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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
最終章 黙示録編
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日記帳

 アルフレッドの部屋で泣き腫らしたフィーナは一人、ただ考え事を続けていた。

 彼はどうして今の自分を見て、自身の事をシドと名乗り名前を偽っていたのだろうか……?

 貴族令嬢としてのフィーナ・アインホルンに本名を告げても特に支障は無かったはずなのに……。

(あれは……?)

 フィーナはふと本棚に綺麗に整えられた何冊かの本があるのに気が付いた。

 近付いて背表紙を見てみると……昔、アルフレッドの為に購入した何冊かの本が棚に立てかけられていた。

(アル……)

 遥か昔の平和だった時代を懐かしみフィーナの目に思わず涙が滲む。

 それらの本はいずれも見覚えがあるものばかりだったが、その中に一冊だけ背表紙に記載が無い見覚えの無い本があるのに気が付いた。

(何でしょう……?)

 特に何も考えずに本を手に取ったフィーナがペラペラとページをめくってみると



 最近、ようやく小麦にも実が実る様になってきた。僕が行きている間には多分緑は戻らないかもしれない。



 簡単に日々の想いが綴られたアルフレッドの日記帳らしい本だった。

(アル……たった一人で……)

 いくらアルフレッドの物とは言え他人の日記を勝手に読んでしまうのは抵抗がある。

 しかし、自分が居なくなった後の彼がどんな人生を歩んできたのか気になってしまったフィーナは日記の最初から読み始めてしまうのだった。



 フィーナさんが居なくなったその日、王都に火の風が襲ってきた。僕は何も出来なかった。全部が悪夢みたいだった。



 短く記された短い文章で書かれたそれは、淡々としたものだった。彼なりに何かをしようという気持ちの表れだったのかもしれない。

 その後のページを追っていくと、フィーナがこの世界を去ってから間をおかずに、王都を熱風が襲い壊滅に近い状態となった事が記されていた。

 アルフレッドの日記には熱風の原因は書かれていなかったが、フィーナがこの世界で見た事実を踏まえると、巨大なクレーターを作り出す程の隕石が衝突したのだと判断して良いだろう。

 サイズはクレーターの大きさから、直径一キロメートル程だろうと思う。

 今のこの世界の夕焼けの様な空も肌寒い気候も隕石による衝突の冬による影響だろう。

 アルフレッドの日記には彼が女将さん達と共にギリギリまで王都に残ろうとした様子が書かれていた。

しかし、輸送路も途絶え、付近の穀倉地帯も壊滅してしまっては何時までも王都では暮らせず、皆が南や他の国を目指して王都から離れていく様子が記されていた。その中にはリーシャやポールに関する記述もあった。



 街道沿いの宿屋で休んだ僕はワガママを言って、ここに残らせてもらう事にした。

 僕はフィーナさんと過ごした王都から離れたくなかったし、ここの小山からならいつでも王都が見えるから……。

 リーシャさんは悲しそうな顔をしていたけど、ポールが一緒だから大丈夫だと思う。どこかの国で無事に暮らしているといいな。



 王都から避難している最中にアルフレッドはこの宿屋に残る事を決めた様だった。そこからはここでの暮らしの話が断続的に記されていく様になっていた。

 自然環境が次第に崩れていき、食べ物に困る様になっていく惨状も書かれていた。

 また、アルフレッドは時たま自分の事を夢に見ていた様で、助けを求めてくる自分を助けられなくて気に病む心情などが記されていた。

(これ……まさか……)

 フィーナが他の異世界で度々危険に陥っていた事があったが、アルフレッドが日記に記していた内容とフィーナの体験はかなり酷似していた。

 だが、異世界同士で行き来したりなど出来るはずが無い。神々ですら出来ない事が自分やアルフレッドに出来るはずが無いのだ。

 日記の後半になるにつれて、アルフレッドが見たフィーナとの夢についての記述が多くなってきていた。

 それは、まるでアルフレッドがフィーナの傍らに付き従っているかの様な視点の夢の話だった。

 様々な世界でフィーナと共に行動する夢……その断片的な夢の内容はフィーナとサラマンダーが共にした日々の一幕であるかの様だった。

 夢の中のアルフレッドはあくまでサラマンダーの視点で見ているだけであり、物語を観ている感覚でしか無かったみたいだ。

 だが、夢の中であってもフィーナと一緒なのは嬉しいと綴られていた。

(…………)

 日記を読み進めていたフィーナが、そろそろ日記の最後に差し掛かるという頃になると外は暗くなり夜となっていた。つい最近の日記だろうページには次の様に記されている。



 夢の中で助けを呼んでいたフィーナさんを僕は助ける事が出来た。また、会えるなんて……でもフィーナさんは僕が分からないみたいだった。

 こんなお爺さんじゃ仕方ないだろう。僕も多分そう長くは無い。最後にフィーナさんに会えて嬉しかった。このベルを鳴らしたらフィーナさん来てくれるかな……?



 そこで日記の更新は途絶えていた。王都の物置で聞いた鈴の様な鐘の音はアルフレッドか今際の際に鳴らしたのだろう。自分が来てくれる事を願って……。

「私には私にしか出来ない事が……やらなきゃ」


ーパアアァァー


 フィーナは自身の衣装をプロムナード魔法学院の制服から収納空間に保管していたメイド服へと変更した。髪型もクラウンハーフアップからポニーテールに。

 着替えたフィーナは自分の胸に手を置くと、自身の中の一人の人格に語り掛ける。

「フィーナ・アインホルンさん、今は休んでいて下さい。貴女は必ず元の世界に送り届けますから」

 アルフレッドやこの異世界を救うだけでは無く、一人の少女として異世界を生きた貴族令嬢のフィーナをあくまで別の一人の人間として、彼女も救う事をフィーナは心に固く誓うのだった。

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