から外していく。すると……
ーコロンコロン……ー
「ん……?」
引っ掛かっていた異世界の球体が転がりフレイアの足に当たる。
「また、新しい異世界か。こいつは妙に小さいな……」
異世界が自然発生するのは珍しい事では無いのだが、異世界そのものを生み出しているのは天界では無い。
天界の神々にも預り知る事の無いさらなる上位存在の意思なのかもしれないが……それを確かめる術は彼女達には無いのだ。
「これも立派な異世界になるかもしれないんだ。玩具じゃないんだぞ」
飼い猫が遊んでいたスーパーボールを拾うノリでフレイアが異世界の球体を拾い上げると
「これ……フィーナか? こいつこの中で何やってんだ?」
ほぼ黒一色の球体の中に漂うフィーナの魂らしきモノを見つけたフレイアは
ーパアアァァ!ー
ミレットを自身の頭の上に移動させつつ異世界からフィーナ達のサルベージを始め
「こいつ、消えかけじゃないか! まったく、何して……」
アルフレッドをしっかり抱えているフィーナの魂を床に横たわらせる。
「ん、こいつ……!」
フィーナの魂が虚ろになり始めているのに気付いたフレイアは急ぎ天界提携医に連絡するのだった。




