王城の珍客
王城に着いたフィーナは一階の受付まで難なく通過する事が出来ていた。途中の衛兵によるチェックは顔パスであり、後はグレースとの連絡が付けば万事解決となる……はずだ。
受付係のゴーマンがグレースに確認に向かっているが、アポ無しで突然やってきてしまった事にフィーナはかなり凝縮していた。
(…………)
よくよく思い返してみれば、グレースはアルフレッド達と同じくフィーナがソーマに殺された際、天界に呼び戻されたのを目視で確認していたはずである。
アルフレッドやリーシャなら何とか誤魔化せるかと考えていたが、この世界から消え去った現実を何と説明したものか……。
「フィーナ様、グレース様に確認が出来ました。フィーナ様を玉座の間にお通しする様にとの事です」
確認が取れて良かったと安心するフィーナだったが、ゴーマンが発した玉座の間という言葉にフィーナは引っ掛かりを感じた。
いつもだったら中庭の先にある別館のグレースの自室なのだが……。
案内されている立場のフィーナは受付のゴーマンの後に続く他無い。
玉座の間は受付から近く、本城の二階がそうなっていた。考えてみたら、玉座の間に来るのは初めてかもしれない。
ーギギィ……ー
立哨の衛兵が両開きの大扉を開けるとそこは赤い絨毯が部屋の奥にある二つの玉座まで続く広い部屋だった。
(あわわわ……)
単純にアルフレッドとリーシャを迎えに来ただけの親御さん感覚でいたフィーナは予想外の展開に今更ながら面食らっていた。
受付のゴーマンに続いて歩くフィーナは自らの場違い感に完全に縮こまってしまっていた。
国王陛下から数段下がった位置まで進んだゴードンは
「国王陛下、グレース様。聖女フィーナ様をお連れしました」
そう報告すると心臓バックバクなフィーナを残し、ゴーマンは部屋の脇へとはけていってしまった。
頼みのゴーマンが居なくなってしまい、自らの場違い感に頭が真っ白になっているフィーナに
「本当にフィーナ様なのですね。確かにあの時……これはもしかして女神様が奇跡を起こして下さったのでしょうか?」
玉座の間の袖から一人の女性聖騎士がフィーナに近付きながら話し掛けてきた。
「あ、あはは……。そうですね。私にまだ役目があると言われまして……」
フィーナがこの世界のこの時代に戻ってきた理由はもう済ませてしまったのだが、ここで否定しても藪蛇になると察したフィーナはグレースに話を合わせておく事にした。フィーナがグレースに対し若干不誠実な回答をしていると
「あらぁ〜、アンタ天に召されたって聞いてたけど、やっぱり違ったみたいね〜」
玉座の間のフィーナの隣から聞こえてきたのは不躾な物言いの女性の声だった。声の方を見たフィーナが見たのは
「何よ、私は英雄として国王陛下に謁見させて頂いてるの」
「聖女フィーナ様ですね。あなたも国王陛下に御用がお有りなのですか?」
そこには先客として国王陛下に謁見中だったエルフィーネと魔王サタナエルが居た。
魔王が直々に勇者と縁のある王国に来るなど宣戦布告か何かかと勘違いされそうだが
「魔王閣下にお越し頂いたのは他でもない。戦の後始末についてなのだ。今回の魔物達の襲撃の件、魔王閣下は何も知らないそうだが……」
「管理下に無い魔物達の暴走とは言え、魔物達を統べる役目を負う魔王は責任を果たさなければなりません」
国王陛下に続いて魔王サタナエルが言葉を続ける。彼等の関心事は王都の南の平原に大量に残されている魔物達の死骸についてだった。
放置しておけば疫病の原因にもなりかねない為、早急な焼却処分が必要になる。
そこで魔王軍のワイバーン隊で死骸の処理や、逃げ出した魔物達の掃討も含め国王陛下と段取りを決めていたのだそうだ。
その段取りを最終的にどうするのか、王国側の重鎮達も含めた会議を別の機会に行うのか話し合っていたところでフィーナがやってきたという寸法であった。
このままではいつぞやのお偉いさん方が集まる会議に招かれてしまうと危惧したフィーナは
「あ、あの……グレースさん? うちの子達がこちらでお世話になっているとお伺いしまして……引き取りに来たのですが……」
先手を打って本題を伝える事にした。それを聞いたグレースは
「ああ、あの子達ですか。あなたが居なくなって大分取り乱していた様でしたので、彼の肉親であるアルヴィンに会わせようと考えておりました」
グレースの話によるとフィーナが消えた後のアルフレッドは酷く憔悴していたらしく、リーシャが励ましても上の空であったらしい。
そこで見かねたグレースにより彼の肉親であるアルヴィンに会わせようと考えたらしく……
「国王陛下、失礼ながら少々席を外させて頂きます」
国王陛下の許可を得たグレースとフィーナ、そしてなぜか付いてきたエルフィーネと共に、フィーナ達はアルフレッドとリーシャが居るグレースの自室へと向かうのであった。
玉座の間からグレースの自室まではフィーナ一人では確実に迷い果たす道のりだった。その上
「それにしてもアンタ、いきなり消えたって話だったけど心配させないでよね?」
「す、すみません……」
ただでさえグレースの後に続くのに必死なフィーナを邪魔してくるエルフィーネの存在は悩みのタネとなっていた。
「かんか……フィーナ。あなた若返って無い? なんだか私の若い頃そっくりって言うか……」
「え? さ、さぁ……?」
今のフィーナの身体は赤ん坊から人生を始めたフィーナ・アインホルンのままであり、実質十七歳である。
しかし、自分では以前の身体と今の年齢、そんなに違いがある様には思えなかった。
流石は千年以上を生きる自称ハイエルフ、亀の甲より年の功と言ったところだろうか?
そんな会話をしながら通路を歩くフィーナ達だったが、先導するグレースのお陰でどうかこうにか彼女の自室に無事に辿り着く事が出来たのだった。
「あなたに会えばあの子も落ち着くでしょう」
ーガチャー
話しながら自室の扉を開けるグレースに続いてフィーナも部屋に入るとそこには