明日の計画
「とりあえずは現地に行かないと何とも言えませんよ。広大な地下遺跡なら多少は火炎使っても大丈夫でしょうし……ニャ」
プロージットの疑問に答えるミレットは実に頼もしい存在だった。
フィーナが彼女達とまともに冒険者稼業を共にするのは初めてなフィーナは、ミレットの頼もしさに改めて感心していた。さらに
「あなた、火炎魔法が得意だったっけ? もしかしたら、地下遺跡に入るより殿として退路確保して貰う事になるかもね」
ミレットとプロージットの会話に食い気味に割り込んできたのは、冒険者として自称プラチナランクのエルフィーネであった。
自分の得意分野になると何処からとも無く現れ口を挟んでくるのは、古今東西文明レベル限らずどこでも一緒である。
「私が先頭で安全確認しながら進むからあなた達は安心して付いてきてくれればいいわ」
エルフィーネが言うには先頭での斥候は危険が危ないからベテラン超一流プラチナ冒険者である自分に任せて欲しいという事らしい。
日々の宿屋の接客の中でエルフィーネから冒険者のいろはを聞かされてきたフィーナだが、彼女と同行してダンジョンに潜るのは初めてなだけに不安が拭えない。
フィーナのそんな心情を読み取ったのか
「先輩、エルフィーネさんはあれでも実力は確かなんですよ。安心して任せられると思いますよ……ニャ」
ミレットがフォローを入れてきた。彼女がそこまで言うのだから大丈夫なのは間違い無いのだろう。
「いつだったか、ゴブリン退治の仕事の時もエルフィーネさんの指示は的確でしたからね。あの時は本当に助かりました」
プロージットからも肯定的な評価が出てきた。どうやら、冒険者としてだけならエルフィーネに関する評価は非常に高いものであるらしい。
「さ〜て、温まるぞ〜!」
「私達もお邪魔しま〜す」
尻尾洗いを済ませたメイプルとそれを手伝っていたマリベルの二人組が湯船にやってきた。
「皆さんで集まって何を話されていたのですか?」
後から会話に参加してきたメイプルが湯船に入りながら、皆に会話の主題について尋ねてきた。
「ああ、明日潜る地下遺跡についての話よ。あなた達、ダンジョン攻略の経験は?」
エルフィーネは新人二人にも先輩風を吹かせながら経験について確認し始めた。
「あなた達二人は最後尾が良いかしら。シンシアとフィーナの二人を護ってあげなさい」
エルフィーネは二人の経験を聞いてぱっぱと彼女達の役割分担を決めてしまった。
「わ、私達が最後尾に……? 私も最前線に立てます!」
「私もです! 斥候としてお役に立てます!」
決定に不服らしい二人から抗議の声が揃って上がる。しかし
「ダンジョンは一本道とは限らないし、いつ何時背後から襲われるか分からないの。もし後ろから襲われてシンシアやフィーナ達が持ち堪えられると思う?」
珍しく正論なエルフィーネの言葉にメイプルとマリベルの二人は何も答えられなくなってしまった。
「地下遺跡の明るさとか分からないし、行ってみないと判断出来ない事もあるけど……皆が生きて帰るにはさっき言った隊列で挑むしか無いと思うわ」
ここまで話したエルフィーネは何かを思い出したのか
「前衛の後ろから攻撃する時はちゃんと声掛けしなさいよね。魔法でも弓でも何でも。あと、仲間の背後に無言で近づくのも禁止。シャレにならないからね?」
主に初心者と思われているシンシアとフィーナ、メイプルとマリベルに向けて注意事項が告げられた。
エルフィーネが言うには前衛の戦士職はシルバーベアの様な相当なベテランじゃない限りは、戦闘中に視野狭窄に陥ってしまう事が少なくないらしい。
「フレンドリーファイアとか、振り向きざまに斬られたくないでしょ? 相手はこちらに気付いてないって前提で立ち回りなさい」
お風呂でのエルフィーネによる冒険者としての心得の講義は長時間に及んでしまった。
「わ、私もう上がりますね」
すっかり温泉で温まってしまったフィーナは、空気を読んで率先して温泉から上がる事にした。
大ベテランのエルフィーネに物申す事が出来るのはミレットか自分くらいしかおらず、ミレットは既に長時間の入浴でのぼせ気味に陥ってしまっていたのだった。
「まだ、話終わってないわよー!」
まだまだ先輩風を吹かせ足りないエルフィーネは不満げにフィーナを呼び止めるが
「残りは寝室でお窺いしますから、ひとまず温泉からは上がりましょう」
フィーナはそう言うと顔を赤くしてフラフラ気味なミレットを伴って脱衣場へと逃げる様に撤退していくのであった。
お風呂から上がってポカポカなフィーナ達を待っていたのは食堂に準備されていた美味しそうな夕食と、既に酔い潰れてしまった白銀の群狼の古参メンバー四人の姿だった。
ぐでんぐでんな酔っ払い達を横目にテーブルに着いたフィーナ達の前には
「うわ〜、美味しそうですね〜……ニャ」
ミレットが満面の笑顔で料理の感想を述べた。テーブルの上に準備されていたのは異世界では珍しい魚介類の鍋料理だった。
「ミレットさん、熱い食べ物とか大丈夫ですか?」
猫族なだけにその辺り不安になってしまいフィーナが確認するが
「ちゃんとフーフーすれば大丈夫です!……ニャ」
とりあえずは大丈夫であるらしい。一応、人間の時の知識は残っているフィーナには気掛かりがあり周りをチラチラと確認するが……
(皆さん、特に慣れた方は居らっしゃらない様ですね……)
見た感じ鍋奉行と思しき人物は含まれていない事に安堵する。
こういった皆で共にするメニューにおいては、あまり他者に注意されずに食事を楽しみたいのが本音なのだ。
こうしてフィーナ達はゆっくりとした夕食を摂り、穏やかに就寝する事が出来たのだった。




